「想い」
初めて考えたことがあった。
どうして俺は生れてきたのだろう。
神を、倭を殺す為だけに生れてきたのだとしたら、何とも味気ない人生だった。
俺の人生に、意義はあったのだろうか。
倭を殺したという事実はあった。しかし何だろう、胸が空になったような感覚。
これが、「空しさ」というのだろうか。
倭の神は破壊された。
即ち其の神というものは只、何の変哲もない「恐怖」という感情で――自らを神と称した者は「恐怖」という神では有り得ぬものによって破壊された。
それで良かった筈。これで全て俺がやりたかった事は叶った筈。
なのに、如何して
「もう少し生きていたかった」
そんな無様な事を思うのだろう。
もう少し、という事はもう出来ないはずなのに。
朱色の壁にもたれ掛かっている背中や腹からは留まることなく血が吹き出ている。
朱色の壁や床にまた朱が混ざり合う。
なんとも奇妙な光景。
もう、俺に出来る事はない。
後は願うばかりだ。
人が人であるために。
神などにたよらず人の力だけで生きていけるこの世を。
世界を創り上げるのは人間自身で神なんかじゃない。
将来がどうなろうと其れは自分自身が決める事だ。
そればかり願う。
――母ちゃん、父ちゃん。
俺は後悔していないよ。
ただ、もう少し…人の温かみに触れていたかっただけ。
悪くない人生だったよ。
だから、これで良いんだよな。
全て、終わったんだ。
『もう休んでも良いんだ。アンタは私にいろんな事を教えてくれた。休んで良いんだよ』
そんな声が、聞こえたような気がした。
俺が初めて心地良いと思ったあの声。
そして人生で初めて――しあわせだと。
そう、思えた。
――彼は笑っていた。




