水の入れ物
ポニュ地方へ
なんだ、かんがと月日は流れて、三年たったある日のこと。
「火事だって。」
と、ニュースを見ていた社員が隣の社員に話しかけていた。
「どこで?」
「ポニュ地方の施設らしいよ。」
その話を聞いたリリーはすぐに言った。
「すぐにルーザの住人と話をして、川の水を分けてもらって。」
「どうするんですか?」
「ポニュまで走るのよ!」
当たり前と言う顔をしてリリーは言った。
「えええええ!」
「かなりありますよ?」
「だって、地雷は?」
「地雷は、真ん中にしかないから平気。」
「本当ですかー?」
「免許がなくて、行ってもいいなら私が行きますけど?」
リリーならやるだろうというのが、きっと社員の頭に浮かんだのだろう。
「・・・。行ってきます。」
ロイズの掛け声で、何人かの社員は慌てて出かけていった。その間にリリーはルーザ地方のほうにパソコンで地方の長と話をし、すぐに水の手配をしていた。トライ地方の為なら水は渡さないだろうが、ポニュ地方には武器を渡してもらっているというのがあるのだろう、すぐに応じてくれた。
砂漠を渡って、クレム地方からルーザ地方を経由してポニュ地方に行くには丸二日かかるが、二人一組で運転しつづけることにして、短い時間でたどり着き、その後、消火に協力した社員たちはポニュ地方から感謝状を送られたのである。
帰ってきたうちの一人、リュイ・ロードは言った。
「砂漠化って、かなり広がっていますね?」
「そうなの?」
と、リリーはびっくりしたように言った。
「ええ。ポニュはいずれ、砂漠になる地域に指定されているんだそうです。」
「そんなところに、何の施設が燃えたんだ?」
ソンが言った。
「わかりませんが、ほとんど跡形もなく燃えていましたよ。放火の疑いもあるそうだと言っていました。」
「へぇ・・・。」
「あの動物も変でしたし。」
「・・・動物とは?」
ソンは不思議そうな顔をしたので、変わりにリリーが説明しだした。
「ああ。なんか、ポニュ地方らへんの砂漠に変な生き物が進出しているみたいです。ゼラルド地方の砂漠に住む人たちも困惑しているようなんです。」
「変な生き物?」
「ええ。三、四種類くらい、動物が合体したようなもので・・・。でかけた、社員たちもよくわからないと、気味悪がっていましたよ。」
「なんだ、そりゃ・・・。」
少しつづではあるが、リリーにも話しかける人が出てきていた。
塔の建設
「ところでー、塔のほうはどうするんだ?」
企画室で、ソンはメンバーを囲みながら聞いた。
「最初、私は四角錘のようなものを考えていました。しかし、考えてみたのですが、こういう形のほうがいいと思います。」
リリーは図形を書いて見せたが、ソンにはどう見ても理解できる形ではなかったようだ。
「う・・・わかにくいんだが。」
「すみませんね、絵が下手で。簡単に説明すると、丸いケーキの上に段々小さくなってのっているかのように重なったものを八等分して切ったような形にしたいと思います。色は透明で。」
「ふむ。」
数学的志向を持つロイズの頭にはどんなもののことを言っているのか理解できたようだ。
「俺はそれを聞いても、この図形ではどんな形なのか、頭に浮かびませんがね。」
リュイが言った。
「・・・うるさいよ。早く頭脳思想空間図形機能が完成すればいいのよ!」
と、リリーは少々八つ当たり気味に言った。
「なんだそれは?」
ソンが聞いた。
「新聞、パソコンで見ていますか?想像したものが図形になってスクリーンに投影される機械ですよ。」
と、ジュンは早くもリリーの言う形を立体図にする方法を打ち込んでいた。
「・・・そんなものは出来ないほうはいいんじゃないか?」
「何でですか?」
「だって、自分の考えていることがわかるっていうのは・・・。」
と、ソンはしぶそうな顔をした。確かに、社員に黙って何か突然始めるソンにとっては必要のないものだろう。
「ま、芸術化には必要のない機械ではありますがね。」
リュイは言った。
「なんでそんなものが開発されるんだ?」
「聴覚障害と手がない人用と言われていますが、最近では育児にも使えるんじゃないかと。」
リリーは言った。
「育児?」
「あ、そっか、赤ん坊のほしいことがわかるのか。」
と、ロイズが口に出した。もうすぐ父親になるからだろうか。
「あたり。」
「ま、とりあえず、僕はどんな形か理解した。それで、置き方は?」
「カットした部分で風の影響を避けて、階段は一番上のスプリンクラーが壊れたときようですよね。上がれないと修理の仕様もないですし。」
「じゃ、人が上がれるような階段形式にするのか?でかくなるな。」
「そうですねぇ・・・。一番下の部分に水を上に持っていくポンプを設置しなきゃいけないんで、でかいほうが都合的にはいいかもしれません。」
「最初の仮説では、塔じたいに水を入れるといっていたが。あれは?」
「あれは重石なんです。水の重さで少しは砂の中に沈むことを考えていたので。」
「うーん・・・。透明な水色の塔か。」
「やりませんけどね。」
と、あっさりリリーは言った。
「・・・は?」
と、ロイズはすっきょうとな声を上げた。
「実行はしません。」
「なんで?」
一緒になって聞いていたリュイが聞いた。
「水が透明じゃないから。」
「・・・だから?」
「美学にかけます。」
「・・・。」
ジャミンは何も言う気が起きなかったらしい。黙って腕を組んだ。
「その際に美学なんか追求するか?関係ないですよね、社長。」
と、ロイズはソンの方を見つめた。
「う・・・。いや、たしか、動物保護の人たちに透明でと言った気がする。」
「言いましたよ。そこでですね、透明は欠かせません。影はできる限り作りたくありません。なんで、下に別に水を入れる場所を作りましょう。」
「下に?」
「いえ、上・・・というか、真ん中に作るんですが、たぶん、大量の水を入れたら砂の中に沈みます。」
「それは・・・どんな形で?」
と、リュイが聞いた。
「オタマみたいな形で。」
「・・・あたま?」
「オタマです。穴の開いてない・・・鍋料理で灰汁をすくうやつです。あれをでっかくしたバージョンです。で、持つ部分が二つある感じです。」
「・・・全然、理解できないのだが?」
と、ジャミンは渋そうな顔をもっと渋くした。
「どこらへんがですか?」
「鍋料理って何だ?」
と、突然ソンが言い出した。
「知らないんですか?カルナレ地方のほうの料理ですよ。」
「知らん。サザルより向こう側に行ったことがないんだ。」
「うーん・・・。」
ソンは腕を組んで考え込んだ。
「船を見たことは?」
「ない。」
「ないんですか?船ですよ?」
リュイは言った。
「リュイはシェオ出身だからあるのよ。シュオ地方とルフェ地方、ポニュ地方以外に船はないのよ。・・・えーと、・・・おわんは?」
「なんだ、それは?」
「・・・えーと・・・わかった、両手で水をすくう動作をしてください。」
と、ロイズが提案した。
「こうか?」
ソンは両手をくっつけて丸めた。
「それ!それです。それに、蓋とパイプが両端につきます。」
「ぱいぷ?」
「一つは水を入れるところです。もう一つは水を上に運ぶ機械と結びます。」
「水はルーザからでいいんだよね?」
リュイが言う。
「ええ。あそこは、氷山があるからあったかい季節になると急激に川が増量するから。」
「社長が氾濫させた川ですよね?」
「・・・そうなんですか?」
「あれは・・・あれは事故だ!」
と、ソンはむきになって言った。
「事故・・・ねぇ・・・。」
「それより、冬は?川の流れも少なくなるぞ。」
と、話を変えた。
「その冬に氾濫させたんだ。」
と、一番計画によく携わっていたジャミンが語った。
「それはまた、迷惑な・・・。」
「うるさいな。昔の話を持ち出すな。冬はどうするんだ?」
「夏の間にためた水を下の容器や補給用の車の中に入れておきますよ。」
「たりるのか?」
「たりませんよ。」
あっさりした返事にリュイは拍子抜けしたようだった。
「・・・で?」
「それで、どうするんだ?」
「水をためておく場所として階段部分を使います。ビニールの袋に入れておけば、あんまり影にはならないでしょう。」
「階段側に傾かないか?」
と、ジュンは形をパソコンで立体型に作り、それを見つめながら言った。
「上に水を送る装置が重いですからねぇ・・・それもカット側中心に作ってもらいましょう。ま、少々、傾いても、水があり続ければいいんです。」
「まぁね。」
「量の問題はどうしますか?」
「一時間に一リットルとか?」
「適当に言うなよ、リュイ。少ないって。三分に一リットルならわかる。」
と、ロイズが言った。
「それって・・・かなり大きいタンクが必要だってことじゃないか?」
「そうですね。あと、水は・・・やっぱり、ある程度はろかした方がいいかもしれませんね。」
「そんなに汚かったか?」
「ルーザの奥は工業地帯で空気があまりきれいではありませんからね。水になにが入っているか・・・ちょっと不安になりますね。」
「水は、常に供給しつづけなきゃいけないの?」
リュイが聞く。
「いや、雨季の時期というものがあるんだけど、九十%の水は残らない。あの石のせいかなぁ・・・。」
と、ジュンはパソコンで砂の成分表から目を離さずに言った。
「その水を集めることは?」
「半分に切ったパイプでも埋めておく?もしくは、箱でも埋めておく?」
と、リリーが言う。
「もつの?」
「ちょっとはマシ程度に。」
と、ジュンが雨の水分量をグラフで見ながら言った。
「うーん・・・なにで作るかだねよねぇ・・・。」
と、ソンも言い出す。
「やっぱり、ガラスより、プラスチックですかね?それとも、合成樹皮で作りましょうか?」
「素材かぁ・・・。」
「あと、何、植えます?」
「仮説では芋系って言ってなかったか?」
「それはいいんですけどね、ここの地方って芋、たべます?」
「・・・。芋って何だ?」
「・・・やっぱり・・・食べたことないんですね。」
「俺もないけど。」
「リュイはともかく、社長はねー、サザルまで行っておきながら食べてないなんて。」
「そんなことを言われても!・・・僕のせいじゃない。」
「誰も責めていませんよ、ええ。誰も。まさか、十分な植物の研究もしないで、この計画し始めたなんて、誰も責めていません。」
「言ってるじゃないか!」
「さて・・・冗談はさておき、あとは、サボテンなんかですよねぇ。」
「木とかは無理なのか?」
と、ジャミンが言い出した。
「・・・一本だけなら、すぐに倒れてしまいますよ。この砂漠の風で。まず、砂の移動を止める、つる系を植えるのは・・・いいんですけど・・・。」
と、リリーはためらった。
「なんだ?」
「塔に絡まると問題なんですよね。地面に広がって行ってもらわないと・・・。」
「塔って言う形とはちょっとずれている気がするけど。」
リュイが口を出す。
「影ができるからか?」
と、ジャミンが話を進めた。
「それもありますが、スプリンクラーに絡んだら機械部分が、終わりになりますよ。」
「修理すればいいじゃないか。」
と、ロイズが言う。
「ツルの精神は強いですよー。水さえあれば、ガンガン伸びます。」
「なるほど。だけど、君の作った仮設によると塔を囲むんだろう?大丈夫じゃないか?」
「そう考えていましたよ。でも、問題が。」
「なんだ?」
「先ほども言いましたが、私は四角錘のような形を考えていました、なので、囲むのもそんなに大きくなくてよかったのですが・・・。」
「そうか、この形ではかなり大きく囲うな。」
と、ジュンはパソコンから目を離さずに言った。
「問題はそこではありません。」
「・・・じゃあ、なんだ?」
「水をかなり遠くに飛ばさないといけないんですよね・・・。」
「?なんでだ?」
「まさか、風の吹いている方向に水を飛ばすなんて考えていませんよね?」
と、リリーはあきれた顔をした。それに気がつかなかったのか、しばらくソンはどういうことなのかを考えてから言った。
「・・・。じゃ、塔を上の部分だけを残して残り全体を囲うことになるのか?」
「ですが、それでは階段の意味がないんですよねぇ。」
「水置き場だろう?」
「では、冬に水がなくなってそこから出す時にどうするんですか?」
「別の入り口が必要になるな。」
「わかっていただけましたか?開けたり、閉めたりするのに、沈むようなドアでは困るでしょう。もし、あっても砂にどっぷり浸っていますよ。」
「・・・そんなに、ツルはあがってくるものなのかなぁ。」
リュイが言う。
「だいぶ、くるよ?最高三十メートル。」
と、ジュンはパソコンで調べた結果を言った。
「三十メートルとは?」
「ここでいう、五十シャークルくらいです。」
と、リリーもすでに調査済みだったようだ。
「・・・だいぶあるな。」
ロイズの頭にはどのくらいの長さなのかが浮かんでいるようだった。
「ええ。それに、上ではなく横に広がっていってもらわないといけないんですよねぇ。」
「階段になにかツルが覆いそうなものを置いておくというのはどうだ?」
「それはいいんですがそれ以上に伸びたらどうします?」
「・・・そんなに伸びるものか?根っこという問題もあるし、そんなに伸びつづけるものなのか?」
「・・・わかりません。シャーマン地方のほうの、植物に詳しい人にも聞いてみたんですが、コケはともかく、ツルの研究者は少なくって。」
「こうなったら。」
突然、何か言い出すのは決まってソンである。
「なんです?」
「・・・つくるか?」
「・・・植物をですか?」
と、ロイズは唖然として聞いた。
「そう。」
「レム地方とは反対ですね。」
「どこだ、それは?」
「ルフェ地方からちょっと離れた島なんですけどね。」
「それは、どう反対なんだ?」
「植物であふれてるんです。」
「いいことなんじゃないのか?空気製作に緑は必ず必要だろう?」
何が問題なんだ?とでもいいたそうな顔をソンはした。
「あまりに植物の力が強すぎて、人が住めないんですよ。」
「住めない?」
リュイも怪訝な顔をした。
「人の背丈を越えて、しかも硬すぎる植物で、上に建造物もできません。」
「挑戦はしてみたんですがね。」
「負けました。」
「そりゃ、また・・・。」
「その植物を持ってくるのはできないのか?」
「出来たら、もう言ってます。」
「できません。」
「そうなのか。」
「しかし、ヒントは得ることぐらいは出来るかもしれないですね。」
「・・・何年かかりますかね?」
「五年くらいじゃない?やってみたことがないからわからないからなんとも言えないが。」
「・・・すてきな意見ですね。」
と、リリーは微笑んだ。
「やっぱり?」
「では、いつからクレムに戻りますか?」
二人は比較的、あっさり話していたが、さすがに少々鈍いリュイでもその話の意味に気がついたようだ。
「えええ!戻るんですか?クレム地方に?え、植物改良を待つために?」
リュイが大声を出した。
「・・・そういうことになるねぇ。」
と、ロイズはため息混じりに言った。もうあきらめの境地を知っているかのように。
「ポンプも設計していただかないといけませんしね。」
「外見の透明部分も何で作るかも検討しないといけないもんな。」
と、ジャミンも言い出した。
「じゃ、社長は戻ってください。」
と、リリーは言った。
「君は?」
「残りますよ?当たり前じゃないですか。」
「なんで?」
「また、誰か来たら、誰が対応するんですか?スクリーンごしに社員が捕まっているのを見せられてもいやですよ。それにすでに仮倉庫に置いてある電力機も見てないといけませんしねぇ。」
「・・・それもそうだが。」
「社員は一人身だけ残してください。」
「なんでー?」
リュイが不満そうに言う。
「こんなところに家族は呼べないでしょう。五年間も。」
「五年とは限らないよ?」
平然と、ソンが言う。
「だから、余計に言っているんです!社長はたまにこっちに来てください。私はその間、ゼラルド地方の人たちと話し合いもありますし、ルーザ地方のほうの水質検査も必要になりますからね。」
「それもそうか・・・。わかった、じゃ、続きは植物の出来次第だな。」
「あと、水質検査も。」
「そっちは僕が行きます。妻の実家もルーザにあることですし。」
「じゃ、そっちはロイズに頼むとするか。ジャルムは僕と一緒にクレムに戻って植物研究の方に参加してくれ。」
「そんな簡単に決定しないでくださいよ、会社の移動なんですよ?」
てきぱきと話を進める全員にさすがに、リュイが言った。
「いいじゃない、なんとかなるさ。あっちには副社長を残してきたし。」
「社員は、いつ移動するんですか?」
と、さすが最高齢のジャミンはすでに移動を考えているようだ。慣れと言うものは恐ろしい。
「んー、明日からクレムの本社に通えない者から移動だな。」
「・・・明日からですか?」
「だって、ここはゼラルド地方ではあるけれど、そんなにクレムから離れているわけじゃないし、クレムの奥にすんでいる人にはきついかもしれないから・・・今から、帰ってもらうか。」
「そんな急にですか?」
「慌てなくても。リュイは残り組よ。」
「なんで?」
「一人身でしょ。」
「そうだけど・・・。」
「・・・残りたい人を本人の希望形式にしたら全員帰りたがるわよ。」
「・・・そうだな。じゃ、僕は指令をパソコンで流してくる。」
「あ、社員住所一覧はファイルに入っていますから。」
と、ジュンは声をかけた。
「わかってる。」
そして、ソン社長は半分以上の社員を移動させるために動き出した。




