第3話:開店!迷宮第十層の『絶対防御要塞(※テント)』と、謎の『精神高揚薬(※フリスク)』
エレノアを「主」として認めたことで、俺の所持ポイントは一気に五万ptの大台に乗った。
これなら、当面の食料(シーフード味)には困らない。
だが、ここは終年ジメジメした地下迷宮の第十層。
地面は硬い石畳で、座っているだけで尻が冷える。最強の魔女を護衛に迎えたというのに、この生活環境はあまりに貧相だ。
俺はウィンドウを操作し、『アウトドア用品』のカテゴリーを開いた。
日本語は読めないが、絵を見れば用途はわかる。
【ワンタッチ・ポップアップテント(3~4人用) 特価:8,000pt】
これだ! 絵では家族連れが楽しそうにこの中で寝ている。これなら床の冷たさも、迷宮の湿気も凌げるはずだ。
俺は迷わずポチった。
当然、受け取りには迷宮の奥深くにある異次元ロッカーまで行かなければならない。
今の俺には最強のATM……じゃなくて護衛のエレノアがいる。道中の魔物は彼女が眉一つ動かさずに黒剣の一閃で肉片に変えてくれたので、俺はスキップ交じりでロッカーに向かった。
無事に受け取ったのは、直径一メートルほどの平べったい円盤状のバッグだ。
俺はエレノアの前で、そのバッグから中身を取り出し、広い場所に放り投げた。
——ドォンッ!!
「……っ!!?」
次の瞬間、空中で円盤が弾け、一瞬にして巨大な空間が出現した。
骨組みを組み立てる必要などない。放り投げるだけで完成する、現代日本の技術の粋だ。
「な、なんだこれは……!?」
エレノアは、またしても腰の黒剣に手をかけ、驚愕の表情でテントを睨みつけていた。
「魔力なしで展開される、この強固な結界……! いや、結界術とは根本的に違う。異空間を固定化した移動要塞か……!?」
彼女は恐る恐るテントの生地に触れ、その質感に目を見張った。
「この布地……薄くて軽いのに、内側の温度と湿度が完全に一定に保たれている! 聖級の防護魔法でもここまでの快適性は維持できないぞ! アルト、貴様は一体どれほどの古代遺物を隠し持っているのだ……!」
(いや、ただのビニールとファイバー製のテントなんだけど……)
俺の心のツッコミをよそに、エレノアはテントを『伝説級の移動要塞』だと完全に勘違いしたらしい。
俺はさらに1,000ptで『折りたたみ式アルミテーブルと椅子』も購入し、テントの前に設置した。
LED手電筒(光の聖剣)で辺りを真昼のように照らし、シーフード味のカップ麺の香りを漂わせる。
ここに、迷宮第十層の「異世界コンビニ・アルト屋」が物理的に開店した瞬間だった。
「主よ、この要塞の快適性は素晴らしいが……先ほどから、何やら妙な気配が近づいているぞ」
折畳み椅子に優雅に腰掛け、カップ麺のスープを優雅に啜っていたエレノアが、急に赤い瞳を細めた。
「気配?」
俺がLEDの光をその方向にに向けると、暗闇の中から、ボロボロの防具を身に纏った三人組の人影が現れた。
魔物じゃない、人間の冒険者だ。
「……ひ、光だ……! 光があるぞ……!」
「おい、あそこを見ろ……! な、なんだあの白い家は……!?」
彼らは俺のテントとLEDの光を見て、幽霊でも見たかのように驚愕していた。
三人とも顔色は土気色で、傷だらけだ。どうやら迷宮で遭難し、飢えと疲労で限界のようだった。
エレノアが立ち上がろうとするのを制し、俺は冒険者たちに声をかけた。
「いらっしゃいませ。ここは迷宮第十層のコンビニ、アルト屋です。何かお探しですか?」
「こ、コンビニ……? お前、人間なのか……?」
「リーダー、おい見ろ! あの男の後ろにいるのは……指名手配されている魔王軍のエレノアじゃないか!?」
三人組の一人が、エレノアの姿を見て青ざめて叫んだ。
(しまった、エレノアがいると普通のお客さんは逃げちゃうか……?)
俺が焦った瞬間、エレノアはフッと鼻で笑い、折畳み椅子に座り直した。
「怯えるな、矮小な人間ども。今の私は、この主の護衛だ。主の商売の邪魔はせん」
「護衛……!? あの『深紅の魔女』を従える人間……!?」
冒険者たちはエレノアではなく、俺を見る目に畏怖を宿らせた。
魔王軍の幹部をガードマンに雇う、謎の超凄腕冒険者……彼らの中で、俺のステータスは勝手にカンストしたらしい。
「あ、あの……俺たちは三日間何も食べてなくて……何か、食い物を売ってくれないか? 所持金ならある!」
リーダーと思われる剣士が、俺に懇願してきた。
食い物はある。五万ptもあるからシーフード味なら売れる。
だが、俺は商売人だ。ここは地下十層。足元を見るのが当然だ。
「食料はありますが……ここでの価格は、相場の百倍ですよ?」
俺がそう言うと、彼らは絶望的な顔をしたが、エレノアの殺気を浴びて、大人しく懐から魔石や金貨を取り出した。
「これ……これしか残ってないが……頼む!」
提示されたのは、中級魔石がいくつか。換算すれば五千ptくらいにはなりそうだ。
シーフード味(148pt)と交換するには十分すぎる。
「毎度あり。では、こちらの特別な保存食をどうぞ」
俺は彼らにカップ麺を三つ渡し、お湯を入れてあげた。
三分後、彼らがシーフード味の旨味に涙を流して震え出したのは言うまでもない。エレノアと同じく、「海霊の神薬だ!」と勘違いしていた。
だが、俺の商売はこれだけでは終わらない。
彼らは食った後、再び迷宮の奥へと戻らなければならない。だが、このボロボロの体調ではまた遭難する。
「お客様、もう一点、迷宮攻略の必需品を販売しているのですが、いかがですか?」
俺はそう言って、ウィンドウの『日用品・お菓子』コーナーから、一番安くて目立つアイテムを取り出した。
【FRISK ペパーミント 特価:200pt】
日本ならコンビニのレジ横で売っている、小粒のミント菓子だ。
当然、絵だけで判断して適当に買った。
「こ、これは……?」
俺は彼らに、FRISKを一粒ずつ手渡した。
「これを食べてみてください。一瞬で疲れが吹き飛びますよ」
彼らは不審がりながらも、その白い小粒を口に入れた。
——カリッ。
「「「…………!!!!???」」」
次の瞬間、三人の顔が一瞬にして真っ白になり、その後、頭から煙が出るかのように(※ただのイメージ)目が限界まで見開かれた。
「な、ななな、なんだこれはぁぁぁ!!!???」
リーダーの剣士が、鼻から脳天まで突き抜ける強烈なミントの刺激に、絶叫した。
「鼻から脳が飛び出すかと思った……!! しかし、なんだこの爽快感は!? 霧がかかっていた視界が一瞬で晴れ、全身の疲労が完全に消失した……!!」
「俺の傷口も……痛みが気にならなくなった! これ、まさか聖級の【精神高揚薬】か……!?」
(いや、ただの超強力なミント菓子なんだけど……刺激が強すぎて麻痺してるだけだよ……)
冒険者たちは、FRISKのあまりの刺激に、これまた伝説級の魔薬だと完全に勘違いしたらしい。
彼らはFRISKの小箱(残りは二十粒くらい)を見て、目の色を変えた。
「おい、その魔薬! 全部売ってくれ! 金なら……俺のこの聖銀のナイフを出す!」
「聖銀……!?」
俺は内心でガッツポーズをした。
200pt(日本円で200円くらい)の菓子が、ミスリルのナイフに化けたのだ。
これが異世界コンビニの、そして勘違い商法の真骨頂だ!
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