表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/4

第2話:最強のATM(魔王軍幹部)と、暗闇を裂く『光の聖剣』

「それで、人間の。私の分の『海霊の恩恵(※カップ麺)』はまだか?」


迷宮第十層の暗がりの中、岩に腰掛けたエレノアが、催促するように赤い瞳を向けてきた。

先ほどまで瀕死だったはずだが、あの謎の肉とスープを平らげた途端、彼女の顔色は見違えるほど良くなっていた。恐るべき回復力だ。


だが、俺の顔色は逆に青ざめていた。


「あ、あの……エレノアさん? あれを呼び出すには、触媒として『魔石』が必要でして……」


俺は震える声で、正直に告げた。

現在の俺の所持ポイントは「2pt」。

あの白い筒を一つ買うのに148pt。三杯なら444pt必要だ。下級スライムの魔石(150pt)が最低でもあと三個はいる。


「……なるほど。等価交換の法則か。あれほどの神秘を顕現させるのだ、当然の代償だな」


エレノアは納得したように頷くと、ゆっくりと立ち上がった。


触媒(魔石)ならば、そこら中に転がっているではないか」


彼女が視線を向けた先——暗闇の奥から、地響きを立てて巨大な影が三つ現れた。

迷宮第十層の主格、『ブラッド・ミノタウロス』。

一匹でも、俺がいた銀等級パーティーが全滅を覚悟するレベルの凶悪な魔物だ。それが三匹。


「ヒッ……!?」


俺が腰を抜かしてへたり込んだ瞬間。


「我が覇道に、供物となれ」


エレノアが、刃の欠けた黒剣を軽く振るった。

——ただ、それだけだった。


魔力詠唱も、派手なエフェクトもない。

ただの物理的な一閃が、空間そのものを断ち切るかのように走り……次の瞬間、三匹のブラッド・ミノタウロスは、悲鳴を上げる間もなく綺麗な肉塊へと変わっていた。


(嘘だろ……!? これ、絶対敵に回しちゃいけないやつだ!!)


「ほら、触媒だ。拾え」


ゴトリ、と俺の目の前に転がってきたのは、拳ほどもある極上の魔石が三つ。

俺は震える手でそれを拾い上げ、誰にも見えない光る板(ウィンドウ)に近づけた。


『ピロンッ! 上級魔石を吸収しました。50,000ptチャージされました』


ご、五万!?

スライムが150ptだったのに、一気に桁が跳ね上がった!

これなら、あの白い筒が一生分買えるんじゃないか!?


俺は急いでウィンドウを操作し、『海霊の恩恵(シーフード味)』を三つカートに入れた。

しかし、ふと周囲の暗さが気になった。

ここは迷宮の深層。光源といえば、発光ゴケの僅かな光くらいしかない。これではせっかくの食事が台無しだ。


俺は50,000ptという大金(?)を手に入れた余裕から、ウィンドウを適当にスクロールした。

そこにあった、一つの奇妙な筒状のアイテム。


【強力LED懐中電灯(電池付き) 特価:500pt】


古代文字(日本語)は読めないが、絵を見る限り、光を放つ魔法の杖のようだ。500ptなら安い。俺はそれも一緒にポチった。


『ピロンッ! 購入完了。異次元ロッカーよりお受け取りください』


俺はエレノアを連れて、迷宮の奥深くに出現した異次元ロッカーへと向かった。

今は隣にエレノアがいるおかげで、これまで死に物狂いだった道中も嘘のように快適だった。


無事に到着した鉄の箱から、カップ麺三つと、黒くて軽い金属の筒を取り出す。

俺はまず、筒の絵に描かれていた通り、側面にある出っ張り(スイッチ)をカチッと押し込んだ。


——カッ!!!


「「…………!!?」」


次の瞬間、迷宮の深い闇が、文字通り『消滅』した。

一切の魔力を持たないただの工業製品が放つ、純白で直線的な暴力的なまでの『光』。

それは、真っ直ぐに伸びる光の柱となって、数十メートル先の迷宮の壁までを真昼のように照らし出したのだ。


「な、なんだこれは……!?」


俺自身が一番驚いて落としそうになったが、それ以上に驚愕していたのは、最強の魔女であるエレノアだった。


「無詠唱での極光魔法……いや、違う。魔力など一切感じない! ただの黒い筒から、これほど純度の高い『光の聖剣』を顕現させたというのか!?」


彼女は顔を片手で覆い、強烈なLEDの光から目を逸らしながら震えていた。

魔族である彼女にとって、この純白の光は本能的な畏怖を抱かせるものだったらしい。


「アルト……お前、ただの人間ではないな? 失われた神話の時代の錬金術師か……それとも……」


「え? あ、いや、ただの手持ち明かりなんですけど……」


俺が慌ててスイッチを切ると、再び迷宮に静寂と暗闇が戻った。

エレノアは荒い息を吐きながら、俺を見る目を完全に変えていた。

それは『便利な食料庫』を見る目ではなく、底知れぬ力を持つ『絶対者』に対する畏敬の念に満ちていた。


「……お前の実力、しかと見届けた。このエレノア、お前を(あるじ)と認めるにやぶさかではない」


(いや、ただスイッチ入れただけなんだけど!?)


俺の心のツッコミをよそに、俺と最強魔女の奇妙な主従関係(?)は、一本の懐中電灯によって決定的なものとなってしまったのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも「面白い」と思っていただけましたら、

下の『★』で評価や、ブックマークをしていただけると、執筆の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ