第3話:病巣の切除と、落ちてきたサナギ
ソウジは詰まった掃除機のホースを乱暴に外し、バンの荷台へと押し込んだ。
「よし、花粉の処理は終わった。次はカビの元凶、てんぐ巣病の病巣を根こそぎ切り落とすぞ!」
ソウジが再び超大型の高枝切りバサミ改のエンジンを吹かすと、轟音と共に特殊合金の刃が高速で駆動し始める。
彼は身軽な動作で世界樹の幹を蹴って足場を確保し、異常密生したほうき状の枝の塊へと容赦なく刃を叩き込んだ。
「オラァッ!」
ガガガガガガッ!という激しい切断音と共に、呪いの発生源となっていた病巣が次々と切り落とされていく。
「さ、さすが社長! 躊躇がない!」
下から見上げていた剣崎が感嘆の声を上げる。
「当たり前だ。カビに侵された枝を残しておけば、また来年同じ病気にかかる。健康な枝を残して、悪い部分だけを正確に落とすのがプロの剪定術だ」
バサァッ!
最後の巨大な病巣が切り離され、ドスンドスンと地面に落下していく。
その時だった。
切り落とされた枝の山の中から、ボロリと奇妙な物体が転がり出てきたのだ。
「ん? なんですかこれ」
剣崎が恐る恐る近づき、その物体を覗き込む。
それは、大人が両手で抱えるほどの大きさがある、美しく淡い光を放つサナギだった。
「ひぃっ!? しゃ、社長! さっきの厄災の蛾竜のサナギですよこれ! まだ生きてます!」
剣崎が悲鳴を上げながら、カバンを振り上げる。
「うわあああ! 羽化する前に燃えるゴミに出しましょう! 退治しないとまた呪いの花粉撒き散らされますよ!」
剣崎がサナギに殴りかろうとした瞬間、小さな人影がその前にドンッと立ちはだかった。
「ダメです、社長!」
両手を広げてサナギを庇ったのは、秘書のコアちゃんだった。
「コアちゃん!? どいてくれ、そいつは危険なモンスターの幼体だ!」
「違います! この子からは、さっきの蛾竜みたいな邪悪な気配が全然しません! むしろ、すごく綺麗で澄んだ魔力を感じます!」
元・神話級ダンジョンコアであるコアちゃんの感知能力は絶対だ。
彼女が安全だと言うのなら、それは脅威ではない。
「……なるほど」
木から飛び降りたソウジは、トングでサナギをコツンと叩いて観察した。
【解析完了:未知の生命反応】
【状態:羽化直前】
【特性:無害】
「益虫かもしれないからな、コアちゃんがそう感じるなら間違いない」
ソウジはトングをカチリと鳴らし、あっさりと結論を出した。
「害虫を食ってくれる益虫なら、むやみに駆除するのは造園のルール違反だ。てんぐ巣病の枝は燃やすが、こいつは保護して、後で綺麗な枝の隙間に戻してやるか」
「わぁい! マスター、ありがとうございます!」
コアちゃんが嬉しそうにサナギを撫でる。
「さて、枝の掃除はこれで終わりだ。だが、まだ安心はできねぇぞ」
ソウジは世界樹の根元、黒く変色した土壌を見下ろした。
「悪いカビが繁殖してたってことは、土壌も水捌けも最悪になってるはずだ。次は根腐れの治療と、特等席の設営に入るぞ!」
(続く)









