第1話:特等席の桜と、てんぐ巣病の病巣
春爛漫。
コンクリートジャングル東京のど真ん中に口を開ける『代々木・桜花ダンジョン』の桜並木を、クリーン・ファンタジー社の一行は歩いていた。
「あー、やっぱり春はいいですねぇ!空気が美味しい!」
人事部長の剣崎が、満面の笑みで背伸びをする。
その横で、秘書のコアちゃんがComePro搭載の配信ドローンを器用に操りながら、視聴者コメントを読み上げていた。
「『クリーン・ファンタジーのお花見配信待ってた!』『ソウジ社長のツナギ姿、春モデルですか?』って、コメント来てますよ、マスター!」
「アホか、年中同じだ」
灰坂ソウジは、肩に担いだ特大ブルーシートを担ぎ直しながら、呆れ声を出す。
タオルを首に巻き、いつものグレーの作業着。春だろうが何だろうが、現場に出る格好は変わらない。
「セシリア、ミカエル。遅れるなよ。場所取りはスピードが命だ」
「はーい、師匠!聖水の準備はバッチリですわ!」
「ソウジ様……私は、なぜお花見の場所取りに養生テープが必要なのか、小一時間問い詰めたいのですが……」
聖女と天使が、それぞれの清掃道具(?)を抱えて続く。
彼らが目指すのは、このダンジョンの中心にそびえ立つ通称『代々木の桜』だ。
それは雲を突き抜けるほどの幹の太さを誇り、地脈から絶大な魔力を吸い上げて成長した『世界樹の変異種』である。本来なら空一面を覆い尽くすほどの桜が咲き誇る超人気スポットなのだが、今年は「呪いの侵食」とやらで、花がほとんど咲いていないという。
「……あちゃー。社長、あれ見てください。全然咲いてないじゃないですか。さすがに世界樹クラスの桜ともなると、枯れ枝のスケールもエグいですね」
剣崎が、遠くに見える規格外に巨大な桜の木を見上げて眉をひそめた。
確かに、雲に届きそうな枝の先までびっしりとピンク色の蕾がついているのに、開花しているのは全体の数パーセント。それどころか、枝のあちこちに、不気味なほうき状の小枝が異常に密生していた。
「……なるほどな。呪いだかなんだか知らねぇが、こりゃ典型的な『サクラ類てんぐ巣病』だ」
ソウジは解析ゴーグル(真実の魔眼)のピントを合わせ、冷ややかに告げた。
「雲に届くほどデカい木だろうが同じだ。ほうき状の枝、花の不開花。原因はカビの一種だよ。このダンジョンの管理会社、手入れをサボりやがったな」
「えっ、カビ!?呪いじゃなくて、ただのカビなんですか!?」
「ああっ。てんぐ巣病は、放置すれば木全体に広がって枯らす、ガンコな病気だ。……チッ、お花見の前に、まずは『カビ取り』から始めなきゃならねぇとはな」
ソウジは特大ブルーシートを地面にドンッと置き、腰の工具箱から、エンジン駆動の超大型の高枝切りバサミ改を引き抜いた。
「総員、お花見の準備を開始する!宴の前に、このガンコなカビを根こそぎ切り落とすぞ!!」
(続く)









