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追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる ~「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら、世界中がパニックになっていますが?~  作者: あとりえむ
第9章:富士山大噴火

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第45話:世界一の『天空温水プール』爆誕

 ギュルルルルルッ……!

 超高圧で暴れ回っていた【ヤマタノノズル】を巻き取ると、火口の底からは不気味なほどの静寂が返ってきた。


「社長! マグマの液面が、完全に安定しました! 異常な熱波も収まっています!」


 剣崎が手元の温度計を見て、歓喜の声を上げる。

 日本滅亡の危機と騒がれた富士山の大噴火は、一介の清掃業者の「配管詰まり抜き」によって、あっけなく鎮圧されたのだ。


「ふぅ。これで一旦、ボイラーの爆発は防げたな」


 ソウジは首元のタオルで汗を拭い、大きく息を吐いた。


「だが、まだ『仕上げ』が残ってる。マグマの圧力で、配管(火口)のあちこちに亀裂が入ってやがる。このまま放置すれば、また地下水が染み込んで水蒸気爆発を起こすぞ」


「えっ、まだやるんですか!? もう十分すぎるほど世界を救ったと思いますが……」


「バカ野郎、清掃と補修はセットだ。ヒビ割れを残したまま帰る三流業者がどこにいる」


 ソウジはトラックの荷台から、ドラム缶ほどの大きさがある容器を引っ張り出した。

 中に入っているのは、ドロドロとした灰色の粘土のような物質。


「特製の最強補修材──【耐熱エポキシパテ(スライム配合)】だ」


 それは、超高温にも耐えうる特殊なエポキシ樹脂に、スライムの持つ「圧倒的な弾力性と自己修復能力」を配合したハイブリッド充填材である。

 どれほど強力な火山性微動(ボイラーの振動)が起きようとも、決してひび割れることなく隙間を密閉する魔法のパテだ。


「コアちゃん、重力操作でパテを火口の底全体に広げてくれ。セシリア、お前はミカエルに抱えてもらって、聖水で表面を滑らかにならしてコーティングしろ。空からなら未乾燥のパテに足跡がつかねぇからな」


「はいマスター! ペタペタ塗りますよー♪」


「主の御名において、美しいフラットに仕上げますわ!」


「なっ! 私の美しい翼は、宙吊り作業用のハーネスではないと言っているでしょう! 足跡をつけずに施工するためとはいえ、神への冒……ああっ! ちょっとセシリア、暴れないでください! パテが私の羽に飛び散ります!」


 文句を言うミカエルの足首にセシリアがガシッとぶら下がり、強引にテイクオフする。


 コアちゃんの【重力操作】によって宙に浮いた大量のパテが、火口のひび割れや凹凸を次々と埋めていく。


 そこに上空からミカエルにぶら下がったセシリアが急降下し、特大のコテと聖水を使って、熟練の左官職人のような手つきで表面をツルッツルに磨き上げていった。


「右ですわミカエル様! あそこの段差に塗りムラがありますわ! 急行してください!」


「私は電動ゴンドラではありませんよォォッ!」


 火口にミカエルの情けない悲鳴が響き渡る。

 だが、その甲斐あって作業は迅速に進み──数時間後。

 ソウジたちの作業が終わった火口は、元のゴツゴツとした恐ろしい岩肌から一変していた。


 ひび割れ一つない、まるで巨大なお椀のような「完璧なボウル状」へと変貌を遂げていたのだ。


「これでもう、ガスもマグマも漏れることはねぇ。撤収するぞ!」


 ソウジは満足げに頷き、軽トラックに乗り込んだ。

 こうして、クリーン・ファンタジー社の「緊急ボイラー修理」は無事に完了した。


 だが、彼らは清掃のプロではあっても、地形変化のプロではなかった。

 この「完璧すぎるパテ埋め」が、後にとんでもない副産物を生み出すことになろうとは、誰も予想していなかったのである。


 ***


 ──数週間後。

 日本の首都・東京は、かつてないほどの熱狂に包まれていた。


『ご覧ください! こちらが現在、世界中から観光客が殺到している、富士山頂の新たなシンボルです!』


 オフィスのテレビで、ヘリコプターからの空撮映像が流れている。

 そこに映っていたのは、噴火の恐怖など微塵も感じさせない、息を呑むほど美しい光景だった。


『大噴火の危機から数週間。なんと富士山の火口に大量の雨水が溜まり、さらに地下のマグマの地熱によって絶妙な温度に保温され……直径数百メートルに及ぶ、【超巨大な天空の温水プール(絶景露天風呂)】が誕生したのです!』


 完璧にコーティングされた火口(ボウル状のパテ)は、一滴の水も漏らさない最高の「浴槽」となっていたのだ。

 エメラルドグリーンに輝く温水プールの周囲には、パラソルが並び、水着姿の探索者や富裕層たちが優雅にバカンスを楽しんでいる。


「しゃ、社長ォォォォォッ!!」


 バンッ! と勢いよく給湯室のドアが開き、人事部長の剣崎が涙と鼻水で顔をグシャグシャにして飛び込んできた。

 彼の手には、分厚い契約書の束が握りしめられている。


「来ました! 来ましたよ!! 日本政府およびリゾート開発機構から、『富士山天空プールの水質管理および清掃メンテナンス』の独占契約です! け、桁が……契約金のゼロの数がとんでもないことになってますぅぅぅッ!」


「主よ、感謝いたします……! これで教会のシスターたちに、最新のD-Tube視聴用モニターを寄付できますわ!」


 セシリアも神に感謝の祈りを捧げながら、札束の幻影を見て微笑んでいる。

 国家の危機を救った英雄に対する報酬というよりは、「世界最大のプールの清掃業者」としての継続的な莫大利益だった。


「……ふん。水質管理と定期清掃は、業者の基本だからな。仕事が来たならキッチリやるだけだ」


 ソウジは契約書の束をチラリと見ただけで、再び手元のマグカップに視線を戻した。


 キュッ、と給湯室の蛇口を捻る。

 数週間前には蒸気と熱湯が暴れ狂っていた蛇口から、今は適温のお湯が、静かに、そして滑らかに流れ出ていた。


「よし。ボイラーの調子も完璧だな」


 ソウジは満足げに頷き、淹れたてのインスタントコーヒーを一口すする。

 外では世界中が「S級ダンジョンをリゾートに変えた奇跡の清掃会社」の話題で持ちきりだが、当の社長にとっては、目の前のお湯が普通に出ることの方が重要だった。


「さて、コーヒー飲んだら行くぞ。プールの『落ち葉拾い』と『塩素消毒』の時間だ」


 世界最高の清掃員は、今日もブレない。

 トングをカチカチと鳴らしながら、ソウジは新たな「現場」へと向かうのだった。


【第9部 完】

−あとがき−


お疲れ様です。

株式会社クリーン・ファンタジー代表の灰坂ソウジです。


当社の業務日報「大深度地下ボイラー・スケール除去および配管詰まり貫通工事」の顛末を最後まで見届けていただき、誠にありがとうございました。


世間では「富士山が噴火する!」と大騒ぎになっていたみたいですが、うちとしては「巨大な地下ボイラーのオーバーヒートと配管詰まり」という認識でして。ちょっと大掛かりな水回りの緊急修理、といった感じで現場に向かいました。


今回はガチガチのサビ(赤鬼・青鬼)や、油と毛髪の厄介な塊(牛頭・馬頭)に手こずりましたが、自社開発の製品が良い仕事をしてくれて、正直ホッとしました。上手くいくか、内心少しヒヤヒヤしていたんですよ。


それに、過酷な現場でしたが、社員のみんなも本当によくやってくれました。

特に火口のパテ埋めは、セシリアとミカエルのコンビに助けられましたね。


ミカエルには「私は宙吊り用のゴンドラじゃありません!」と怒られてしまいましたが……無茶な使い方をして悪かったなと思いつつ、足場のない場所でのあの機動力には感謝しかありません。


文句を言いながらも、最後はキッチリと綺麗に仕上げてくれるあたり、彼も立派な職人になってきました。


剣崎も、最初は熱さにバテて文句ばかり言っていましたが、終わってみればちゃっかり「天空プールの独占清掃契約」を取ってくるんですから大したもんです。今後は営業部長も兼任させましょう。今回は少し、みんなにボーナスを弾んでやらないといけませんね。


最後に、皆様へ水回りのお掃除アドバイスです。


【排水溝には、油をなるべく流さないようにしましょう】


フライパンの油、ついお湯と一緒にジャーッと流してしまいたくなりますよね。

でも、配管の奥で冷えた油は、石みたいにカチカチに固まってしまうんです。そこに浴室から流れた髪の毛や糸くずが絡むと、市販のパイプクリーナーでは溶かせない「悪夢の詰まり」に育ってしまいます。今回の地下ボイラーの大規模な詰まりも、これが原因でした。


油は洗う前に、キッチンペーパーやボロ布でサッと拭き取ってゴミ箱へ捨てる。これだけで、ご家庭の水回りは劇的に長持ちしますよ。


我々が偶然作ってしまった天空温水プールも、水質管理をサボればすぐに汚れてしまいます。せっかく世界中の人が喜んでくれている景色ですから、これからも気を引き締めて定期清掃を頑張っていきます。


それでは、また次の現場でお会いしましょう。

皆様のご家庭の配管が、今日もスムーズに流れますように。


株式会社クリーン・ファンタジー

代表取締役社長 灰坂ソウジ

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あなたの一日がピカピカでありますように


あとりえむ 作品紹介

地球の『受理』を以て、僕の存在を証明する。 やっぱりせかいはまあるいほうがいい 監査の魔王 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

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