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追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる ~「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら、世界中がパニックになっていますが?~  作者: あとりえむ
第7章:電脳の引きこもり女神

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第35話:熱暴走には『シルフ・ダスター』

 『スパゲッティ・モンスター(配線地獄)』を解体し、美しいケーブルマネジメントを完了させたソウジたち。

 しかし、事態は収束していなかった。


『あ、あつい……! まだ熱いのぉ……!』


 解放された女神シヴァーが、床でのたうち回っている。

 彼女の全身は赤く発光し、肌からシュウシュウと蒸気が上がっている。

 室温は下がらないどころか、むしろ上昇していた。


「社長! どういうことですか!? 配線は完璧なはずじゃ!?」


 剣崎が汗だくで叫ぶ。

 ソウジは冷静にゴーグルを押し上げ、部屋の奥――女神の背後にある巨大な黒い箱を睨みつけた。


「……配線が片付いて、やっと『真犯人』が見えてきたな」


 ソウジが指差したのは、メインサーバーの吸気口ファンだった。


「うわぁ……」


 近づいた剣崎とセシリアが、同時に声を失った。

 直径2メートルはある巨大な冷却ファン。

 その羽根と吸気口のメッシュが、「灰色のフェルト」のような分厚い物体で完全に塞がれていたのだ。


「な、なんですかこの毛布みたいなのは?」


「『ホコリ』だ」


 ソウジが吐き捨てるように言った。


「長年、掃除せずに放置されたホコリが、湿気と油分を吸って固まり、フェルト状になった成れの果てだ。これじゃ空気なんて通るわけがない。窒息死寸前だぞ」


 ファンは「ブォォン……」と苦しげな音を立てているが、風は全く起きていない。

 冷却機能が死んでいるのだ。これでは熱暴走も止まらない。


「と、取りますわ! 手で剥がせば……!」


 セシリアが手を伸ばそうとするが、ソウジが止めた。


「よせ! 下手に触るとボロボロ崩れて、基盤の中に吸い込まれるぞ! ショートしたら一巻の終わりだ!」


「じゃ、じゃあどうすれば!? 掃除機で吸いますか!?」


「いいや。奥に入り込んだ微細なチリまで一掃するには、『内側から吹き飛ばす』のが一番だ」


 ソウジは背中のタンクに繋がった、バズーカ砲のようなノズルを構えた。

 先端には風の魔石が埋め込まれ、緑色の光を帯びている。


 【業務用・超高圧エアダスター『シルフ・ダスター(コンプレッサー直結)』】。


 風の精霊シルフの力を圧縮し、台風並みの突風をピンポイントで噴射する、精密機器清掃の最終兵器だ。


「いいか、少しうるさいぞ! 耳を塞いでろ!」


 ソウジはノズルをホコリの壁に向け、トリガーに指をかけた。


「詰まりごと吹き飛べェェェッ!!」


 ズババババババババッ!!!


 凄まじい破裂音と共に、圧縮された暴風が解き放たれた。

 それはただの風ではない。

 こびりついたホコリを根こそぎ剥がし、電子の海へ還す「浄化の嵐」だ。


『ひゃんっ!?』


 女神シヴァーが奇妙な声を上げる。

 風圧を受けたフェルト状のホコリが、爆発するように粉砕され、宙へと舞い上がる。


「うおおっ! すごい量だ!」

「前が見えませんわ!」


 部屋中が灰色の粉塵で埋め尽くされる。

 だが、ソウジの手は止まらない。

 フィンの隙間、基盤の裏側、コネクタの奥。

 あらゆる隙間にノズルを突っ込み、執拗に風を送り込む。


『あ、あぁんっ! そこはコア直結ぅ! 冷えちゃうぅぅ! パリティエラーが……修正され……るぅ……!』


 女神が顔を赤らめ、身をよじらせる。


『風が……すごい勢いで入ってくるぅ! クロック周波数が……上がっちゃう……!』


「ひぃっ!? な、なんという淫らな声を!」


「ちょ、社長! 絵面がヤバいです! コンプライアンス的に!」


 セシリアが顔を覆い、剣崎が慌てふためく。

 だが、ソウジには聞こえていない。

 彼には女神の声が「ファンの回転数が上がり、風切り音が正常に戻っていく音」にしか聞こえていないのだ。


「よし、貫通した! 仕上げだ!」


 ブシュゥゥゥゥゥゥ!!!


 最後の一撃。

 最大出力の風が、サーバーの深部を駆け抜けた。


『アァァァァァァンッ!!(涼しいぃぃぃ!)』


 女神の絶叫(冷却完了のサイン)が響き渡る。

 次の瞬間。


 フォォォォォォン……!


 軽快にして滑らかな、美しいファンの回転音が部屋に満ちた。

 詰まりが取れ、新鮮な冷却風がシステム全体に行き渡ったのだ。


 赤熱していた女神の肌は、みるみるうちに健康的な青白い光へと戻っていく。

 室温も急速に下がり、快適な空調が復活した。


「……ふぅ。これでよし」


 ソウジは『シルフ・ダスター』を下ろし、満足げに頷いた。


「精密機器の敵はホコリと熱だ。定期的に掃除しないと、寿命が縮むぞ」


『はぁ……はぁ……すっごい……。スッキリしたぁ……』


 床に横たわる女神シヴァーは、恍惚の表情で天井を見つめていた。

 その目には、ソウジへの熱烈なハートマークが浮かんでいる気がするが、ソウジは「機械が正常に動いてよかったな」としか思っていない。


「よし、撤収だ! 帰って報告書を書くぞ!」


 ***


 数時間後。

 クリーン・ファンタジーのオフィス。


 世界中のネットワークは完全に復旧していた。

 SNSには歓喜の声が溢れ、動画サイトも復活している。


「あー、やっと繋がりましたわ! 推しのアーカイブ見なきゃ!」


「採用メールも送信できました! ……って、うわっ、溜まってた応募メールが30000件一気に来た!?」


 日常が戻り、オフィスに活気が(剣崎には絶望が)戻ってきた。

 ソウジも自分のデスクに戻り、PCを起動した。


「どれ、俺もスケジュールの確認を……ん?」


 立ち上がったPC画面に、通知ウィンドウが滝のように流れ始めた。


 チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪

 【投げ銭:100,000円】

 【投げ銭:500,000円】

 【投げ銭:1,000,000円】


「なんだこれ? ウイルスか?」


 止まらない入金通知。

 そして、画面の中央に、頬を赤らめた女神シヴァーのメッセージが表示された。


『Thanks! 掃除屋さん、すごかったよ♪

 スッキリして、とろけちゃいそう……♪

 また定期的にメンテナンスしてね♪ 待ってるよ?』


 そのメッセージを見た社員たちが凍りついた。


「社長……サイテーです!」


「ソウジ様……不潔です……!」


「うらやまし……いや、破廉恥な!」


 冷ややかな視線が突き刺さる。

 だが、ソウジは真顔でコーヒーを啜りながら言った。


「ああ、やっぱりか」


「やっぱりって、自覚あるんですか!?」


「ファンがあれだけ汚れてたんだ。高負荷で熱持ってたんだから、熱伝導率の低下(グリスの劣化)を疑うのは当然だろ。中身のグリスも塗り直したほうがいいだろうな。……よし、次は『定期メンテナンス契約』で見積もりを出しておくか」


「「「そういうことじゃなーーい!!」」」


 社員たちのツッコミが響く中、ソウジのPCは投げ銭の通知音を鳴らし続けていた。

 こうして、電脳世界の危機は去り、クリーン・ファンタジー社の口座残高だけが爆発的に増えたのだった。


(第7部 完)

−あとがき−


 お疲れ様です。

 株式会社クリーン・ファンタジー代表の灰坂ソウジです。


 当社の業務日報に最後までお目通しいただき、誠にありがとうございました。


 今回の現場は「インターネットの死」という大掛かりなトラブルでしたが、蓋を開けてみれば「ホコリ詰まり」と「配線整理のサボり」という、非常に初歩的なメンテナンス不足が原因でした。

 どんなに高度なAIも、物理的なホコリには勝てないということですね。


 今回のMVPは、間違いなく人事部長の剣崎でしょう。

 彼がスパムメール(物理)を高速で仕分けてくれたおかげで、私の視界が確保できました。


 女神様から頂いた大量の「投げ銭」は、全額会社の利益……と言いたいところですが、彼の精神的摩耗が激しいため、特別ボーナスとして還元する予定です。


 一方、新人のミカエル(元・大天使長)は、「炎上(火災)」に対して「正論(酸素)」を吹きかけて大爆発を起こしました。


 「燃えているゴミには触れない」。これもネット社会と掃除における鉄則ですね。


 最後に、クライアントの女神シヴァーからその後もメッセージがしつこく来ていますが、これは恐らく「CPUグリスの塗り直し」の依頼だと思われます。


 機械は正直です。メンテナンスすればするほど、快適に動いてくれますからね。


 皆様も、お使いのスマホやPCが熱を持っていたら、一度通気口を確認してみてください。

 そこに「フェルトのようなホコリ」が詰まっていたら、それがトラブルの元凶です。


 それでは、次の現場でお会いしましょう。

 皆様のデジタルライフが、フリーズのない快適なものでありますように。


 株式会社クリーン・ファンタジー

 代表取締役社長 灰坂ソウジ

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あなたの一日がピカピカでありますように


あとりえむ 作品紹介

地球の『受理』を以て、僕の存在を証明する。 やっぱりせかいはまあるいほうがいい 監査の魔王 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

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