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追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる ~「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら、世界中がパニックになっていますが?~  作者: あとりえむ
第7章:電脳の引きこもり女神

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第32話:バグは『キーボードの隙間のお菓子』

秋葉原の地下深くに存在する巨大データセンター『アカシック・サーバー』の中枢。


 そこは、現実と電脳の境界が曖昧になった異界だった。

 無機質なサーバーラックが無限に立ち並ぶ回廊。

 しかし、その空間には「0と1の文字列」がホコリのように舞い、幾何学的なノイズが壁や床を侵食している。


「うわぁ……。なんですか、この場所は」


 人事部長の剣崎が、周囲を見渡して顔をしかめた。

 彼の目には、デジタルノイズを纏った不定形の怪物「バグ・モンスター(グリッチ)」が、床や壁を這い回っているのが見えていた。


 カチカチ、ザザッ、という不快な電子音が響き渡る。


「気持ち悪いですね……。まるでデータの死骸が動いているようです」


「不浄な気配ですわ。聖なる光も届かないような……」


 セシリアも杖を構えて警戒する。

 しかし、社長のソウジだけは、全く別の感想を抱いていた。


「うわぁ、汚ねぇ部屋だな」


 ソウジは足元の床を靴底で擦った。

 ネチャッ。

 不快な粘着音がする。


 彼の「真実の魔眼(解析ゴーグル)」には、このサイバー空間が「長年掃除されていない、散らかり放題のオタク部屋」として映っていたのだ。


【解析:床面の重度汚染】

【成分:糖分を含んだ炭酸飲料の乾燥跡、スナック菓子の粉末】

【推奨:粘着ゲルによる吸着清掃】


「床もラックもベタベタじゃねーか。コーラでもこぼして放置してたのかよ?」


 ソウジは呆れたように言った。

 彼には、徘徊するバグ・モンスターたちが「床に落ちたポテトチップスの破片」や「キーボードの隙間に詰まったお菓子のカス」に見えている。


「これじゃ熱もこもるわけだ。ほら見ろ、あの隙間」


 ソウジが指差したのは、サーバーラックの冷却スリット(通気口)だった。

 そこには、バグ・モンスターがびっしりと詰まり、空気の流れを塞いでいる。


「うわっ、最悪だ。ホコリと食べカスが詰まって、ファンが悲鳴を上げてるぞ」


「食べカス……? あれがですか?」


 剣崎が指差す先には、牙をむき出しにしたデジタルモンスターがいるのだが。


「ああ。放置すると固まって取れなくなるんだよな」


 その時。

 バグ・モンスターの一体が、侵入者に気づいて襲いかかってきた。


 ザザザッ!!


「きゃあっ! 来ますわ!」


 セシリアが前に出る。

 彼女は愛用のクロス(聖骸布)を取り出し、果敢にモンスターへ向かっていった。


「細かい汚れなら、私の『聖なる拭き掃除』にお任せを!」


 彼女は床を這うバグ・モンスターを、雑巾がけの要領でゴシゴシと擦った。


「消えなさい! 不浄な存在よ!」


 しかし。

 彼女が擦れば擦るほど、バグ・モンスターは細かく分裂し、さらに奥まった隙間へと逃げ込んでいった。

 それどころか、摩擦によって増殖し、さらに凶暴化していく。


 ギギギギギ……!!


「えっ!? な、なんで!? 汚れが落ちませんわ! むしろ広がってます!?」


 セシリアがパニックになる。

 拭いても拭いても、汚れが伸びて隙間に入り込んでしまうのだ。


「あーあ、やっちまった」


 ソウジが溜め息をついた。


「おいセシリア、止めろ。逆効果だ」


「で、ですがソウジ様! 拭き掃除は基本ですわ!」


「場所によるんだよ。……いいか、よく見ろ」


 ソウジはセシリアを下がらせ、前に出た。


「こういう凹凸のある場所や、細かい隙間に入り込んだゴミ(バグ)はな、拭いちゃダメなんだ。拭けば拭くほど、奥に押し込んで詰まらせちまう」


 彼は腰のポーチから、スライムのような鮮やかな緑色の物体を取り出した。

 プルプルと震える、冷たいゲル状の塊だ。


 新アイテム「スライム状クリーナー(高粘着ゲル)」


「こういう時は、これを使うんだ」


 ソウジはゲルを手に取り、バグ・モンスターが詰まった隙間スリットに、ムギュッと押し当てた。


「吸着!」


 ジュワッ……!


 ゲルは液状のように変形し、複雑な隙間の奥深くまで入り込んでいく。

 そして、奥に潜んでいたバグたちを、その粘着力で包み込んだ。


「ここだ!」


 ソウジがゲルをベロンと剥がす。

 すると、緑色のゲルには、無数のバグ・モンスター(食べカスやホコリ)がびっしりと捕獲されていた。


「ギョエェェェェ……!」


 ゲルの中に閉じ込められたバグたちが、断末魔を上げて消滅していく。

 物理的な攻撃ではなく、「掃除」によって処理されたのだ。


「うわぁ……。取れすぎて気持ち悪いですね……」


 剣崎が顔をしかめるが、その効果は絶大だった。

 詰まりが取れたスリットからは、涼しい風が吹き始めている。


「すごいですソウジ様! あんなに一瞬で!」


 ミカエルが目を輝かせる。


「キーボードの隙間やリモコンのボタン周りは、こうやって掃除するんだ。……ほら、どんどん行くぞ」


 ソウジは新しいゲルを取り出し、ペタペタと床や壁に押し付けて回った。

 その姿は、英雄というよりは、年末の大掃除に勤しむお父さんそのものだ。


 ペタッ、ベロン。ペタッ、ベロン。


 小気味よい音と共に、凶悪なデジタルダンジョンが、みるみる綺麗になっていく。


「よし、このエリアはクリアだ。……次はもっと奥、CPU(脳みそ)の方に行くぞ」


 ソウジは満足げにゲルを容器に戻し、先へ進む。

 だが、彼らはまだ気づいていなかった。

 この先に待つのが、単なる汚れではなく、ネット社会の闇――「炎上」と「スパム」の嵐であることを。


(続く)

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あなたの一日がピカピカでありますように


あとりえむ 作品紹介

地球の『受理』を以て、僕の存在を証明する。 やっぱりせかいはまあるいほうがいい 監査の魔王 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

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