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追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる ~「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら、世界中がパニックになっていますが?~  作者: あとりえむ
第5章:クリーン・ファンタジーの夏休み

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第23話:女子会は『裸の付き合い』

 海水浴を満喫して遊び疲れた一行は、大広間で夕食の膳を囲んでいた。

 テーブルには、地元で獲れた新鮮な魚介類の舟盛りがドーンと鎮座している。


「うひょー! アワビ! 伊勢海老! 大トロ!」


「すごいですわ! こんな贅沢、バチカンでは見たこともありませんことよ!」


 剣崎とセシリアが狂喜乱舞し、コアちゃんも目を輝かせている。

 労働(掃除)の後の飯は格別だ。

 ソウジも「いただきます」と手を合わせ、一番美味しそうな中トロに箸を伸ばした。


 ――スッ。


 箸が空を切った。

 あるはずの中トロが、煙のように消えていたのだ。


「ん? 気のせいか……?」


 ソウジは首を傾げ、次はタイの刺身を狙った。


 ――スッ。


 また消えた。

 よく見ると、部屋の隅にある柱の影で、モグモグと口を動かしている「小さな影」があった。

 綺麗な黒髪の、着物を着た幼い少女だ。


「あー……。なるほど」


 食事中でゴーグルを外している彼には、その少女が「長期滞在している家族連れの子供」にしか見えていない。


「お嬢ちゃん、腹減ってんのか?」


 ソウジが声をかけると、少女はビクッとして柱の陰に隠れた。


「こらこら、怖くないぞ。……ほら、これ食うか?」


 彼は自分の舟盛りから、一番立派な伊勢海老を取り分け、小皿に乗せて差し出した。


「親御さんは温泉か? 子供だけでウロウロしてると危ないぞ」


「……くれるの?」


「ああ。掃除した後だからな、飯が美味いんだ。一緒に食おうぜ」


 少女はおずおずと出てくると、伊勢海老をパクッと頬張った。

 そして、花が咲くような満面の笑みを浮かべた。


「おいしー! ありがと、お掃除のおじちゃん!」


「おじちゃんじゃなくてお兄さんな」


「お部屋、キラキラしてて気持ちいいの! ずっと埃っぽくて息苦しかったけど、今は深呼吸できるよ!」


 少女――座敷わらしは、嬉しそうに部屋中を駆け回った。

 彼女が笑うたびに、旅館全体の運気が爆上がりし、古びた柱や床が艶を取り戻していく。


「あらあら、まあまあ」


 配膳に来た女将さんが、その光景を見て目を細めた。

 この旅館の守り神が、これほど無邪気に姿を見せるのは数十年ぶりのことだった。


 ***


 夕食後。

 女性陣は露天風呂に向かっていた。

 断崖の上に作られた湯船からは、月明かりに照らされた海が一望できる。


「はぁ~……。極楽ですわ~……」


 セシリアが豊かな肢体を湯に沈め、ほうっと息を吐いた。

 隣ではコアちゃんが、タオルを頭に乗せて月を見上げている。

 波の音だけが響く静寂の中、不意にコアちゃんが口を開いた。


「ねぇ、セシリアさん」


「なんですの?」


「セシリアさんは、社長のこと……どう思ってるんですか?」


 直球の質問に、セシリアは「ブフッ!」と吹き出した。


「な、ななな、何を突然!? ど、どうって、尊敬する師匠であり、人生の先輩であり……!」


「それだけですか~?」


 コアちゃんがニヤニヤと覗き込んでくる。

 セシリアは茹でダコのように顔を赤くし、視線を泳がせた。


「……そ、それは……確かに、最初は無礼な殿方だと思いましたわ。私の聖なる光を『ススが出る』なんて否定して……」


 彼女は湯面を見つめ、ポツリと漏らした。


「でも……あの時、コロコロ(粘着クリーナー)で優しく霊を諭す横顔を見た時、思ったんです。この方は、誰よりも世界を愛しているんだって」


「うんうん」


「普段はだらしないし、デリカシーもないし、すぐツナギで寝ちゃいますけど……。モップを握った時の真剣な眼差しだけは……その、素敵だな、って……」


 最後の方は、蚊の鳴くような声だった。

 自分の言葉に恥ずかしさが限界突破したのか、セシリアはバシャバシャとお湯を叩いた。


「あぁもう! 言わせないでくださいまし! コアちゃんだって、社長のこと好きなくせに!」


「はい! 大好きです! 私は社長に磨かれるために生まれましたから!」


「うぅ……その屈託のなさが羨ましいですわ……」


 そんな二人の「恋バナ」を聞いていた女将さんが、くすくすと笑いながら背中を流しに来た。


「ふふ、いい男だよねぇ。罪な人だ」


 女将さんは月を見上げ、どこか遠い目をした。


「あんなに丁寧に、慈しむように『場』を清められる人は、神代の昔以来だよ。……私の正体(海の精霊)に気づいていながら、あくまで『ただの女将』として接してくれる気遣いも憎いじゃないか」


「えっ? 女将さん、精霊だったんですか!?」


「おや、内緒だよ?」


 女将さんはイタズラっぽくウィンクし、コアちゃんたちの背中にお湯をかけた。

 キャッキャと騒ぐ女子たちの笑い声が、夜空に吸い込まれていく。


 ***


 一方その頃。

 男湯。


「ふぅ……。いい湯だ……」


 人事部長の剣崎は、岩風呂の端で至福の時を過ごしていた。

 男湯と女湯は高い塀で仕切られているが、夜風に乗って、先ほどの華やいだ笑い声が聞こえてくる。


『本当に、社長ったら……旅行に来てまでお掃除だなんて』

『でも、そこが社長の素敵なところです!』

『ふふ、愛されてるねぇ』


「……なんだか盛り上がってるなぁ」


 剣崎は苦笑いした。

 どうせ、あの鈍感な社長の話で持ちきりなのだろう。


「まったく、社長も隅に置けない人だ。……お?」


 チャポン。


 湯船の向こうから、誰かが入ってくる水音がした。

 部屋で晩酌をしていたソウジが、ようやく来たのだろう。


「あ、社長。遅かったですね。今ちょうど、女性陣が社長の噂話をしてましてね……」


 剣崎はニヤニヤしながら振り返った。

 そこには、月明かりに照らされたシルエットがあった。


 小柄な体躯。

 頭にはお皿。

 背中には甲羅。

 そして全身緑色。


「…………」


 剣崎の動きが止まった。

 社長ではない。

 どう見てもカッパである。

 近所の沼から遠征してきたのだろうか、気持ちよさそうに目を閉じている。


「……社長? ずいぶんと……日焼けしました?」


 あまりの現実逃避に、剣崎から意味不明な問いかけが漏れた。

 もちろん返事はない。カッパは「クエッ」と短く鳴いただけだ。


「…………」


 以前の剣崎なら、悲鳴を上げて逃げ出していただろう。

 しかし、数々の修羅場(宇宙ゴミ分別など)をくぐり抜けてきた彼は、もはやこの程度のイレギュラーでは動じなくなっていた。


 彼は深く息を吐くと、無言でタオルを手に取り、カッパの背後に回り込んだ。


「背中(甲羅)が流せていませんね」


 カッパが驚いて振り向く前に、剣崎は慣れた手つきで甲羅を擦り始めた。


「苔が溜まってますよ。これじゃあ泳ぐ時、抵抗になるでしょう」


「クエッ!?」


「じっとしててください。今、ここのヌメリを取りますから」


 ゴシゴシ、ゴシゴシ。


 剣崎は無心で甲羅を磨いた。

 職業病とは恐ろしいもので、彼は目の前に「汚れた背中」があると、磨かずにはいられない体になってしまっていたのだ。


 女湯からの楽しげな恋バナとは対照的に、男湯にはシュールな摩擦音だけが響く。


「ここ! この窪みです! ここが一番汚れてるんですよ!」


「クエェェェ~(気持ちいい~)」


 カッパはとろんとした目で脱力し、されるがままになっている。


「はっ!?」


 数分後、ピカピカになった緑色の背中を見て、剣崎は我に返った。


「俺は……慰安旅行に来てまで、なんでカッパの垢すりを……!?」


 月明かりの下、男湯には剣崎の悲痛な叫びと、スッキリして帰っていくカッパの水音だけが響いていた。


(続く)

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あなたの一日がピカピカでありますように


あとりえむ 作品紹介

地球の『受理』を以て、僕の存在を証明する。 やっぱりせかいはまあるいほうがいい 監査の魔王 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

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