8話 名前?
遅くなりましたが、更新です。
ツクモ神生活課の施設の中に入って最初に目に映ったのは広い受付と多くの人とツクモ神が行きかう光景であった。
「中もいっぱいですね」
「そうだな」
「こっちよ」
パンドラと弾がそんなやり取りをしていると先に進んでいた桜が振り返って呼ぶ。弾はパンドラに言った。
「っと。パンドラ。行こう」
「はいですよ」
弾は桜の後ろを着いて行く。人ごみの中を進んで行くと受付の端末へとたどり着くと慣れた手つきで受付用のタブレットの操作を始めた。
「……こんな所かしらね」
少しすると端末の下の方から紙が出てくる。それを回収すると桜は言った。
「さてと。受付は済ませたから呼ばれるまで少し待ちましょうか。すぐに来ると思うわ」
桜は弾達を連れて近くの空いた席へと移動する。桜は弾とパンドラを座らせると弾の頭の上を見た。
「それにしてもぐっすりね」
「やっぱり?」
桜は弾の頭の上で熟睡している妖精達を見て呟く。視界の外のために見えない弾はたずねる。
「ええ。気持ちよさそうにしてるわ」
「本当になんでなんだろうね?」
弾は頭を傾げる。
「起こさないの?」
「パンドラにも言ったけど、気持ちよさそうにしてるし、しばらくは良いかなって。問題がありそうなら起こすよ?」
「そう。無理をしてないならいいけど」
弾の反応に桜はひとまず納得すると弾達を呼びかける声が聞こえた。
「環様。105番ご予約の環様はいらっしゃいませんか?」
「呼ばれたみたいね」
「行くのですよ」
「ああ」
桜の言葉にパンドラが反応して浮き上がった。パンドラの言葉に弾も立ち上がるとたくさんある受付の1つへ移動する。
受付の方に移動すると九十九士協会の制服を着たお姉さんが明るい声で挨拶した。
「こんにちは。私はツクモ神生活課の九十九士乙種1級の原井と申します。105番の環様でよろしいでしょうか?」
「はい。予約していた環です」
桜が代表して答える。パンドラは原井の自己紹介に頭を傾げた。
「乙種? 1級?」
「はい。九十九士の中での階級になります。戦闘もこなせる甲種とほんの少しだけ制限のある乙種に別れていてその中でも上から1級~3級の免許があるんです。細かい説明は後程お渡しする資料をご確認ください」
「なるほど。説明ありがとうです」
パンドラの疑問に原井は丁寧に答える。疑問が解消された様子のパンドラを見てから原井は正面の席の方に手を向けながら言った。
「こちらの席へどうぞ」
原井の指示に従って桜、弾の順に席に座る。パンドラは弾の目の前の机の上にゆっくりと着陸すると原井はパンドラと弾を見てから口を開いた。
「電話でお話は聞いていましたが、本日はツクモ神である彼女の登録と彼女にそっくりな娘さんの検査でよろしいでしょうか?」
「はい」
原井の言葉に桜はうなずく。原井は机の下から書類を取り出した。
「それでしたらまずは登録の方を先にしましょうか。ツクモ神様。貴女にお名前はなんですか?」
原井はパンドラにたずねる。パンドラはうなずいた。
「はい。私はパンドラ。ダンボール箱のツクモ神です」
「……パンドラ様ですね。パンドラ様。最初からお名前を持っているとのことですが本当でしょうか?」
原井はパンドラにたずねる。パンドラは疑問に思いながらもうなずいた。
「えっと? 私の名前は最初からパンドラですよ?」
「……嘘は言っていないみたいですね。少々お待ちください」
原井はパンドラの話を聞いてから笑顔のまま席を立つ。そのまま受付の奥へと姿を消すとパンドラは頭を傾げた。
「どうしたのでしょう?」
「ああ。なるほど。そう言う事ね」
受付をしていた原井が姿を消した事に桜は理由を察した様子でつぶやく。理由の分かった桜にパンドラはたずねた。
「サクラ。何かわかったのですか?」
「ええ。恐らく別の人かツクモ神一緒に対応に出てくるわ」
「なぜ?」
桜の言っている内容にパンドラは頭を傾げる。同時に原井が消えた扉の方から声が返って来た。
「それはツクモ神の貴女が名前を持っているからですよ」
パンドラ達は声の方を向く。そこにはパンドラと同じ位の大きさの十二単姿のツクモ神と彼女を手のひらに乗せた原井がいた。
「お待たせしました」
原井はそういうと手のひらのツクモ神を机に置く。
「彼女は?」
「こちらはカグヤ姫様です。彼女は生活課の担当ツクモ神になります」
「こんにちは。カグヤと申します。ここの担当であり竹のツクモ神をしています」
「竹? あの植物のですか? あ。私はパンドラです」
同じツクモ神であるパンドラは名乗りながらカグヤにたずねる。カグヤはそれにうなずいた。
「はい。その植物の竹です。竹の中から見つかったという物語にあるようにこの私は竹を自由に操れます。他にも月に属するカグヤとかもいますね」
「あれ? 複数人居るのですか?」
パンドラはたずねる。カグヤは丁寧に答えた。
「はい。私は本体の分身。分霊となります。一部のツクモ神が分霊を作り出せるのはご存じでしょう? 」
「そうですね。ああ。なるほど。この国では分霊を国の要所に置いているのですね」
「はい。ここのツクモ神生活課では私が担当しています」
パンドラの言葉にカグヤがうなずく。パンドラとカグヤの話について行けないのか弾は困った表情でたずねた。
「えっと……それでなんでツクモ神のカグヤ様が顔を出したんだ?」
「そうですね。それはパンドラ様。彼女が最初から名前を持っているからです」
弾の疑問にカグヤが答える。
「名前?」
「はい。名前の有無の差は大きく関係しています。まず、ツクモ神に基本的に名前はありません」
「ないのか?」
弾が頭を傾げる。それにカグヤはうなずきながら言葉を続けた。
「はい。あっても物であれば普通名詞……同じ種類に属するものをひとまとめに呼ぶ名前、人以外の種族であれば種族の名前がそのまま使われています。発生したて……もしくはこの世界に来たばかりのツクモ神は基本的に自我の薄いかほぼないのがほとんどです」
「そうなのか?」
「そうなのです。名前を得る事で初めてツクモ神はしっかりとした自我を持ち始めるのです。そういった名前を与える契約を結べたり、名前のあるツクモ神との契約を結べる人間が今でいう九十九士と呼ばれています。そういった契約を悪用した犯罪を行う人間やツクモ神もいますが、今回の話とはズレるので飛ばします」
「ん? じゃあ最初から名前を持っているツクモ神もいるのか?」
弾は疑問を口にする。それをカグヤは肯定した。
「鋭いですね。数は少ないですが、ツクモ神の中には最初からはっきりとした自我と名前を持つ者達がいます」
「それがパンドラやカグヤ様という事か?」
カグヤの話から弾は推測を口にする。それにカグヤは笑顔で答えた。
「正解です。神話や古い逸話、物語などにある存在はその話通りの力と共にこの世ではないどこかで過ごしていたり、この世界のどこかで隠居してたりします。もちろん私のように人に力を貸しているツクモ神も多くいますが、どこの世界でも悪い事を考える存在はいますから」
後半の部分は少し言い辛そうにしながらもカグヤは言い切る。弾は少し悩みながらもうなずいた。
「なるほど? それで名前を持っているパンドラを警戒してたって訳か」
「そうです。名前を持っているツクモ神の力は一歩間違えればそれこそ天変地異やこの星の崩壊に至るレベルですから最低でも時間を稼げるモノが出るのは当然です。まぁ、今回はそこまで警戒しなくても良くて一安心ですが」
「そんなに早く決めてもいいのか?」
カグヤは緊張を解いた様子で答えると弾は頭を傾げる。カグヤは警戒を解いた理由を答えた。
「はい。あなたやあなたの母君と一緒過ごせている事。特に洗脳などの悪辣な手段はとっていない事。他神話における明らかな悪神の名前のリストには入っていない事。何よりもあなたの頭の上の子達が一切警戒していないのが一番大きいですね」
「そういえばずっと寝てたな」
こうして話している間も一切しゃべることなく眠っている妖精達の事を思い出す。今も話したりうなずいたりしているはずなのに一向に起きる気配のない存在についてたずねた。
「この妖精達は九十九士協会に関係あるのか?」
「はい。この子達は一応九十九士協会の職員の精霊達です」
「妖精じゃないんだ」
ずっと妖精だと思っていた存在は妖精ではなく精霊であった事に弾は驚く。
「はい。本来の姿だとその属性そのもので人には認識できないので妖精を模した姿を取っているだけです。彼女たちは悪意には人一倍敏感です。そんな子達が全員安心しているという事はそれだけ善性が強いという事が分かります。そんな子を警戒し続ける気はありませんよ」
「そうなのか」
カグヤは微笑みながら説明すると弾は少し照れる。カグヤは弾の頭の上の方を見た。
「はい。普段はイタズラ好きで生意気なのですが、珍しくかわいい姿を見れたので満足です。ですが、職務を放棄して良い理由にはなりません。ほらっ! 起きなさいっ! ティーに言いつけますよ」
カグヤが弾の頭上の精霊達に一喝する。その声に精霊達は飛び起きた。
「ひっ! ママに報告ダけは!」
「戻ルよ」
「ワー。怒っタ」
「ねむイ……。まだいちゃダメ?」
「一応、お客様なので各自仕事に戻ってください。終わったら私の机にあるクッキー缶のクッキーを食べてもいいですから」
カグヤがそう言うと最初に眠っていた精霊以外がキビキビとした様子で起き上がった。
「クッキー!」
「ハヤク。はやク」
「行くヨ」
「えぇ。ここデ寝てチャダメ?」
「「「ダメ!」」」
「あァれェ~」
精霊たちは眠ろうとしていた1人を抱えて弾の頭の上から騒がしくしながら飛び出して行く。それにカグヤは頭を抱えた。
「はぁ。すいませんね。もう少し落ち着きを持ってくれたら良かったのですが……」
「いいよ。それよりもパンドラと俺は何をすればいいんだ?」
「そうでした。原井。礼のアレを」
弾が話を戻すとカグヤは原井に指示を出す。原井はうなずくと机の下から紙とペンを出し、ジャケットのポケットから小さな指輪を取り出した。
登録や検査等のため少し真面目感じになっています。




