5話 もしかして着せ替え人形にするつもり?
弾がショッピングモール・アズサに入ってから最初に感じたのは数多くの視線であった。
「うぅ……なんだか凄く見られてる気がする」
弾が恥ずかしそうに言って周囲を見る。気のせいではないのか弾の視界の先では老若男女問わず物珍しそうな表情とボーっとした表情が溢れていた。
弾の視線に気がつくとお客達は少しだけ気まずい空気と共にすぐに視線を逸らした。
「ふふっ。今の弾ちゃんは可愛らしい姿をしてるから見惚れていたみたいね。それに外国の綺麗な子が居たら弾ちゃんも気になるでしょ?」
「……もしかして俺の事言ってるの?」
「そうよ。パンドラちゃんそっくりという事は弾ちゃんも外国のかわいらしい女の子にしか見えていないという事よ」
「っ!?」
弾の言葉に桜がうなずく。弾は恥ずかしくなったのか抱えていたダンボール箱で顔を隠した。それを見た桜は軽く笑みを浮かべてから言った。
「ほらほら。もっと堂々と背筋を伸ばしなさい。オドオドしてる方が目立つわよ」
「……うん。分かった」
桜が優しい言葉でそういうと弾は顔を出してうなずく。弾が背筋を伸ばすと同時に気まずそうにな雰囲気を出していた周囲の視線が少しだけマシになる。
弾が落ち着いたのを確認すると桜は提案した。
「さてと。九十九士協会での手続きまでは時間があるからそれまでに弾ちゃんの服を何着か購入しないとね」
「服なんて家にある上着と今着てるのと同じ様な服を何個か買って着回すとかじゃダメなの? めんどくさいんだけど」
弾がそう言うと抱えた箱の中のパンドラが抗議するように箱を揺らし、桜は真剣な顔で頭を左右に振った。
「それはダメよ。そもそも男の子の時を大きさも体格も違うんだから新しく用意しないと。特にズボンとかはずり落ちちゃうわよ。それに男女関係なく見た目は大事なんだからしっかりとおしゃれしないとダメよ」
「…………それで本音は?」
弾は母である桜を疑ったようすでたずねる。桜はあっさりと答えた。
「ふふっ。やっぱりかわいい我が子を着飾らせたいじゃない。家って男所帯だから女の子が居たらやってみたかったのよね」
「やっぱり……」
桜はワクワクした様子でそう答えると弾は呆れた眼で見る。桜は笑顔で言った。
「ふふふ。とにかく行きましょうか。ここよりもお店の方が視線が少なくて済むわよ」
「……うん」
好機の視線にさらされ続けるのは嫌なのか弾は桜にうなずいてから後ろを着いてく。
桜について行きながらエスカレーターに乗る。そのまま2階へあがると目的地である『ドリームメイツ』と書かれた服屋へとたどり着いた。
「いらっしゃいませ」
中に入ると様々な服が所せましと並べられた店の奥から女性の店員が出て来て迎える。店員は笑顔で桜と弾に言った。
「本日はどのような服をお求めでしょうか?」
「この子の服が欲しいの」
桜が弾を前に出しながら答える。店員は弾を見て明るい笑顔で答えた。
「わぁ。妖精さんみたいでかわいらしいですね。外国の子ですか?」
「いいえ。私の子よ。ツクモ神案件よ」
「なるほど。そう言う事ですか。少しお待ちください」
桜がそう言うと店員は深く詮索はせずに周囲を見る。お客がいない事を確認すると店の外に移動して立て札を置く。
すぐに戻って来ると店員は2人に向かって言った。
「これで大丈夫ですよ。ツクモ神のお客様も出て来ても大丈夫ですよ」
「「……」」
店員の言葉にパンドラは出てこようとするが、それを弾は箱を抑えた。弾が出れないように抑えて警戒している様子を察したのかパンドラもすぐに大人しくなる。
「言ってよかったの?」
「ふふふ。パンドラちゃんは出しても大丈夫よ」
「本当に?」
「ええ。このお店は九十九士協会と提携を結んでいるお店よ。事前に協会の方から聞いておいたのよ。だから大丈夫よ」
「……分かった」
桜の言葉を聞いた弾はダンボール箱のフタ部分を抑えるのを止めて開ける。弾が明けたのに即座に反応してパンドラが小さいダンボール箱に乗った状態で浮かんで出て来た。
「話は中から聞いていましたが、もういいのですか?」
「みたいだ」
パンドラがたずねると弾はうなずく。パンドラを見た店員は笑顔で言った。
「なるほど。凄いですね。ここまでそっくりだとツクモ神案件で間違いなさそうです」
店員は興味深そうに弾とパンドラを見比べる
「驚かないんですね」
「それはそうですよ。希少ではありますが、ツクモ神の力の中には人の姿形変える事の出来るのもいますから。それが一時的にせよ永続にせよ腕の数や耳と尻尾、翼といった特徴から果ては見た目の年齢や性別まで様々な力を持っている場合が多いので慣れているだけです。今回はその小さいツクモ神さんの姿に変えられたと言った所でしょうか? 九十九士協会の方には連絡されました?」
店員がたずねると桜はうなずいた。
「ええ。連絡は入れているわ。ただ、元が男の子で家が男ばかりだから女の子の服とかがなくてね。協会の方にたずねたらここを教えてくれたのよ」
「なるほど。そう言った事情であれば普通の女性用の服のお店はハードルが高いですよね。分かりました。お任せください」
桜の説明に店員がうなずく。店員は弾の方に向くと屈んでから視線を合わせて言った。
「私の事は店員さんとお呼びください。今回は災難でしたね」
店員が優しく微笑みながらそう言うと弾は上ずった声で言葉を返した。
「は、はい」
「弾。緊張し過ぎですよ」
「しょ、しょうがないだろっ! 大人なお姉さんと話すとなるとどう話せばいいのか分からないんだよっ」
弾はパンドラに対して小さな声で言い返す。パンドラは心外といった様子で主張した。
「私も立派で大人なお姉さんなのですが?」
「パンドラは……その………うん……」
「むぅ。その反応が既に答えなんですよっ」
弾が言い淀むと不服そうにパンドラが頬を膨らませる。弾は言葉を続けた。
「それに一緒に居ると約束した相手にずっと緊張した状態のままというのも変だろ? ……もはや家族みたいなモノなんだし」
「……まぁ、今回はコレで許してあげましょう。ですが、次は怒りますからね」
「分かった」
弾の言葉にパンドラは渋々といった様子で許す。その様子に弾は安堵の息をつく。それを見ていた店員は言った。
「それではまずはどのサイズが合うかの測らせてもらいますね」
「えっ?」
店員はそう言うとメジャーを取り出す。行っている事が理解できないのか弾は思わず聞き返す。
「大丈夫ですよ。男性と女性で測る箇所は少し異なりますがすぐに終わりますから」
「え?」
「さぁ。試着室のあるこちらへ。元が男性でも今は女の子の体ですからみだりに晒してはいけません」
そう言うとあっという間に試着室へと案内されてカーテンを閉められる。
「まずは身長からですね。149cmと。バンザイしてください。はい。少し服を上げますね。他の数字の詳細はこうで……トップとアンダーは———と。靴のサイズは22くらいですかね。はい。ありがとうございました。終了ですよ」
「え?」
弾が呆けている間に手際よく店員が弾を計り終える。あまりにも早く終わったことに弾の思考が追いつかなかった。
「あら。速いわね」
呆然としている弾を横目に店員は桜の方へ移動すると桜が少し驚いた様子で答える。店員は自信満々で答えた。
「はい。測るのは得意なのですよ。胸のサイズはA。服のサイズは子供の150か大人のSサイズで大丈夫です。靴は22くらいがオススメです」
「あら。そこまで調べてくれたの? ありがとうございます」
店員に対して桜は礼を言う。それに対して店員は店のタブレットを操作しながら答えた。
「いえいえ。今回のお客様のサイズが分からないと服の紹介が出来ないので。それでですね。お店の服のラインナップとしてはこんな感じになります」
そう言うと操作していたタブレットを桜に見せる。そこには弾のサイズに合った様々な服の画像が並んでいた。
「結構色々あるのね」
「はい。このくらいの大きさの子はお洒落に興味津々な子が多いですから」
「これなんか良さそうね」
「お目が高いですね。こちらなんかもどうでしょうか?」
「あら。そっちも良さそうね」
桜と店員が盛り上げる。その様子にパンドラも中に入って行った。
「うぅ。2人共ズルいですよ。私も選びたいです!」
「ええ。こちらにいらっしゃい」
盛り上がる3人に置いてけぼりにされた弾は嫌な予感に襲われる。そっとその場から離れようとする。
しかし、その途中で服を選び終えたのか店員が店の奥へと消えて桜とパンドラがこちらに振り向いた。
「弾ちゃん」
「弾」
「……もしかして着せ替え人形にするつもり?」
弾は一歩後ずさりながらたずねる。その言葉に2人は笑顔でうなずいてから言った。
「「お着替えの時間よ(ですよ)」」
桜とパンドラの声が揃う。有無を言わせない雰囲気に弾はがっくりと肩を落とした。
「……はい」
弾がうなずくと桜とパンドラはうなずきあった。
「ふふふ。楽しみね」
「ですね。腕が鳴りますよ」
「服を持ってきましたよ」
店員が服を掛けたキャスター付きのハンガーラックを押して戻って来る。ふんわりした雰囲気の服や少しパンクなカッコイイよりの服、ボーイッシュな感じの服等様々な服が掛けられていた。
パンドラは桜の肩に乗ると桜は弾の手を掴んで言った。
「さぁ」
「お着替えの」
「時間ですよ」
「こちらが試着室になります」
「……」
桜、店員、パンドラに引かれて弾は拒否する間もなく試着室へと連れて行かれる。その後、弾はしばらくのあいだ着せ替え人形として小さなファッションショーを繰り広げるのであった。
服屋でのやり取りのお話。ファッションショーについては慣れない女物で恥ずかしそうにする初々しいのも好きですが、もう少し慣れて来てからの方が面白そうなので飛ばします。




