25話 何というか
スーパーに入ってからしばらくすると何事もなくタマとパンドラは出て来た。
「無事に卵は買えましたね。後は帰るだけですよ」
「ああ……」
移動しながらパンドラがタマに話しかけるとタマの方が何とも言えない表情で返事をする。パンドラはたずねた。
「どうしました?」
「卵は買えたんだが……なんだか俺を見る人の目。おかしくなかったか?」
「そうですか? 来るときそんなに変わってない気がするのですが?」
タマの言葉にパンドラは不思議そうに頭を傾げる。タマは感じたことを口にした。
「何というか行くときよりもギラギラしてるというか……獲物を見つけたような……」
「なるほど。つまり、モテ過ぎて辛いという事ですね」
パンドラはタマの言葉から察した様子で答える。それにタマは微妙な表情で答えた。
「モテ過ぎって……。そうなのか? スーパーの中でそんな不審な視線がいっぱいあったら誰だって不安になるだろ? ん?」
タマが不満をこぼすと背後から何かがぶつかる。背後を見ると小さな女の子がタマに抱き着いていた。タマは引きはがそうとするが、抱き着いてきた女の子はうまくタマの力の入り辛い場所に移動して抵抗する。
引きはがせない事を悟ったタマは困った様子でパンドラにたずねた。
「パンドラ。どうしよう?」
「卵は私の箱の中に入れておきましょう。それでたずねるのです」
「わ、分かった」
パンドラの言葉にタマはうなずくとパンドラの入っている箱に卵を入れる。両手が空くとタマは背後に振り向いてから困惑した様子で抱き着いてきた子にたずねた。
「ど、どうしたの?」
タマは困惑した様子で抱き着いてきた子に優しくたずねる。少女は顔を上げてから言った。
「連れて帰る」
「へ?」
「連れて帰るの」
有無を言わさない一方的な言葉にタマはさらに困惑する。周囲を見ると母親らしき人物が困ったような表情でオロオロしていた。
「えっと……この子のお母さんですか?」
「は、はい。ウチの子が申し訳ありません。ほら。離れてちょうだい」
「やーっ!? 持って帰るのっ!? そのまま一生お世話するのっ!?」
「ダメですっ!? よその子は持って帰ってはいけませんっ!?」
女の子の言葉に母親が叱った。同時に女の子を引きはがそうとするが、必死に抵抗する。しばらくして何とか引きはがすことに成功すると母親が暴れ回る子供を背中からしっかりと捕まえてから言った。
「すいません。抵抗がすごいので今の内に逃げてください」
「あ、ああ。分かった。ありがとう」
タマは何とも言えない表情でそう言うと母親にうなずく。タマは女の子に背を向けて逃げ出した。
「あーっ!? 逃げちゃダメェェェ」
「……」
叫ぶ声が聞こえるが、タマは振り返ることなく早足で逃げる。そのまま商店街の出入口までたどり着くとタマはようやく動きを緩めた。
「ふぅ。ここまでくれば流石にすぐにはこれないだろ。怖ったな」
「ですね。後を追ってくる影はないのです」
パンドラは女の子が追いかけてくる様子がない事を確認してからタマに伝える。タマはパンドラに礼を言った。
「ああ。教えてくれてありがとうな」
「いえいえ。それにしてもかなり情熱的でしたね」
「あれは情熱的なのか? それよりも様子がおかしいという感じだったんだが?」
パンドラの言葉に疑問を覚えながらもタマは思った事を口にする。それにパンドラはうなずいた。
「そうですね。何というか。我慢が出来てない様な感じでしすね。あ。タマモの呪いですよ」
「そういえばなんか言ってたな。モテモテになるって奴だっけ?」
「そうですよ。多分ですが、魅了の力を強化したみたいです。それが原因ですね」
「魅了? 呪いってそんなことできるのか?」
パンドラが納得した様子を見せる反面でタマは頭を傾げる。パンドラは説明する為に口を開いた。
「出来ますよ。強力なものではないのですよ。元々ある人を虜にする力をほんの少しだけ強めているのです。せいぜい初対面の人でも好意を抱きやすくする程度なのです」
「そうなのか?」
パンドラの説明でそこまで激しくない事を理解するとタマは周囲への警戒を弱める。パンドラは言葉を続けた。
「本当に強力な魅了はこんなのじゃ済まないのですよ。美の女神とかが放つ本気の魅了とかは虜にした相手が全てを差し出してきますからね。それで国が滅びたとか戦争が起きたと普通にあるのですよ」
「怖いな」
パンドラの言葉にタマは思った事を口にする。思った反応ではなかったのかパンドラは思わず言い返した。
「軽いですね」
「だってスケールが大きすぎて……何というか想像し辛いんだもん」
タマが素直に答えるとパンドラは考え込む。少しするとパンドラは話を切り替えた。
「むぅ。つまりは気にするほどの事ではないのです。さっきの子供は欲望に素直なので効きが強かったのでしょう。普通の人には少し好意的に見られやすくなる程度なのです」
「そうなのか。これってずっとなのか?」
先程みたいな状態が起きるのは嫌なのかタマはパンドラにたずねる。パンドラは答えた。
「この手の呪いはそんなに長続きはしないのです。おそらくは夕方くらいまでだと思うのですよ。さっきの子みたいに欲望に素直な人ですぐに行動に移す様でなければ問題ないのです」
「へぇ。じゃあ、あそこの人とかは問題ないのか?」
パンドラがそう言うとタマはパンドラの背後の方を指す。パンドラはタマの指す方をみると建物の影から他の人に見られない位置で不審な男がタマとパンドラを見ていた。
「はぁ………………はぁ。はぁ。素晴らしい光景だ。美少女と妖精さんがこっちを見てる。あっ」
視線を向けた先で若い男がもの凄く興奮した様子でしゃべった後に恍惚とした表情を見せる。耳も良くなっているのか離れていて声も小さいはずなのに男の言葉がはっきりを聞き取れるとパンドラは音もなくタマの方へ向いてから言った。
「少し危ないですが、手を出してこないなら無視するのです」
「……あれを無視するのか? 難しくないか?」
タマは難しい顔をしながらたずねる。パンドラは言い聞かせるように答えた。
「下手に反応すると余計にタチが悪くなるので刺激しないのが一番です。無視して帰るのです。いいですね?」
「わ、分かった」
パンドラはタマの顔に近づきながらそう言うとタマはうなずく。パンドラは言った。
「さぁ。帰ってオムライスを作ってもらうのですよ」
「そうだった。オムライスッ!? こうしちゃいられねぇよ。帰るぞ。パンドラ」
「はいなのですよ。………………下手に教えるよりもご飯で釣った方が早かったのです」
「ん? 何か言ったか?」
「何でもないのですよ。早く帰りましょう」
「そうだな。オムライスッ♪ オムライスッ♪」
タマはパンドラの言葉で昼食の事を思い出すと先程の女の子や不審な男の事など忘れた様子で上機嫌にオムライスを口ずさみながら動き始める。
そんな反応に釈然としない様子でパンドラは小さくつぶやくとタマの後をついて行く。このまま何事もなく帰宅すると桜特製のオムライスを堪能するのであった。
花より団子なお話。




