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23話 なんで抱きしめてるの?

 灰となって消えて行く鵺を眺めながらタマは言った。


「やった……のか?」

「うむ。よくやったぞ。小娘。お主のおかげで鵺を祓えたわ」


 完全に消えたのを確認した後にタマがつぶやくと聞いていたのか洋子が陽気に笑いながら褒める。タマは小娘と言われたことが気に入らないのかムスッとした表情で言い返した。


「小娘じゃない。タマだ。えっと……葛葉(くずのは)さん」

「ふむ。気が強い子じゃな。いいじゃろう。タマじゃな。だが、残念じゃの。私はヨウコではないぞ。私は玉藻(たまも)。代々続く九尾の狐の1体じゃよ」


 玉藻がそう名乗るとタマは口を開いた。


「そうか。よろしくな」

「ワシの事は玉藻と呼ぶが良い」

「じゃあ玉藻さん。鵺は死んだのか?」


 タマがたずねると玉藻は笑った。


「カカ。んな訳なかろう。奴は殺せんよ」

「殺せないのか?」


 タマは頭を傾げる。


「奴は未知への恐怖や(おそ)れという概念が獣の形になった存在じゃからな。生物が全て感情を失うか絶滅しない限りは死なんよ。さっきみたいに一時的に殺すことはできても時間が経てばどこかで復活するだろうよ。奴は執念深いから復活したらワシとお主を狙ってくるじゃろうな」

「うぇ……まじかよ」


 玉藻は楽しそうに答えるとまた襲ってくるという話を聞かされたタマは渋い顔をする。その表情に玉藻は嬉しそうに言った。


「カカカ。こういう刺激を楽しむのもまた一興という奴じゃな。とはいえ何もなければ復活までは数十年から数百年はかかるじゃろうがな」

「しばらくは大丈夫なのか。よかった」


 玉藻の補足にタマは安堵する。玉藻の表情が唐突に変わった。


「もういい?」

「うむ? なんだ。ヨウコか。もう少し若い女子と戯れたかったんじゃが?」

「むっ。私も若いよ?」

「主は契約者じゃろうが。うぐぅっ」


 玉藻の言葉が気に入らなかったのか淡々とした声でそう言うと玉藻が苦しみ始めた。少しすると洋子の中から狐耳と九つの尾を持つ半透明な美女が飛び出して来た。


 美女は恨みがましい表情で洋子に言った。


『むぅっ。強引に制御を奪おうとするな。痛いんじゃぞ。ヨウコ』

「いつまでも留まってるのが悪い」


 洋子は特に気にした様子もなく答える。そんなやり取りにタマは困惑した様子で口を開いた。


「えっと……今度こそは葛葉さんで……良いんだよな? でそっちの美人さんが玉藻さんであってるんだよな?」

「ん。あってる。見えるの?」


 タマの言葉に洋子がうなずいてからたずねる。隣にいた玉藻は洋子の隣からタマの目の前へと近づく。


「うわっ」


 息が当たるくらいに近づくとタマは思わず後ろに下がる。その反応に玉藻は答えた。


『うむ。ヨウコ。タマは見えてるぞ』

「2人のその反応を見たらわかる。でも、不思議。最初の時は視えてなかったのは確か。なんで?」

「さ、さぁ? こっちが聞きたいよ。パンドラは分かるか?」

「分からないですよ。私は最初から見えてましたし」


 タマはパンドラにたずねるが、パンドラは分からないと答える。その様子に玉藻は何かを察した様子で口を開いた。


『なるほどのぅ』

「何かわかったの?」


 洋子はたずねる。玉藻はタマに言った。


『タマよ。お主がその姿になったのは最近じゃな?』

「あ、ああ。そうだが……それが関係あるのか?」

『若干力の流れが滞っておった箇所があったみたいじゃな。先の戦いでそれが解消されて見えるようになったのではないかの?』


 玉藻の言葉にパンドラは慌てた様子でタマの周りを回りながら全体を確認し始めた。


「え? あ。本当だ。タマ。しんどくなかったのですか?」

「え? え? 何? 何? 分からないんだけど? 俺そんなにヤバい状態だったの?」


 タマは困惑しながらそう言うとパンドラはうなずいた。


「リクリエイトの力を使った時の負担が思っていたよりも重かったのです。何もなければ今頃は気絶してしばらくは起きられなかったのです」

「そうなのか? 確かに剣が力を貸してくれた時くらいから滅茶苦茶体が軽いけど」

「それがタマの本来の身体能力なのですよ。私もツクモ神としては高位ではあるのでいくら他のツクモ神よりもひ弱であっても元の人の頃よりもはるかに高いのです」

「そうなのか。という事は剣に感謝だな」

「そうですね。命の恩人さんなのです」


 タマは力を貸してくれた剣に感謝するとパンドラもそれに同意する。少し時間が経つと洋子がたずねた。


「原因は分かったの?」

「ああ。思っていた以上に弱っていたらしい。不調が回復したから視えるようになったみたい」

「そう。そうだ」


 タマが理由を言うと洋子は唐突にタマを抱きしめた。


「……あの? なんで抱きしめてるの?」

「これはありがとうのハグ。うん。いい抱き心地」


 洋子はタマの抱き心地についての感想を伝える。それにタマは訝しんだ。


「楽しんでない?」

「そして私のご褒美でもある」

「楽しんでるっ!?」


 あまりにもマイペースな洋子の様子にタマは困惑する。


『うむ。ヨウコよ。良い事を教えて遣ろう。こやつの元は男じゃぞ?』

「そうなの? 男の子なの?」


 洋子はハグしたままたずねる。タマは今の状態から逃れるために素直にうなずいた。。


「お、おう。色々あって今はこの体だがな。だから、気軽にハグするのは止めような」

「そう。今の姿なら最初から問題ない。もしも男の子に戻っても責任を取ってお婿さんになってもらえば解決。何も問題なし」

「なんでっ!?」

『こやつ。無敵か?』


 洋子の言葉にタマは慌てる。同時に思っていた反応と異なる洋子の返事に玉藻は呆れた声を漏らす。洋子はしばらくハグを堪能すると今度はハグしたままタマの頭を吸い始めた。


「はすはす。これは……洗った後にお日様に干したお布団の様な安心する匂い。クセになりそう」

「何がっ!? って。ってか。力つよっ!? に、においを嗅ぐのは止めてぇっ!?」

「良いではないか。良いではないか」

「うわぁぁぁっ!?」


 タマは洋子を引きはがそうとするが、がっちりとハグされた上で絶妙な力加減で吸われて力が入らない上に身動きが取れなかった。


 その状態のままタマはしばらく洋子に弄ばれるのであった。

 葛葉 洋子と玉藻コンビの力との協力とご褒美のお話。

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