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21話 行こう。助けるぞ

「「……」」


 タマとパンドラは何もいない商店街をゆっくりと歩く。物音1つしない空間の中で慎重に進んで行くと少し離れた商店街の広い交差点で傷だらけの人が遠くで倒れているのが見えた。


「っ! パンドラっ!? 女の人が倒れてるぞっ」


 タマは周囲に聞かれないように小さな声でそう言うとすぐに声を掛けに行こうとする。それをパンドラは止めた。


「行っちゃダメです」

「なんで? あんな目立つ場所よりもどこかに隠した方が安全だろ?」


 パンドラの言葉にタマが不安そうな声でたずねる。


「あれは罠です。交差点の一番大きい建物の上を見てください」

「上? っ!?」


 タマは近くにある一番大きなビルの屋上の方を見る。


 そこには異様な姿の獣がいた。体は黄色の毛皮に黒の模様の広がる肉食動物を思わせるような4足。猿のような人のような形の真っ赤な顔が涎を垂らしながらビルの下の傷だらけの人物を監視するように見ていた。いつでも交差点に出てきた得物に飛び掛かれるように。


 そんな正体不明の獣を見たタマは声を潜めながらパンドラにたずねる。


「あれはなんだ?」

「……あの獣は見覚えあるのです。ニュースで話題になっていた奴なのです。それと私を襲った奴ですよ」


 パンドラは険しい表情で答える。タマは昨日見た姿とあまり似ていないように見える獣に頭を傾げた。


「本当か? そんなに似てない気がするんだけど?」

「それはまだあの黒い雷を纏っていないからなのですよ。あの時見せたのは襲い掛かる直前の姿なのです」

「なるほど? 似てない理由は分かった。それにしても……あれは何をしてるんだ?」


 タマは傷だらけで倒れている女を放置して待ち構えているように見える獣の行動についてたずねる。


「あれは罠なのです。あそこに放置している得物を助けに来た仲間を狩るためのです。助けに来た人頭上から飛び込んで食べるのでしょうね」

「こわっ。そんなことをするのか?」


 パンドラの説明と獣の狡猾さにタマはドン引きする。


「するかしないかであればするのです。あの巨体からして食べる量が少ないはありえないのですよ。それに人の眼を掻い潜っているのです。それだけ狡猾でもおかしくないのです」

「それもそうか。でも、そうなるとどうやって助ければいいんだ?」


 タマは納得しながらどうすればいいかをたずねる。


「厳しい言い方をしますが、タマの実戦経験はないので他の助けに来た人と協力した方がいいのです」

「……いや。それは不味いかも」

「むっ。何か感じるのですか?」


 素人のはずのタマがまるで確信を持ったように答えるとパンドラは真剣な表情でたずねる。


「あの倒れてる人。そこまで持たないかも」


 タマがそう言うとパンドラは倒れている人を見る。倒れている人物はパンドラの想定よりも傷は多く、このまま放置すると持たなそうであった。


「……タマの言う通りなのです。確かにこのまま何もしないでいるとお亡くなりになってしまうのです。ケガをした人の状態を失念してたのです」

「パンドラは傷を癒す手段とかあるか?」


 タマはたずねる。それにパンドラは少しためらった様子で言った。


「あれくらいの傷であれば薬で大丈夫なのです」

「貴重な物じゃないのか?」

「いいえ。それについては問題ないのですよ。持っているモノのほとんどは私が作った物なので」

「薬を作れるのか?」


 タマが聞くとパンドラは自信満々に答えた。


「ふふん。凄いでしょう? ただ、初級者の域を出ていないので私の作った薬では致命傷を完全に治す力はないのです。タマと会った時は不意打ちだった上に薬を使っても少しの延命にしかならなかったのですよ。後、味は死ぬほど不味いのです。それで意識を失ったら意味がないのですよ」

「なるほど。確かに薬を使うのをためらうのも無理はないか」


 タマはパンドラがためらった理由に納得する。パンドラは追加で考えている事を口にした。


「それと無防備に薬を渡す時間があれば、瞬きする間で私達を仕留められるのです」

「それもそうか……」


 パンドラの言葉にタマは時間がない中でどうするか考える。少しするとタマは口を開いた。


「そうだな。それなら俺が囮になる。俺が時間を作っている間にパンドラは倒れている人に薬を飲ませてくれ」

「危険です。生き残る手段はあるのですか?」


 タマの言葉にパンドラは不安そうにたずねる。タマは陽気な様子で答えた。


「ようは警戒させて動きを止めればいいんだろ? パンドラ。あいつが着地する場所を割出せないか?」

「着地する場所ですか? 出来ない事はないですけど……何をするのです?」


 パンドラはたずねる。タマがこれからする行動について想像がつかない様子でしゃべり始めた。


「あいつが飛び降りてくる瞬間。これの必殺技を喰らわせる事が出来るかもしれない」

「危ないですよ?」


 タマが剣を見せながら言うとパンドラは心配そうな表情で聞き返す。タマはうなずいた。


「分かってる。でも、死にかけの人がいるのに隠れて待つだけなんて俺には出来ない。パンドラ。力を貸してくれ」


 タマは真面目な表情でパンドラに助けを求める。パンドラはうなずいた。


「はぁ。しょうがないですね。まぁ良いでしょう。その代わり危ないと判断したら私が囮役を代わります。その時は素直に従ってくださいね」

「分かった」


 タマはうなずく。パンドラはそれだけだと罰としては弱い判断したのか言葉を続けた。


「それともし失敗して大怪我したら私とサクラ監修のファッションショーをして貰いますよ。しばらくの間は可愛らしい恰好をして貰うのです」

「うっ。や、やってやらぁ」


 パンドラの条件にためらいながらも返事をする。パンドラは「楽しみですね」とワクワクしながらそう言うとタマは早まったかもしれないとつぶやく。


 パンドラは箱から人が飲めるサイズまで戻した毒々しい色の薬の瓶を2つ取り出す。その内の1つをタマに渡した。


「タマ。タマも薬を受け取るのです」

「いいのか?」


 タマはたずねる。


「当然ですよ。死なれたら一番困るのですよ」

「そうだったな。……失敗しなけらば大丈夫。うん。大丈夫。パンドラ。行こう。助けるぞ」

「はい。なのですよ」


  タマは言い聞かせるようにそう言うとパンドラと共に交差点の傷だらけの人を助けるために動き出した。

 獣のツクモ神の罠のお話。

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