19話 俺だよ。俺
タマが出かけてから道なりに10分程度進んだ先。タマは最寄りの商店街の入口の1つへとたどり着いた。
「ここが昨日お風呂でタマの言っていた商店街ですか」
「ああ。近いからここでよく買い物したり遊んだりしてるんだ」
「意外と人は多くないのですね」
パンドラは周囲を見ながらつぶやく。
「そりゃ駅とかからは離れてるし、この周辺に住んでる人の生活のための場所だしな」
「交通の便は確かにどうしようもないですね」
「そうだな。流石に子供服とかはないけど、色々な店があるから便利だぞ。商店街の奥の方にスーパーがあるから目的地はそこだな」
「スーパーまであるのですか」
「そこら辺は今の形になるまでに色々あったみたいだよ」
タマがそう言うと商店街を進み始める。パンドラはタマの頭の上から話しやすい肩に着陸するとたずねた。
「詳しいのですね?」
「中学の時に地域を調べる授業があってそれで調べたんだよ」
「なるほど。確かにそれなら詳しくなりそうですね」
移動しながらの会話でパンドラが納得すると少し離れた場所に肉や総菜が並べられた店が見えた。
「あ。お肉屋さんだ」
「確かコロッケとかのお惣菜がおいしいんでしたっけ?」
「ああ。小腹が空いた時によくお世話になってるんだ。行こう」
「良いのですか?」
パンドラはたずねる。それにタマはうなずいた。
「ああ。どうせまだしばらくは歩くから先に軽く食べよう。少し多めにお金貰ってるし、母さんからの許可がある。パンドラも食べるだろ?」
「ぜひっ! なのですよ」
タマの言葉にパンドラが肯定すると吸い寄せられるように目の前に肉屋へ移動する。肉屋の店主の男がタマとパンドラを迎えた。
「へい。らっしゃい。ここは肉屋だよ。お嬢ちゃん。お使いかい?」
「おっちゃん。俺だよ。俺」
「うん? 少なくとも俺に金髪で外国の子の知り合いはいねぇぞ?」
タマの言葉におっちゃんと呼ばれた店主が頭を傾げる。
「あ。そうだった。俺だよ。弾だよ」
「はぁっ!? 桜ちゃん家の所の坊主なのかっ!?」
タマが男の時の名前を出すと店主が驚愕する。
「うん。色々あって女の子になっちゃった」
「おいおい。なっちゃったって。大事だろうがよ。他に体の異常とかはないか? それよりも九十九士協会の方には行ったのか?」
タマの言葉に心配した様子で店主がたずねる。タマはうなずいた。
「うん。その日の内に。見た目が変わった以外は問題ないって」
「そうか。災難だったな。お前さんの肩にいるそっくりさんが原因か?」
「うん。まぁ、そのおかげでパンドラって言うんだけど、彼女が助かったから後悔はそんなにしてないよ。後。元に戻る方法は探すけど」
「そうかい。戻れるといいな。坊主……じゃねぇな。今の見た目だと。嬢ちゃんって呼ぶが良いか?」
店主が少し困った様子でたずねるとタマはうなずいた。
「うん。いいよ。それとコロッケ1つちょうだい」
「あいよ。50円だ。ソースはいるか?」
店主がそう言うとタマは先に50円を払う。その後に頭を横に振った。
「ううん。今回はいいや。ここのはそのままでも美味しいし」
「おう。嬉しいこと言ってくれるねぇっ! よし。この中で大きい奴やるよ」
「ホントッ! ありがとうっ!」
気を良くした店主の言葉にタマは満面の笑顔で返事をする。それに店主は顔を赤くした。
「おぉう。元は坊主とはいえ、今の笑顔の破壊力がすげぇな」
「そう?」
タマは頭を傾げる。店主は真面目な表情で言った。
「おう。無防備をさらして誘拐とかされないように気を付けろよ。もし、誘拐されそうになったら周囲に助けを求めろよ」
「またまたぁ。そんな事ある訳ないだろ。まぁ、気を付けるよ」
タマは軽く流しながらも本気で心配してくれているのは分かっているので軽く答える。その様子に少し不安になりながらも店主は言った。
「ああ。そうしてくれ。それとパンドラちゃんだっけか。妖精の嬢ちゃんも嬢ちゃんの事をよろしくな」
「分かってるのです。色々と無防備なので気を付けるのです」
「おう。パンドラちゃんがいてくれるなら安心だ。ほらよ。それとこれもだ」
店主は紙の包みに入れたコロッケと小さな紙を渡す。タマは小さな紙で包みの中のコロッケをパンドラが持てるくらいの大きさに割る。揚げたての衣の軽快な音と共に湯気が出る。同時に焼けた肉とジャガイモの匂いがタマとパンドラの食欲を刺激する。
タマはコロッケの小さな方をパンドラに渡した。
「ほら。お昼近いし、他にも気になる物を買い食いするだろうから少なめにな」
「ありがとうなのですよ」
パンドラはコロッケを受け取る。パンドラは受け取ったコロッケを口にする。最初に表面のサクサクとした衣の食感。中の熱々なジャガイモのほくほくした食感と牛肉の甘みがお互いに引き立て合っていた。
「うぅん。美味しいのですよ。とても50円の味ではないのです」
「おう。俺の祖父の代から改良を続けてるからな。自慢の一品だ」
「なるほど。積み重ねた味なのですね」
「おう。じっくり味わってくれ」
店主がそう言うとタマは受け取ったコロッケを食べきる。パンドラは同じようにコロッケを食べているタマに言った。
「タマ。もう少し欲しいのです」
「流石にあの量だと少ないか。はいよ」
タマはパンドラから紙を受け取ると食べていた部分をひっくり返してから割る。割ったコロッケを渡すと2人でコロッケを楽しむのであった。
お使いと商店街の出入口周辺での寄り道のお話。




