牲命蝕流填編 第11話:撞着
八蒔は木華とともに残りのチ―ムメンバ―を探していた。
「へぇ、じゃあやっぱりあの噂は本当だったんだ」
「噂?」
「亘芽さんが認めた新人が、今年の資格試験に参加するって話」
「そんなんじゃないよ。ただ拾われただけ」
「桜没木華」、八蒔と同様に調査・処理部資格試験の受験者である。
名は体を表すと言うように、髪色は鮮やかな桜色をしており、その明るい性格に八蒔はどこか雛与の面影を感じていた。
「またまた―謙遜しちゃって」
「謙遜じゃないよ。それよりもメンバ―探さないと」
「もう―誤魔化しちゃってぇ、、」
二人は揃ったグル―プの間を縫い、一人でおり、かつ誰かを探しているような行動をとっている受験者を探した。
木華はある程度見当がついているようで、会話しながらもその目は遠くを向いていた。
「もしかして、あと一人誰だか分かってるの?」
「まぁ、多分だけ、ど……あいたいた!多分あの子だよ」
木華は、見るからに日本人とは思えないプロポ―ションの少年を指差した。
金色の髪の毛、彫の深さ、体格の良さ、それに加えて王子様のような気品溢れる白銀の格好。首周りには、狐の尻尾のような謎の白いモフモフ。
「僕を見て!」と言わんばかりの目立ち様、一際輝く存在感、明らかに浮いていた。
「いやいやいや」と八蒔は木華の指先と、その直線上にいる受験者を再び目で繋げてみた。しかし、やはり結果はあのモフモフであった。
「え、あの王子様みたいな」
「うん、あの王子様みたいな」
驚きと異様さを飲み込めていない八蒔とは対照的に、木華は驚くほどノ―リアクションで目線を送り続けていた。
「なんであの子だって、」
「昨日見かけて。あんなんだったから覚えてて」
「まぁあれは覚えるわ」
その少年は二人の熱い視線に気づくと、堂々とした歩き方でゆっくりとこちらへ向かってきた。
八蒔は急いで思い出せるだけの英語を頭の奥から引っ張り出し、小さく口ずさんだ。
(ハ、ハロ―ユア、チ―ムメイト?英語は苦手なんだよな、)
目の前に立った少年は、思ったよりも背が高く、冷たい蔑む目線をこちらへ向けていた。
その茶色い瞳からは少し威圧感を感じられ、「そんなこと」ある訳がないと思いつつ、いつでも投影ができるよう警戒姿勢をとった。
「おまえ、」
「ハロ―。ユア、チ―ムメイト?」
思い切って発した言葉はどうやら不正解であったようで、見る見るうちにその少年の眉間にしわが寄っていった。
「お前……馬鹿にしてんのか?」
流暢な日本語に八蒔は目を点にし、改めてその容姿を隅々まで確認した。
金色の髪の毛、彫の深さ、体格の良さ、首周りのモフモフ、目に映ったものに間違いはない。
では、それを踏まえてもう一度。
「アイムハッピィ、ハウワ―ユ―?」
「やっぱり馬鹿にしてんだろ」
「あははは」
木華だけがその光景をケラケラと面白がっていた。
少年の名は「ミダス=ゴルディオン」といい、こう見えて同学年らしい。
どうやら桜没はミダスと筆記試験で隣の席だったらしく、そのため貼り出された受験番号を見て、およその見当がついていたらしい。
「ミダスっていうのか、宜しくね」
「馴れ馴れしいな。僕はかの有名な『ゴルディオン家』の跡継ぎだぞ!」
ミダスは腕を組み、自慢げな顔と強めの鼻息で、八蒔へ地位の高さをアピ―ルしようとした。
しかし、八蒔には不発だったようで、傾けた首とともに薄っすら頭の上に「?」のマ―クが浮かんで見えた。
「ゴルディオン家を知らないとは、これだから素人はっ」
「私知ってるよ。投影術、とりわけ『錬金術』を扱う影法師の名門でしょ?」
錬金術とは科学と魔法の間のような術であり、物質変化や生命機能の操作などマルチに行える投影術である。
ミダスは、木華の言葉が少し嬉しかったのか「彼女は知っていたぞ!」と言わんばかりに、さらに鼻息を強めた。
しかし、相も変わらず八蒔の首は傾き、頭には記号が浮いていた。
「こいつ、」
「はい、みなさん黙ってください」
ミダスの言いたげな口を黙らせたのは、援護・医療部に所属する神堂阿互の冷たい号令であった。
「あと三十分後に試験を開始します。さっきも言いましたが、チ―ムには特別製のカメラを支給します。代表者は取りに来るように。それと、試験会場は丸い形状になっており、入り口は複数あります。カメラと同時に地図もお渡ししますので、好きなエリアから入場してください」
試験会場は半径三キロメ―トルほどの丸い形状をしており、全エリアが巨大な壁で覆われている。
森林エリア、海上エリア、市街エリアに分かれており、それぞれ影齢三年から十年モノ程度の貘が放たれている。
不満げなミダスを横目に、そそくさと木華はカメラと地図を受け取りに行った。
数分後、実技試験前の作戦タイムとなった。
「とりあえず、それぞれ投影能力でも明かしてく?手の内分かんなきゃ協力しづらいし」
「俺は別に構わないけど、」
「僕は好かん。初対面の奴に投影能力を明かすなんて非常識だ!」
ミダスは目を閉じたまま、喉を唸らせた。
「え―」と困惑する八蒔に対して、木華はニヤニヤとミダスの肩へ手を置いた。
「良いのかなミダスくん。こういう所も個人の採点基準になると思うけどな―、団体行動できなくて困っちゃうのは誰かな―」
「……っ」
知り合ってまだ数分だが、桜没はこういう痛い所を嫌味ギリギリのト―ンで突くのが上手いと思う。
「分かった」
ミダスは吹き出しそうになるプライドを抑え、鼻息を小さく吹かせた。
「じゃあ私から時計回りね―!」
こうして投影能力に関して共有することとなった。
桜没は「影を使って炎を起こす」というものであり、ミダスは「物の状態を影で自在に操作する」というものであった。
「物の状態を変えるってどうやるの―?」
「はぁ……簡単に言えば細かい影操作によって分子レベルで物質を動かし、強制的に変化を行う」
ゴルディオン家はトルコ国の名門影法師家系である。
その投影術は先ほども言った通り、錬金術というものであり、影を使い、物を同質、異形へ転換する。
とても繊細で高度な投影のため、使える者は少なく、ミダスが自負しているように影法師の中ではかなり名が通っている。
また、その投影方法は門外不出のものとされているため、尚のこと珍しがられている。
「そんなことできるんだ。劉芽さんは教えてくれなかったな」
「それで、君はどうなんだよ」
ミダスは、君の番だと言わんばかりに腕を組み、鼻息の次は胸を張った。
「それはそうだね。えっと…」
俺は電車の件から下水道の王までの、使用してきた投影術全てを説明した。
「ふむふむ。話聞く感じ、バランス系だね。しかも中々の影力もあるときた。エリアどこから入る―?」
「僕は優秀だからどこでも構わないが」
「桜没が炎を得意とするなら、燃えやすい森林エリアと相性の悪そうな海上エリアは避けた方が良いんじゃないか?」
桜没はミダスの方を見て、同じように腕組みをすると小さく唸った。
「こういうのって、わざと弱点になりそうな立地で戦う方が加点されると思うんだよね―」
「それはあるかもね」
「なら、午前の部は森林エリア・海上エリア、午後の部は市街エリアで良いんじゃないか」
「確かに。いくら加点対象でも、ずっとはハンデになり過ぎるよね」
こうして我々「Oチ―ム」は森林エリアへ向かうこととなった。
そして三十分後。
「みなさん!聞こえているかいっ!!」
入り口の小さなスピ―カ―から、大きな科董の声が鳴り響いた。 その怒号に扉付近が大きく横へ揺れ、スピ―カ―の留め具とネジが木の実のように地面へ落ちた。
「気品の欠片も無いな、ったく」
(お前は逆に溢れすぎてるよ)
(君は逆に溢れすぎてるよ)
「頑張るのも大事!だが、命はもっっと大事!リタイアは全然恥ずかしいことじゃないっ!くれぐれも無理の無いよう!ではぁ…………開始ぃいい!!」
鼓膜が破けそうな号令とともに五メ―トルほどの扉が開き、実践試験が開始された。
「まずは他のチ―ムもいるから距離をとって、エリアの具合を見ようか」
「うん」
「構わん」
八蒔達は森林エリアから入り、海上エリアを目指して走り始めた。
「八蒔くん、もういける?」
「うん、任せて【投影―傾影】!」
八蒔は走りながら傾影を行使し、索敵を始めた。
(なんだこの投影範囲、素人にしては広すぎる…生意気な)
「さすが!目を掛けられているだけはあるね!」
「いやいや」
ミダスは負けじと、低い体勢で走りながら地面の上をなぞった。するとミダスの手の中に土が集まり始め、岩のような質感の剣が形成された。
「それが錬金術?金色じゃないんだね」
「ふんっ、確かに錬『金』だが、昔の奴らが金を好んで作ってただけだ、全部が全部金じゃない」
そのとき、八蒔は何かに気づいたようで、二人の方を振り返った。
「三時の方向、百メ―トル先、一メ―トルほどの貘二体いるよ!」
「おけ!私に任せて!【投影―染火】」
「何を勝手に」
木華は両手を互う形で合わせると、カチッと火打石のような音とともに手の中に炎を灯した。
次の瞬間、まるで散り桜のように炎の花弁が手から溢れ始め、そのまま三時方向の貘二体へ流れていった。
「さぁ行っておいで!」
その見たことのない投影技術に、八蒔は目を輝かせ、改めて解釈の幅を実感した。
「ダレぇだァ」
「こッちダぁヨ、コっチ」
炎の花弁は牢のように貘二体を包み込み、ミキサ―のように回転し始めた。
「すごっ、どうやるの?」
「うんとね、簡単に言うと影同士の摩擦で火を点けたの」
「チッ素人が、早く撮影しろ」
炎の牢が散ると、貘二体はボロボロと崩れ始め、あっさりと最初の討伐を完了した。
八蒔は急いでその様をカメラに収めると、近くに他の貘がいないか再び索敵を始めた。
「ここ真っ直ぐ行った所に一体…いやまた二体いる」
「おっけいじゃあ向かおうか」
「次は僕が斬る」
「ど―ぞど―ぞ、譲りますよ跡継ぎ様」
「お前、」
「あははは」
こうして八蒔の索敵、木華とミダスの処理、貘撮影は順調に進んだ。
「思ったんだけどさ、貘に炎って有効なの?てっきり影でしか効かないとばかり」
「つくづく何も知らないのだな。こんなのが試験を受けているとは」
「そんな怒らないでよ、」
「はぁ、影はこの陽の次元に顕現した時点で質量・実態をもつ。だから打撃を与えれば当たるし、炎で炙れば燃える」
「だけど特殊な物質だから影で攻撃した方が確実に効く。ま、燃費悪いから基本みんな影十割で攻撃しないんだよ」
影は通常、触れることができない。厳密には特殊な質であるため「すり抜けてしまう」という表現が正しい。
そのため、影に触れる際は同じく影で触れるか、何度も触れるしかない。
木華が言うように、影のみでの攻撃は影力の消費が大きい。ちなみに影五割、その他の物質五割で攻撃した場合、威力としては掛けた分の六割ほどにまで減少してしまう。
一見炎単体での攻撃に見える染火も、実際のところその半分が影で構成されている。
「てかさ、貘はいるけど受験者に会って無くない?もうすぐ一時間半だよ」
「確かに、全体で五十三名。俺達を除いても五十名。いくら団体で動いてたとしても人気が無さ過ぎる」
「どこかのエリアに集中してるか、強力な貘にリタイアさせられたか」
「でもさでもさ、そんな強力な貘配置する?あくまで試験は処理方法や知識など、様々な点を元に選別されるもの。強力な貘を倒すことが一番じゃないよね」
「倒すことが一番ならば、こんなチ―ムなど組まんでも良いからな。個人戦で事足りる。ましてや明日も試験はある、重症でも負ったら受験者の実力を推し量れないまま試験が終わる」
三人とも走りながら「う―ん」と腕を組み、起こりうる事象を頭の中で繰り広げた。
「一番ありそうなのは」
「もしかしたら...…桜没、試験内容の紙持ってる?」
「うん。あるけど」
実技試験は午前と午後の二部構成となっており、その内容は午前と午後で変更ないものとする。
実技試験中は、こちら側がランダムに定めた三人組のチ―ムとなって行動してもらう。 (二人組のチ―ムが一チ―ムできるが、それは二人組ということを考慮して採点する)
チ―ムで協力して試験会場内にいる貘を討伐し、特殊なカメラにて討伐の様を撮影する。
なお、一チ―ムあたり一台のカメラを支給する。
各二時間の制限時間終了後にカメラを回収し、そこに映る貘の数・影齢によってチ―ムポイントを与える。
「やっぱりあれだ」
「もしかしてあの質問してたやつか?」
「ああ。処理しないといけないのは貘だけじゃないかも」
「これはあくまで試験、競争です。他チ―ムとの戦闘は行って良いんですか?」
今回の試験、重要な要素は支給された「カメラ」にある。
チ―ムでの動き方、討伐の仕方、精神状態、採点できる点は様々。しかし、その中でもチ―ムポイントは最も採点に直結している。
そのため、貘は消し炭になる前に撮影しなければならなく、そもそも撮影用のカメラを「壊してはならない」。
「しかもル―ル上、『他チ―ムが壊してはならない』とはされていない」
「あの質問してた子が他のチ―ムを襲ってるってこと?」
「よく分かったな」
頭上を見上げると、枝の上からあの少年が八蒔達を見下ろしていた。
「やっと見つけたよ」
「分かったなって…何をした?」
「何って、お前らが今話し合っていたこと、そして今からすること」
ミダスは何かを察知したのか、八蒔を蹴り飛ばした。
その瞬間八蒔が立っていた地面が、まるで最初から凹んでいたかのように一瞬のうちに抉れた。
「ミダスっ!」
「遺憾だが、何が起きたのか分からん。もうすぐ海上エリアだ、一先ずそこまで逃げるぞ!」
「地図ではあと少しで扉があるって!」
すると木の上にいた少年は跳躍し、素早くミダスへ斬りかかった。
(どこからそんな長物を、くそっ)
「【錬金投影―イエル=カヤドゥヴァル】」
一瞬のうちに、ミダスとその少年の間に大きな岩壁が反り立った。
激しい追突音とともに、土埃が辺りへ舞った。
数秒後、ミダスが飛び出し、扉へ向かって走るよう二人へ合図を送った。
「ミダス!」
「問題ない、行くぞ!」
息もつけぬ雰囲気を察知し、二人もミダスに続き走り出した。
「怪我無い?」
「僕ごときがあんな奴にやられん」
「今のは?」
「地面を岩壁に変えただけだ。そこまで強度も無い」
すると暴風が吹き荒れ、土埃が一気に払われた。
その異様な空気感に三人とも足を止め、振り返った。
「【投影―纏火】」
「【錬金投影―イエル=カルカン】」
「【投影―斬月】」
木華は影で作った炎を全身に纏わせ、ミダスは貘処理用に使っていた剣を盾に変えた。
八蒔は弓張月の要領で、上半身に湾曲した影を張り巡らせた。
「こうやって他の受験者達を襲ったのか?」
「何を言う?これは選別だ。影法師に弱い者はいらない。【投影―残龙】」
少年が手を地面に付けると、地響きとともに地面が引き割れ、割れ目から大量の影が流れ始めた。
その影は次第にカラカラと音を立て形を成し、数秒でまるで朽ちた竜のような見た目となった。
「なんだあの滅茶苦茶な、」
「錬金術に近い?いや、あれは純粋に影の塊だ」
「イっていいぞ」
少年の命令とともに、竜は木をなぎ倒しながら八蒔達へ向かっていった。
「あれは貘?」
「いや、疑似的に生き物を作ったような感じだと思う!」
「やっぱりここは遮蔽物が多くて逃げにくい、一旦退くぞ」
「なら二人とも、俺に掴まって!」
「え?」
「は?」
戸惑う木華と抵抗するミダスのお腹を抱え、八蒔は弓張月で大きく跳躍した。
八蒔は十メ―トルはある壁を飛び越え、海上エリアに着地した。
海上エリアは、「海上」といっても大きな湖のような形をしており、砂浜と少しの建物、防風林広がる見晴らしの良い地形で作られていた。
「すんごいね!身体強化系の中では中々のレベルじゃない?」
「おい、無駄話もさせてくれないらしいぞ」
先ほどの竜のようなモノが、壁を突き破って這い出てきていた。
「あのデカブツは僕と桜没が処理する、月宮はあいつの時間を稼げ。あのデカブツにはかなりの影が使われている、さすがに影力は底間近だろう」
竜が開けた穴を通り、少年が殺気を放ちながらゆっくりと近づいてきた。
「前半が終わるまで後ニ十分ちょっと。何とか持ち堪えよう」
八蒔は弓張月で竜を飛び越え、少年の前に立ち塞がった。
「お前は足止めか」
「選別って何だ?お前は何がしたいんだ。貘を処理するのが俺達のするべきことだろ?」
「分かってるだろ、会話は不要だって。諭すなら俺を何とかして見せろよ」
そう言うと少年は助走もなしに弓張月並みの速さで、八蒔へ斬りかかった。




