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HAMA  作者: わらびもち
第十一章 作戦会議
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第73話 小さなもの

 ーー「かかって来い!!小僧ォ!!」


 会議の次の昼、おれは大聖堂の中庭に広げられた特訓場に来ていた。今はガルヴァンと打ち合っている。他の人達はまだ来ていないので貸切状態だ。まぁセリアとグラはいるのだが。

 ガルヴァンに対して、おれは『身体強化ブースト』使わずに体術だけで挑んでいた。ガルヴァンには能力スキルを使ってもらっていたが。

 普通の人は魔力を使えばそれだけ魔力総量が増える。対しておれは魔力が無い代わりに、肉体を酷使すればするほど常人以上に強化される。地獄で無限に殺し合いをしていただけに、単純シンプルな腕力だけでもそれなりのものになっているようだ。それなら魔素を纏った強化を鍛えるよりも、今は技術を高めた方がいい。当然、身体強化ブーストを使っていなければガルヴァン(法帝)相手には流石に押されるけれど。


 ーー「ぐッ……!」


 腕を交差させ、迫る岩のような拳から身を守った。だが大きな体格差があるだけに、おれの体は浮き上がり大聖堂の壁まで吹き飛ばされた。っ……たくもねぇけど……やっぱもう少し体重を増やしたいものだな。


 ーー「わっはっはっ!本当マジに強くなったな!まだやるか?」


 ーー「うしッ!もう一本だ!」


 壁から起き上がって再びガルヴァンと向かい合った。今度はガルヴァン(相手)の攻撃を受け流すことに集中してみるか。拳を握らずに両手を構える。真っ直ぐに、そして力強く迫ってくる拳の軌道を軽く逸らす。何度も何度も……。


 ーー「……イテッ!」


 ーー「気を緩めるなよ!!」


 機関銃のように次々と拳が飛んでくる。出来るだけ小さな力で、出来るだけ大きく軌道を逸らす。力の入れ具合がなんとも難しい。いや、厳密に言えば力は必要ない。腕の軸、身体の軸、攻撃の軸、全てを理解出来れば木の枝でも攻撃を逸らせられる。……はずだ。はずなんだけど……そんなものを見極めるのは一朝一夕ではいかなそうだ。こう思うと人間は自分の身体すら完全には理解できていないのだな。魔界へ向かうまでは身体の使い方を極めた方が良いのかもしれない。おれは細かな動きに集中した。


 ーー「む?」


 ーー「へへっ。どうだ?」


 攻撃の軸を見極め、それにほんの少し力を加える。そうして攻撃を受け流す。最初の力技とは違い、技術で対抗している。これがちゃんと出来るようになれば反撃もうまくなるはずだ。とにかく今は精密さと速度を……!


 ーー「痛ぁアア!」


 ーー「はは!何してんだお前。」


 意識しすぎて空振ってしまった。ガルヴァンの硬い拳がおれの額を強く打った。細かいことをしている間は冷静さを失ってはいけないな。焦ったり、難しいことを考えたりすると動きが雑になってしまう。

 おれとガルヴァンは一休みするために中庭の端のベンチに腰を下ろした。セリアが笑いながら大丈夫?と尋ねてきたが、怪我するほどではなかったからな。まぁそれを理解しているから笑っているのだろうが。水を飲みながらガルヴァンと軽く話をした。戦うときのコツだとか、何を意識してるのかとか。参考にするというよりは、ただの雑談といった感じだが。

 ガルヴァンの能力スキルは『粉骨砕身』。攻撃ダメージを受けるほどに肉体強度と魔力出力が上昇していくらしい。特訓ではなかなかに鍛えづらい力だが……明日はガルヴァンを殴りまくるか?そんなことをセリアやグラも混ざってワイワイと話していると、2つの人影が中庭にやってきた。


 ーー「やぁ、君達。」


 ーー「スリドさんとリンシャさん!」


 ーー「皆さんこんにちは。」


 来たのは八法帝のリンシャさんとその主人であるスリドさんであった。昨日の約束通り来てくれたのだな。……なんだかスリドさんは保護者みたいだな。


 ーー「エストさん。一戦どうですか?」


 ーー「いいのか!?やろう!」


 おれは座っていたベンチから勢いよく立ち上がりリンシャさんの方へ向かった。後ろから元気だなぁと笑うセリアの声が聞こえる。こんな機会はそうそう無いからな。この機を逃したらもう二度と拳を交えることはないかもしれない。それなら積極的に臨まなくては。


 ーー「あんま知らねぇんだけどよ。リンシャさんてどんくらい強いんだ?」


 ーー「そうですね……自分で言うのもなんですけど、他の法帝(方達)には負けないかと。」


 へぇ。謙虚そうな雰囲気だが結構な自信があるようだな。おれはリンシャさんの言葉に期待が高まっていた。おれ達は互いの能力スキルを伝え合って始めることにした。彼女は『空間支配スペーサー』の能力保持者スキルホルダー。根本的には空間魔術とは変わらないようだが、魔力消費が極端に少ないのと、より攻撃的な力らしい。……どういうことだろうか。まぁぶつかってみれば分かるか。


 ーー「空間魔法ってよ……相手を地面の深くに転移させちまえばメチャメチャ強いんじゃないか?そりゃメチャメチャ悪い使い方だけどよ。」


 おれは準備体操で身体を伸ばしながらそう聞いてみた。なかなかに外道というか……心無い戦法だと理解しているが、戦争する上ではそういう戦法があってもいい気がするのに聞いたことがないからな。提案というより単純な疑問であった。


 ーー「えっとですね、空間転移テレポートって何もない空間同士を繋ぐものなんです。だから物質の詰まった地点に移動は出来ないんですよね。そもそも自分より遥かに弱い者か承諾した者でないと転移は抵抗レジストされてしまうので……そんなことが可能でもする意味がないですけど。」


 ーー「そうなのか。……変なこと聞いたな。」


 ーー「いえ、質問を受けるのは悪い気分ではありませんから。」


 リンシャさんは清々しく返事をした。魔法にもいろんな制限があるんだな。……当然か。万能なものなどこの世界には存在しない。でも何か……リンシャさんの言葉の中の何かが、僅かにおれの中で引っ掛かっていた。


 ーー「さて、始めますよ。エストさん。」


 ーー「おう!どこからでも来い!」


 まぁ難しいことは後だ。今はただこの時間を楽しもう。

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