第50話 片道切符
ーー「……クソッ!」
ーー「『圧縮身体強化』!」
ーー「グギャウ!」
おれは意を決して『圧縮身体強化』を発動し、氷を砕いて脱出した。そしてケルベロスの後ろに回し、デュールの方へ蹴り飛ばした。
ーー「痛ッ……!ぐぁアアアア!」
ーー「圧縮身体強化は身体を痛める技じゃないのか?そんなことをしたら炎の火力が上がっちまうぞ?」
ーー「ハァ…ハァ…ぐッ……!ハァ……もう…この程度は……関係ないだろ……!さっさと決着つけてやる……!」
ーー「ふッ!だがその痛みではまともに戦えないだろ!」
ーー「行け!ケルベロス!」
ーー「心が死ななければいくらでも戦えるさ!」
ーー「『天爆』!」
おれに向かってくるケルベロスを殴り飛ばした。身体中が痛むものの、倒れなければ戦える。だが、あの犬は以上なほど硬く、戦闘不能に持ち込むには少し手間取りそうだ。デュールを直接叩くとしても簡単にはいかない。それなら……。
ーー「誘導弾でも……撃ち込んでやろうか…。」
ーー「……?」
おれは圧縮した魔素を精霊の力で空中で操作した。そして一つ一つの塊を大きく、濃くしていく……。
ーー「何かしているぞ!さっさと攻撃しろ!ケルベロスよ!!」
ーー「グガゥァアアアア!!!」
ーー「もっと…頭ァ使いやがれ……!」
ーー「グヮ!?」
突進してくるケルベロスの真ん中の頭を左手で止めた。『圧縮身体強化』を発動していれば力負けすることはない。おれは痛みを忘れて魔素の操作にのみ集中した。
ーー「喰らいやがれ……!クソ犬がァ!!」
ーー「『万華穿衝』!」
ーー「グキャウ!!」
ーー「な……!うわッ!?」
おれの背後から数十にも上る拳大の“白天”を繰り出した。一つ一つが大地を抉るエネルギーを持っている。ケルベロスはなす術なく消滅した。後ろにいたデュールにも掠ったが、そちらはダメージになるほどではなかった。だがそんなことは関係ない。今ヤツは最大の武器を失ったのだ。再召喚させぬよう、おれはデュールに接近し追い討ちをかけた。
ーー「『業天爆』!」
ーー「ぐはッ……!ま…待て……!」
ーー「待たねぇよ……!」
ーー「『散桜』!」
ーー「…!!」
おれはデュールの腹部に左手を当て、圧縮した魔素を流し込んだ。魔素は魔力を掻き乱し、強化魔法で防ぐこともできない。おれはそのまま魔素を爆発させた。身体の内側から全身が破壊されたのだ。かろうじて原形は留めていたが、ヤツの召喚した炎は消え、決着がついた。おれも酷い傷を負ったが、死ぬほどではない。これを吉とするか凶とするか。
そんなことを考えていると後ろから竜が人を乗せて飛んできた。グラとセリアだ。
ーー「エストー!!……!?エ、エスト…?その腕は……?」
ーー「ハァ…これか…?……犬っころの餌になっちまったよ。」
ーー「……ッ!…うそ……。」
ーー「悪ぃけど……止血してくれねぇか…?炎でジュッと……。」
ーー「……!?…。」
セリアは動揺していた。まぁ無理もないか。ついさっきまで戦闘中なだけあっておれは落ち着いているだけで、重症も重症だ。この腕はもう治らない。
セリアは泣きそうになりながらも腕の傷口を焼いてくれた。痛いし熱いが、このままでは血を失って死にかねない。しかも処置せずに暴れたせいですでにだいぶ血を失くしていた。
そして服を破いてその布で腕を縛ろうとしたときだった。デュールがかすかに動き、おれの足元に異質な魔法陣が出現した。そしてその魔法陣が赤黒い沼へと変化し、そこから現れた無数の骨の腕がおれの足を掴んだ。
ーー「お…お前……!まだ生きてたのか…!?」
ーー「ハァ……ハァ……俺は魔神様の子だぞ…!そう簡単に死ぬわけがないだろう……!」
ーー「くッ…!」
だがアイツは虫の息だ。トドメを指すことは出来る。だが今、おれは足を掴まれている。もの凄い力だ。何かが起こっている。
ーー「…フハハッ……!自慢の力が通用しないか…!?条約だよ……。俺が死ぬ代わりに……ネフィル=エスト……貴様を地獄に引き摺り込む…!貴様だけは危険な存在だ!!」
ーー「!?」
そう言われ、おれの身体が沼へ沈んでいった。少しずつ、骨の腕に引き摺り込まれていく。死にかけのヤツでも自死の条約でこれだけの力を出せるのか……?いや、恐らくおれも死にかけだからだ。だからこんなにもぶっ飛んだことが出来る。
ーー「エスト…!!今助け……!?」
ーー「離れろ!!」
おれは、おれの手を掴もうとしたセリアを突き放した。おれに触れていてはセリアも巻き込まれるかもしれない。それだけはダメだ。念の為、おれとセリアとの間に魔素の壁を作り出し、こちらに来れないようにした。
ーー「クソッ!」
ーー「『白天』!」
ーー「フフッ……俺はもう死ぬんだ。条約に守られ…外的要因で死ぬことはない……!」
ダメだ……!体がどんどん沈んでいく…。逆らうことができない……。
ーー「エスト!エスト!」
セリアがおれに向けて叫んでいる。おれは死ぬのか…?だとしたら……おれが今するべきことは……。
ーー「セリア!グラ!」
ーー「!!?」
飛びそうな意識を繋ぎ止め、なんとか声を発した。本当はフリナにも伝えたい……だが、今いないなら2人に伝えるしかない。
ーー「後は頼んだ…!」
おれはどんな顔をしていただろうか。悔しい顔だったろうか、それとも笑顔だったろうか。こんなところで死にたくはなかったが、おれが死んだとしても2人には戦いをやめないで欲しい。とにかく手短に一言だけ伝え、おれは沼に溺れた。
ーー「…エスト……?……エスト!!」
デュールの生命活動は完全に停止し、沼も消滅した。
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その日、世界中を渡った知らせは大きく分けて3つであった。1つは、ルドンに邪教の拠点のうちの1つが発見されたことだ。しかし、それを発見した冒険者パーティ“豪炎”によって壊滅させられたこと。そして1つは、そこの魔王と相打ちになり、Sランクのネフィル=エストが戦死したこと。最後の1つ、最も大きく知らされたものは、“新たなる法帝の誕生も近い”ということである。




