第46話 “おじちゃん”
ーー「何だ……これ…?」
階段を降りるとそこには薄暗い部屋に人間が吊るされていた。いや、人間だったもの、とでも言った方が正しいだろうか。それにどれも死んでから時間が経過していて、体の一部が無くなっているものもある。…胸糞悪ぃ……。セリア達は連れてこなくてよかった。
ーー「…………ん?」
すると奥の方からかすかにフリナの魔力を感じた。外からは全く感じられなかったのだけどな…。それにこの空間には普通に魔素も存在している。どういうことだ?と不思議に思って壁に手を当ててみると、なるほど、この壁が何やら魔力などを完全に遮断するものらしい。だがそんなものは聞いたことがない、そう思ったが、とにかく今は最も重要なことを済まさなければいけない。おれはフリナの魔力のある方へと向かった。神父のような男はもう要らないのでそこに置いて。
ーー「おい、フリナ!大丈夫か!?」
少し進むとフリナがいた。壁に鎖で繋がれ、気絶しているようだが命に別状はなさそうだ。だが異様に魔力が減っている。怪我をしている様子はなく、まるで魔力だけが吸い取られたような。フリナを確認してみると、体に管が付けられている。それが魔力を吸っているようだ。このままでは命に関わる可能性もある。おれはフリナから管を外し、鎖も引きちぎった。頑丈ではない、ただの鉄製のものであった。
ーー「…?誰か来たな。」
ーー「誰だ貴様。上から音がするから向かおうと思ったら……お前も捕まえるしかないか。」
奥から4、5人の人間が現れた。いや、それだけじゃない。奥からぞろぞろと出てくる。さっきの男の仲間か?面倒だな……目を覚さないフリナをおれは背におぶって相手と向き合った。
ーー「さっき部屋で人の死体を見たぞ。フリナのことも連れ去ったしよぉ……許す気はねぇが、抵抗しねぇなら優しくしてやるよ……。」
ーー「バカを言うな。我々は大義のために行動しているのだ。それに我々が死んだとしても計画は狂わないしな。」
ーー「そうか……。」
良かった。おれは今怒りで頭が沸いていたんだ。さっきの人間を殺したのはコイツら……コイツらの親玉だ。大義だかなんだか知らないが…人の命をなんだと思ってるんだ……!それに……おれの仲間に手を出して、無事でいさせる訳がない…。
おれは右手を前に出し、親指と中指を合わせて指鳴らしの形をとった。
ーー「『百花繚乱』!」
ーー「!!?」
指を鳴らした瞬間に、指の間に圧縮した魔素を爆発させた。そしてそれに対応させるように、圧縮した魔素を周囲に散らせ、精霊の力で体外の魔素も操作、爆発させる。その連続で爆発が爆発を呼んだ。
爆発の規模はそこまで大きくしなかったので、ヤツらも死ぬことはないだろう。だが無事でもないはずだ。床に倒れた姿を確認し、フリナを背負ったまま外へでようとした。
ーー「ーーーーーーーー!!」
ーー「!?……声!?誰かいるのか!?」
部屋の更に奥から高い悲鳴が聞こえた。頭に血が昇って探知が疎かになっていた。いや、フリナを発見できて安心したからか?とにかく声の元へ向かうことにした。悲鳴は幼い声だった気がしたからだ。被害者がまだいたのかもしれない。
ーー「………君…は……。」
そこにいたのは5歳にも満たない少女であった。イスに固定され、フリナよりも多くの管で繋がれている。そんなに魔力を吸われていては危険だ。イスと少女を放し、管も全て切り離した。そしてその少女をよく見てみると……
ーー「君……もしかして、魔族か…?」
ーー「………魔族!!?」
ーー「うわッ!」
瞬間、フリナが目を覚ました。急に耳元で叫ばれたので流石に驚いた。
ーー「あれ?私って確か……ってエストじゃないか!助けに来てくれたのか?」
ーー「ああ。少し静かにしてろ。まだ元気じゃねぇだろ。」
ーー「おじちゃん達……人間…?」
ーー「おじ……!言うならお兄ちゃんかな。」
おれはそんな老け顔ではない。というかまだ15だし全然大人には見えないはずだ。……まぁ小さい子には分からないのか。
ーー「おれは人間だけど……なんで君はここに捕まってるんだ?」
ーー「…………言えない…。」
何かに怯えているような雰囲気だ。魔族の子なら人間を恐れるというのも不思議ではないか。だが、なんだろうか。この子は少し魔族とも違う感じが……。
ーー「おい!何が起こったんだ!!何だ貴様ら!」
ーー「落ち着いて下さい。逃げられた訳でもないッスから。」
突然2人組の男女が現れた。今一瞬見えたのは獄現門だ。コイツらは魔族、さっきのヤツらのボスか…?いや、片方、男の方は少し雰囲気が違う。なんだかデスバルトに似ているような…。
ーー「なんだ…?お前らは……。」
ーー「勝手に人の家に入っておきながら……何を勝手なこと言ってんだ。それにそのエルフと少女を逃がそうとしてんじゃねぇよ。」
ーー「勝手したのはお前らだろうが。うちの仲間に手ぇ出しやがって。」
コイツらに対して怒りはあるが、今ここでやり合って不利なのはおれの方だ。おれ1人だけならなんとかなったかもしれないが、フリナと少女の2人を守りながら戦わなくてはならない。特に危ないのは女の方だ。強力な魔族、ハバほどでは無さそうだが恐らく九月だろう。一旦2人を連れて逃げることを考えなくては。
ーー「待って下さい。そいつ、多分エストですよ。デスバルトさんが言ってたでしょう?ハバとダルカライトをやったって。そいつの仲間となると……エルフを連れてきたのは失敗だったかもしれませんね。」
ーー「何!?……面倒だな。倒せるか?」
ーー「私達でやれば1人なら……。」
ヤツらは臨戦になった。どうやら戦う気らしい。
ーー「やる気のところ悪いが、おれは逃げさせてもらうぞ。流石に分が悪いからな。」
ーー「『白天』!」
ーー「……?」
おれは天井に向けて技を放った。光は天井を貫き空まで突き進む。これならセリアとグラも気づくだろう。そして空いた穴からこの地下室は崩壊を始めるだろう。それまでにフリナと少女を連れて脱出しなければならない。
ーー「『身体強化』!」
ーー「おい、君も連れて行く。しっかり掴まれよ。」
ーー「う、うん。」
おれは背中にフリナをおぶり、右手で少女を抱えた。少女の方は困惑しながらもおれにしがみついた。この子もここから逃げ出したいのだろう。
ーー「逃すか!」
ーー「……ッく!」
女の方が接近して殴りかかってきた。体を仰け反らせ回避し、下から蹴りを入れたが、手で受け止められてしまった。それどころか、触れられた瞬間、足の骨にヒビが入ったようだ。何かの能力、やはり狭い場所で戦うべきではない。おれは魔族から距離をとった。
ーー「『部分身体強化』『業天爆』!」
おれはさらに強引に天井に穴をあけ、ここから脱出した。遠くからセリアとグラが近づいてきているのを感じた。できれば一旦合流したいが、ヤツらもすぐに追ってくるだろう。フリナと少女を逃すためにまずは教会から離れることにした。




