第40話 再び
ーー「まさか君が来るなんてね。たまたま近くにいたのかい?バンリュー。」
魔族は向かい合った人間に対してそう言った。バンリュー。人類最強として知られている男だ。彼の実力はかつて魔神を討伐したと伝わる大英雄にも匹敵するのではないかと言われるほどだ。そして現代では唯一、三界に届く実力者でもある。
ーー「…まさか……近くにいた訳じゃないさ……。大きな魔力が突然現れたからな…。さっきまで東大陸にいたが…急いで来たんだ……。」
ーー「東大陸に?もしかして、戦争に参加してたのかい?」
ーー「…そうだ…。とりあえずあそこにいた魔族共は追い返したが…三番には逃げられてしまってな……。困ったもんだ…。」
ーー「ダンディール君はやられなかったか。運が良いのか悪いのか。まぁまだ時じゃないからね。」
おれはセリアからポーションを飲まされ、フリナの精霊の力で傷を癒してもらいながら2人の会話に耳を傾けていた。東大陸の戦争……終わったのか?魔族が撤退したということは一旦は人類が勝利したということか……?
ーー「今日は僕は挨拶に来ただけなんだ!君と戦うつもりはないよ!僕が最初だとマズイしね!」
魔族が質問を終えると2人は拳を交えた。どちらの力量も等しく、ただ空気が、大地が揺れただけだった。バンリューは金属の棒のようなものを取り出し、魔族を打ち落とした。魔族は崩壊した街の方に落下したが、ダメージにはなっていない。
ーー「君とはまだ戦わないと言ってるだろ?少し落ち着いてくれよ。」
魔族は手をバンリューに向け、遠隔で彼を叩き落とした。グラを落としたときと同じように。だが当然、彼もその攻撃は効いていない。
バンリューと距離を取った魔族は再び獄現門を開き足を踏み入れた。
ーー「じゃあね、バンリュー。それとエスト君。3年だ。3年後に僕達の魔族の大行進を開始しよう。それまでに精々力を付けておくんだよ。期待してるからガッカリさせないでくれよ。」
そう言って魔族は姿を消した。バンリューも間に合わないと感じたのだろう。追ったり止めたりしようとはしなかった。戦いは激しくも呆気なく終わった。勝手に現れて勝手に帰っていく姿を見て、おれは悔しさに心を支配された。
少し遠くに人型のグラの姿が見えた。無事だったようだ。おれはセリアやフリナのおかげでかろうじて命を繋いでいた。とはいえ、少しでも気を抜いたら死んでしまうかもしれない。痛みを堪えながら何とか意識を保っていたのだが、血を失いすぎたからなのか、魔族が帰り緊張が解けたからなのか、気づくと、景色も音もおれの世界からは消えていた。
この事件は数時間後、世界中に知らせられた。西大陸と中央大陸を繋ぐ港町に三界が現れた。街は半壊、死傷者も数万人、駆けつけたEXランク冒険者・バンリューによって魔族は撤退した、と。そして最後にデスバルトが言った言葉、“3年後に侵攻をする”ということも。3年というのは普通に過ごしていれば長くもあり短くもある期間であるが、世界の命運を分ける期間としてはあまりにも短いものだった。現状、三界に抵抗できる戦力はバンリューと六法帝だけであった。故に人類は不安に駆られた。人間とは、確信できる安心がなければ、不安が勝る生き物なのだ。
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おれは白い世界で目を覚ました。いや、目を覚ましたというのは違うか。夢の中に起きたとでも言った方が正しい。
この世界は一度見たことがある気がする。何も存在しない、それでいて全てがある世界。だけど前より色んなことが理解できる。前はどうだったか覚えてはいないものの、この世界に対する理解が深まっているのが分かった。
ーー「また来たのか。君、懲りないね。」
そこにはいつか見た人影があった。あれはおれだ。おれであっておれではないけれど。多分あいつは……。
ーー「お前がおれをここに呼んでるのか?」
ーー「俺が呼んでるんじゃないさ。どちらかと言えば君が来てるんだ。君の力が完成に近づく度、俺を訪ねに来てるんだ。なにもかもを知るためにね。」
また訳の分からないことを。でも彼が言っていることは正しいのだろう。あやふやで意味不明な言葉だが、それがこの世界の真理なのだろう。
ーー「おれの力が完成したらこの世界に来ることはなくなるのか?お前はおれの能力《力》そのものだよな?」
ーー「そうとも言えるし、そうでないとも言える。でも確かに君が完成したら、つまり君が俺になれたら、ここに来ることはないよ。そのときに俺と会うことになるだろうけど、そこで“共振”が終わる。それが最後で、始まりになるはずだ。」
やはり言ってることは理解できない。だが、一つ確かなことがある。おれはまだ成長できるんだ。おれはまだ能力を使いこなせていない。
ーー「そろそろ戻れ。みんなが君を待っているよ。」
そう言われておれは、今度は確かに目を覚ました。宿のベッドの上だ。セリアとグラ、フリナがおれのことを見守ってくれていた。




