日常2
休み時間になると、いつものように俺の席の周りに友人の須賀田たちが集まりだした。
「最近寝不足だわ」
「大丈夫か、悠一」
「須賀田⋯大丈夫ではねぇな」
「もー、ちゃんと寝ないとエルム街でフレディと遊べないよ!」
「遊びたくねぇし夢に出てきてほしくねぇよ!!⋯ハルカ、俺が怖がりな事知ってて言ってるだろ」
「じゃあ、ジェイソンとフレディだったら、どっちがいいの?」
「どっちも嫌だわ!!」
俺が須賀田たちとくだらない話をしていると、後から聞いたことだが、この時刀夜たちが来ていたようだ。三人に気付いた由希は、こそっと教室から出て三人の後ろに回り込み、話を聞いていたらしい。
「え、何あれ誰あの人たち。悠一先輩って友達いたの?」
「みたいですね⋯」
「⋯由希先輩のせいで回りからホモ扱いされて浮いてるのかと」
「あ、それ俺も思ってた」
「言い過ぎですよ二人とも」
意外なことに刀夜は空気が読める子だったので、俺と須賀田たちの話の邪魔をするということはしなかった。失礼なことは言っているがな。
「こうなったら由希先輩に猫耳つけて悠一先輩に押し付けてやろうかな⋯」
「へぇ!それは物凄くいい発想だね。ユリと愉快な仲間たち」
「うわっ、びっくりした!!ちょ⋯由希先輩、愉快な仲間たちって⋯」
「あ、由希先輩⋯あの、今日一緒に帰れるかどうかを聞きにきたんですが⋯」
「運悪く他の先輩達がいて話し掛けにくい、と⋯」
「おっしゃる通りです⋯」
「あ、悠一呼んでこようか?」
「いえ、また改めて来ます⋯」
「そう?」
「はい⋯では、失礼します」
そう言って刀夜たちは自分たちの教室に帰って行ったそうだ。由希は刀夜たちを見送った後、教室に戻ってきた。
「お、ゆきゆき、何処行ってたんだよ」
「んー迷える子羊たちに救いの手を差し伸べにね⋯てか、その呼び方やめてよ須賀田」
「いいじゃねぇか、悠一の弟は俺の弟なんだからよ」
「何その自分勝手な法則」
由希が呆れながら須賀田に言うと、様子を見ていた迢河が嬉しそうにしていた。
「ねぇ須賀田須賀田ー、僕と早苗ってね、悠一とお友達で、ゆきりんともお友達なんだよー?」
「なん⋯だと⋯!?ゆきゆき!今から俺ともお友達だ!!」
「ハルカと早苗は認めるよ、友人だって⋯けど須賀田、君は認めない。てか、なめくじ飼ってる人と友人になりたくない」
「何でだよー⋯友達の友達と友達になるって結構楽しいんだぞー⋯後、ナメクジを飼ってる人を敵にまわしたな」
「はぁ⋯知らないし、訳分かんないよ」
あの由希を呆れさせるとは…須賀田を色々な意味で尊敬した。
迢河と由希が須賀田をからかっていると秋月が思い出したように「そういえば⋯悠一とゆっくり話すの今日が初めてだ」と、言った。
「え、そうだっけか?」
「あぁ、今まで話すタイミングが中々無かった筈だ」
思い返してみると普段一緒にいたが、確かに須賀田を通じて話すことはあれど、対面でゆっくり話したことは無かった。須賀田をからかっていた迢河が会話に入ってきた。
「確かに、今までタイミング悪く早苗に用事が入ったりなんやかんやあって話すタイミング無かったよねー」
「そっか、んじゃまぁ改めてこれからよろしくだな。えっと、秋づ⋯」
「早苗。早苗でいい」
「よろしくな、早苗」
「あぁ、よろしく⋯悠一」
「うんうん!青春だねー」
「つか、さ⋯隣にキノコ生やしてる人が居て鬱陶しいんだけど⋯」
「ようやく話掛けてくれたか、ゆきゆき⋯話掛けてくれたのは君だけだ。悠一なんて、目が合ってもシカトしやがったからな」
「話掛けたら面倒臭そうだし」
「友人に対して面倒臭そう、だとよ…ははっ…俺を置いて四人で楽しそうに青春、か⋯ははっ⋯⋯」
いつものテンションより、こっちのテンションの方が鬱陶しかったので由希には次から無視するよう言わないとな⋯。
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【吉良崎ユリside】
一年生の教室に戻った私たちはそれぞれの席へ座る。カノンは刀夜の席の近くなので、悠一先輩に自分以外の友達がいたことに寂しさ半分苛立っている刀夜の愚痴を聞いていた。
「全く悠一先輩ったら、俺がわざわざ来てんのに⋯」
「⋯まぁまぁ」
「落ち着けないよ。あぁ、苛々する⋯」
カノンに宥められても落ち着かない刀夜の顔の前に黒猫と白猫のパペット人形が現れる。刀夜が更に苛立ちながら顔を上げると、そこには猫耳のついたフードを深く被った遠沢莉奈が、両手のパペット人形をからかうように左右に振っている。
「ギャハハッお前、結構あの先輩の事気にしてんな。まさか弟さんみてェに好きなのかァ?」
「黒くん。そういうことは思ッても言ッたら駄目ですよ」
「莉奈、そのウザい白黒猫人形しまって」
「ギャハハッ俺らがログアウトしたら莉奈は喋れねェだろォ」
「何が面白いんだよ“莉奈ちゃん”」
刀夜が遠沢の名を呼ぶと、二つの人形は、ぴたっと動きを止めた。
遠沢が、からかっていた時とは違う低めの声を出すと、刀夜は嬉しそうに椅子から立ち上がる。
「おい、その呼び方やめろッて言ったよなァ?」
「莉奈ちゃんが可笑しなこと言うからでしょ」
「表出ろや。今すぐお前の目ん玉繰り出してカラスに食わしてやっからよォ」
「やれるもんならやれば?まぁ莉奈ちゃんみたいな細腕で出来るならね」
「⋯刀夜」
「カノン大丈夫。俺が負ける訳ない」
カノンは小さく頷き、教室の後ろへ移動する二人の様子を見つめる。
殴り合いを始めた二人が出す物音で、私の隣の席で突っ伏して寝ていた茶色く少し長い髪を下の方で一つに結んだ天原修は顔を上げる。
「ん⋯うるせぇな⋯」
「あ、天原おはよう」
「あぁ、おは⋯っ!?ゆ⋯吉良崎!いつからそこに?」
「先刻から⋯だけど」
「そっ⋯か。間抜けな顔、とか⋯涎⋯垂らしてなかったか?」
「大丈夫だよ?」
「そっか。良かっ⋯」
「立派に涎垂らして間抜け面してたからな」
「は?」
安心する天原にいつからいたのか、金髪で目付きの悪い日ノ浦文人が茶化すように言った。
「日ノ浦、そんな事なかっ⋯」
「お前の席からじゃ見えなかったんだよ。俺の席からなら見えた」
「まじで!?」
「嘘に決まってんだろ」
「日ノ浦、お前っ⋯⋯!!」
天原は拳を握り締め見下すように見る日ノ浦を睨む。日ノ浦は天原の睨みに気付き怠そうに溜め息を吐く。
「何だ怒ったのか?よせよ、喧嘩なんて。凡人が天才に敵う訳ねぇ」
「やってみなきゃ⋯分かんねぇだろっ」
刀夜と遠沢と同じように殴り合いを始めた二人から被害がこないよう教室の前へと逃げると、カノンも来た。
「何時からここは戦場に⋯」
「⋯ユリ、ポッキー食べる?」
「食べる」
この後、暴れる彼等を止めなかったからという理由で私とカノンまで罰として体育倉庫の掃除をさせられ、悠一先輩たちから笑われた。解せない。
ーENDーー