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白色。  作者: トーリ
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幸せの終わり


 高校二年生の春。地元で有名な縁結びの神社で大好きな人から告白されて、付き合って、この幸せがずっと続くと思っていた。


 普通の人生を生きてきた私に好きな人ができて、その好きな人から告白されて、もしかしたら⋯いつかその好きな人と結婚出来るのではないか⋯なんて浮かれた考えばかりをしていたその時の私は、本当に幸せだった。

 けれど、昔から私には幸せが続いたことがない。いつだって、そうだった。幸せを願えば願うほど、その幸せは短くて、幸せが大きいとその幸せの終わりはいつもとても辛いものになるのだ。


 好きな人に告白された縁結びの神社で、今日も幸せを願う。

「どうか、この幸せが⋯ずっと、続きますように」

 好きな人とずっと一緒にいたい。私の願いはただそれだけだ。それ以上は何も望まない、だから…だから、この願いだけは叶えたい。


 一週間に一度、縁結びの神社に来ることが日課になり、告白されてから半年経つ今日も神社に来ていた。

「神様…どうか、お願いします」


 参拝を終えて、神社を見渡す。

 縁結びとして、有名な神社の筈なのに最近は参拝にくる人だけでなく、神主まで見かけなくなってしまった。ただ、私が来ている時間に人が来ないだけだろう、そう思うようにして、家へ帰ろうとすると、鳥居に人が立っていることに気付く。



 その人は、私の恋愛相談をずっと聞いてくれていた可愛い後輩だった。どうしてこんな所にいるのだろう。そういえば、好きな人と付き合ってからは話す機会が減っていた。

 久しぶりに会う嬉しさに我慢できず手を振って、駆け寄る。色々な話がしたかった。この半年、ずっと幸せだったことを。

「久しぶり!××くん!」

 鳥居まで行くと、彼は私が駆け寄ってくると思っていなかったのか、眉を下げ困ったように微笑む。

「お久しぶりです、あなたのことだから転けるんじゃないかとヒヤヒヤしましたよ」

 半年間、話さなかったから少し距離ができているかもしれないと思ったが、あの頃と変わらない態度に安心する。

「あのね、聞いて欲しいことがあるの!私、彼と…」

 付き合っている、と言おうとした瞬間、頭に鈍い痛みが走る。彼の手には大きな石があって、それで殴られたことに気付いたのは、地面に倒れてからだった。



 彼の声が頭に響く。

「あぁ、すみません、先輩。聞きたくなかったんです、あなたの口からそんな戯言。恋愛相談聴いてる時から正直、嫌だったんですけれど、仕方ないですよね⋯。そうでもしないと、あなたとの時間は無かったしあなたは僕に見向きもしてくれなかった⋯だから屈辱的な時間でしたけど、幸せな時間だったのは確かですから、何とも言えないですよね⋯。凄く、ものすごーく今更ですけど言わせてください。僕、あなたのことが好きなんです。あなたがいないと何も面白くなくて、何も手につかなくなっちゃって⋯。けどね、この神社に人が行かないように手を打つことは、ずっと続けれたんです。ちょっと悪い噂を広めただけなのに、人って簡単に信じるから面白いですよね。この神社ね、健気に参拝に来てるのはあなただけだったんですよ」


彼は私の顔を覗き込み、私の頬を撫でる。

「あ、そうだ。僕は優しいから教えてあげます。僕が次にするのは、あなたの好きな人をあなたの目の前で殺すだけです。あぁ、先輩⋯泣かないでください。嬉しいんですよね?ようやく僕と一緒になれるのが⋯。大丈夫、僕はあなただけを愛し続けます。僕と幸せになりましょうね。愛しています、×××先輩」






_____________




 あれから何年経ったのだろう。

 彼は私に言った通り、私の好きな人を私の目の前で殺した。その後、彼との子供を産まされた。その子供も一歳になる前に彼がどこかへ連れていき、今どうなっているのか分からない。


 私が何をしたというのだろう。

 ただ、女の子としての当たり前の幸せを願っただけなのに。

 好きな人と一緒にいたい、ありふれた願いではないのか。特別お金持ちになりたい、特別な存在になりたい、なんて願っていないのに。

 子供と引き離されたあの日から、ずっと死ぬことだけを考えていた。死にたくて、ずっと死のうとしているが、いつも邪魔をされる。今はもう体を自由に動かす事が出来ないように身体を拘束されている。


「ねぇ神様、助けて⋯」

 ぽつりと漏れたその言葉は誰にも届かない、そう思っていた。



「まだ⋯⋯足りな、い⋯⋯」

 自分では無い誰かの声が聞こえ部屋を見渡すと、灰色の髪で、ボロボロの和服を着た傷だらけの男の人が立っていた。男の人の周りには蛍だろうか、三匹程舞っていた。

「あなたは⋯」

「絶対⋯助ける⋯お前は、ずっと、来てくれていたから⋯」

「来て、くれていた⋯?もしかしてあの神社の⋯?」

 その人は答えず、私の頭を優しく撫でる。

「ほんの少し⋯眠っていてくれ⋯彼らも⋯助けてくれる⋯⋯」

 彼ら、とは誰のことだろう。けれど、きっと私が想像しているように、この人はあの神社の神様で、私を助けにきてくれたのだろう。手の温もりがとても心地良く、眠くなる。

 次に目を覚ました時、もしかしたらこの地獄が終わっているのではないか⋯なんて期待を抱いて私は目を閉じた。

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