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4話 ルイナとの約束


それからルイナと貴族街をぶらぶらと歩きながら色々なことを話した。

彼女はどうやらこの街に住んでいるわけではないらしい。

なにか目的があってこの街に来て、その目的までには結構な時間があるから暇つぶしに散策していたら俺と出会ったと。


「ねぇ、どうしてユッキーはそんなに気持ち悪いの?」


突然、ルイナからそんなことを聞かれた。


「き、きもち、わるい…?」


気持ち悪い…だと?

急な悪口…だ。

い、一体俺のどこが気持ち悪い?


見た目……?

…顔かっ?

いや、それはおかしい!

このユキ・グレイシアの顔が気持ち悪いはずなどあり得ない。

なぜならこれは、母から受け継いだ美顔。

ならまさか…中身…の方か?

もしかして、俺って…キモいのか…。


ああ、なるほど。

さっきルイナの言ってた嫌う覚悟、

嫌われる覚悟ってのはこれの…ことか…。

しかしな、俺のメンタルの強さを舐めないで貰いたい。

女の子からキモいと言われたって、そりゃすんげー傷つくけど、マジで泣きそうだけど、折れそうだけど。

なんとか我慢できる。


「うん、なんでそんなキモいの?」


いや、だからって言っていいわけじゃないんだよ?

傷つくのは傷つくんだよ?ルイナさん?

血の涙を垂らして我慢しているだけなんだよ?


「その、ルイナ。因みに俺のどこがキモいとかある?」


もしだ。

もしそれが改善できる範囲ならしたいものだ。

見た目なら髪型変えてみたり、

心ならちょっと心持ちを変えてみたり。

そんなふうに自分が変われば相手の印象もちょっとは変わるはずだから。


「魂」


できるかぁい!!

そんなんどうやって変えろってんだい!!


「ねえどうして、ユッキーの魂はそんなに歪なの?」


「えぇ?歪ぅ?歪なの?俺の魂?

ああ、そうなんだ、知らなかったなぁ」


知らねえよそんな魂なんて、見えないものさ。


「あ、ごめん。

勝手に話し進めてた。

私ね、産まれつき人の魂の形が見えるんだ。

いやこの場合、

見えると言うより感じ取れると言った方が正しいかも。

私は人を見ればぼんやり感じることができる。

でね。

ユッキーは、それがとても歪で気持ち悪いの」


人の魂を感じ取れるとかって話が本当かどうかってのはひとまず置いておこう。

この世界でこういう不思議は一般的な物なのかも知れないし、もし一般的じゃないのだとしても、俺には嘘だとも断定できないから。


「ユッキーの魂は、二つの魂が力技で無理矢理一つに纏められたみたいな形をしている。

私が今まで見てきたなかでそんな魂、存在しなかった。

だから、何か理由ワケがあるんじゃないかって思って」


「こんな魂になった理由……?」


「うん、なにか心当たりはない?」


…それはぜったい。

自信を持って、

確信を持って。

この記憶のせいだろうと言える。

どう考えてもこの俺の中の前世の記憶が魂を歪めてる原因だろう。


けどさ、

でもさ、そんなこと言ったってさ。

しょうがないじゃん、思い出しちゃったもんはさぁ。

忘れられるもんなら忘れたいよ?

できるならちゃんとした5歳児に戻りたいよ?

けど、できないもんはしゃあないやん。


「いや、っー。

おっかしぃなーまっったく、心当たりがないなぁ?

ええっと、なに?

その、魂の形が歪だと、なんか悪いことあんの?

病気に罹りやすかったり、不幸になったりすんの?」


「ううん。

特に何かに関係があるってわけじゃない。

ただ、私が気持ち悪く感じるだけ」


そっか。

特に関係ないか。

ただ気持ち悪いだけか。

でもそれは、それでなんか、やだなぁ。


「じゃあさ。

なんでそんなキモい奴に話しかけたわけ?

友達になろうとしたわけ?」


魂の形の良し悪しとかはよく分からないけど、

俺なら気持ち悪いと思った相手とはまず関わりすら持とうとしないけどなぁ。


「話しかけた理由は、興味から。

友達になった理由は…成り行きから?」


興味と成り行きか。

ああ、そっか。

それはそうだな。

友達は、俺から言い出したことだった。


「でもね。

私は今、久しぶりに、楽しい」


そう笑うルイナ。

無表情で無骨な表情ばかりの彼女の笑顔はここで初めて見たものだった。

…。

なんだ。

なんだよ、お前、そんな表情もできるのか。


ルイナのこの笑顔を見れてよかった。

俺の魂がキモくて本当によかった。


・・・


「そういえばさ。

ユッキー、中層に行きたいって言ってたっけ?」


「え?」


「最初、確か中層に行きたいって言ってたよね。

でも門番が邪魔で進めないって」


…ああ。

たしかに、そんなことを言ったような、

言わなかったような。

すっかり頭から抜けていた。


「そうだね。

そう、確かに、そうなんだよ。

門番が邪魔でさ、中層まで行けなくて」


「それ。

私が助けてあげようか?」


「ん?」


助ける?

助けるって?


「私ならその門番達をどうにかできるから」


どうにか……ってどうやって?


「これを説明するより。

見せた方が早いかな。

戻るよ、ユッキー。

さっきの場所まで」


「あ……うん、分かった」


・・・


上層と中層を区分けする関門。

丁度一時間くらい前に通行止めをくらったその場所に、俺とルイナは再びやってきた。

相変わらず怠そうに突っ立っている2人の門番。


「ここで、待ってて」


ルイナは俺にそう言うと、門番の二人に向けて歩き始めた。

なにか秘策があるのだろう。

相手は大人だというのに全く物怖じしないルイナ。

やがて、門番の二人のうちの一人がルイナを見つけると、


「…ん?子供?なんでこんな小さい子が一人で?」


「迷子かなんかじゃないの?」


「ああ。そうか。そうね。

ちょっと、ごめんね。

お嬢ちゃんいくつ?

迷子かな?

お父さんとお母さんは?」


そう優しく、見事な対応を見せた。


「ごめんなさい」


ルイナが彼ら2人にそう謝った瞬間だった。

二人の門番はバタリと、なんの脈絡もなく、その場に倒れ伏した。


え?


理解できなかった。

だって、そこでは何も起きていなかったから。

ただルイナが二人に近づいただけで、当然、二人組が倒れる理由なんてなかった。

ルイナは何かをしたわけじゃなかった。

それなのに、なぜ?

なぜ二人はこうも都合よく、倒れた?


「もういいよ。ユッキー」


ルイナは振り返って俺を呼ぶ。

もう、ここは通れると、そう言う。


「いま、ルイナがその二人に何かをしたのか?」


「そうだね。

この人たちは邪魔だから寝てもらった」


寝てもらった。


「え、えっと…その二人は大丈夫なのか?」


「うん、殺してないよ」


殺してない。

それはつまり、殺すことも出来るということなのだろう。

手を触れず、近づいただけで大人二人を殺せるということ。


ルイナは…この少女は何者なのだろう。

まず6歳にしてはあまりに知的だ。

それに今のよく分からない現象。

きっと彼女は、俺の知らない何かを知っている。

そして、そんな力を持っている。


「何を…したんだルイナ」


気になって仕方なかった。

だから、聞いた。

教えてくれるかもしれないという淡い期待から。


「それは…」


ルイナはそう一瞬何かを話そうとした。

が躊躇った。


「…私の力なんてどうでもいいことじゃん。

通れるんだから、行こうよユッキー。

この先は、今よりもっと楽しいことが待っている」


・・・



中層は、ごく普通と言えるエリアだった。

上層のような派手で、金をふんだんに使った家はあまり多く見られず、かといって困窮しているようにも見られない。

正に住宅街といった感じか。


暫く歩くと賑やかな広場に出た。

一本の巨大な大通りに路面店がずらりと並ぶ露店。

きっとここがこの街の交流の主戦場なのだろう。

そう思えるくらい大勢の人が入り混じっていた。


「凄く、にぎやかところだな」


「初めて見たらびっくりするよね。

ここの人口密度すごいから」


「確かに人口密度……すげえ」


耳を塞いでも聞こえてくる呼びかけの声。

動き続ける群衆。

どこを見渡しても人のいるこの環境は、東京の駅を彷彿とさせた。


「そろそろ、お腹空いたよね。

なにか食べない?」


時刻は12時、丁度。

確かに腹が減ってくる時刻ではあった。


「でも、悪いけど俺金なんて持ってきてないよ」


そこらにある売店で買おうにも金がない。

まず、金があっても、こんな子供に売ってくれるのかという問題はあるけど。


「大丈夫。私がなんとかできる」


すごいな。

またあの不思議パワーでも使うのか?

でも。

頼りになりっぱなしで、何だか悪い気がするなぁ。


その後、ルイナは特に能力を使うわけでもなく、

そこらの露店で普通に飯を買った。

どこにでも売っているような炭火焼きの肉串を二本だ。


どこからか取り出したピカピカに光るワンコインをカウンターに叩きつけ。

おつりは要らないとカッコよく言ったルイナ。

俺には、そのワンコインにどれほどの価値があるのかは分からないけど、店員の驚愕模様から。

多分、とんでもない値段なのだろうとは簡単に予想できた。


うん、ますますルイナの正体が分からない。


・・・


ルイナと街の中層を巡り、早いことに時刻はもう夕方。

日が沈みはじめる黄昏の時。


「そろそろ、私帰らないと」


「あ、もうそんな時間か」


「私、結構。偉いんだ。

帰らなかったら皆心配するだろうから」


ルイナの言葉は、俺にも刺さる言葉だった。

今頃、屋敷の使用人たちはどんな顔をしているんだろうか。

多分、帰ったら説教が待ってるだろう。

あーくそ。

憂鬱だなぁ。


「私、この後中層で集合なの」


集合。

つまり、上層にはもう戻らない。

帰り道は俺一人になると言いたいのだろう。


「そっか、じゃあここでお別れだな」


「うん、そうなるね」


ルイナと離れるのは少し寂しかった。

だって初めてできた友達だったから。

もっと色々話したいことがあった。

遊びたかった。

でもルイナにはルイナの事情がある、無理に引き止めることもできないだろう。


「…その。

ありがとう。

今日は楽しかった。

ルイナと…また、会えるかな。

ほら、串焼き……返さなきゃいけないしさ」


ルイナはここに住んではいないと言っていた。

だから多分、そう軽々しく会えるわけじゃないんだろうけど…。


「いつ……この街を出てくんだ?」


「明日」


思ったより早いな、おい!


「正確に言うなら、今日の夜。

深夜には出ていく。

だから、もう、ユッキーと会うことはない」


「そっか。

そうなるのか」


「うん」


暫くの沈黙が続いた。


「でもさ、もう一生会えないってわけじゃないだろ?

生きてればまたどっかで会える。

いつか会いに行くよ」


「え?本当?

本当に会いに来てくれる?」


「もちろん。

今は会えないかもしれないけど。

いつかは絶対に会いに行く」


「嬉しい…。

噓じゃないよね?」


「うん、噓だと思うなら約束しよう。

ルイナ、小指出して。

こうやって絡めて。

指切りげんまんー噓ついたらー針千本飲ーます」


俺はそうやってルイナと日本式の約束をした。


「……えげつないこと言うねユッキー。

拷問でもそんなことしないよ」


「違う、違う。

本当にそんなことはしない。

これはおまじない。

そういうもの」


「へぇ、おまじない……か。

そうなんだ…」


「だから、ルイナ。

最後に教えてくれよ。

ルイナはどこに住んでいるんだ?

何者なんだ?

将来、俺はどこに行けば君と会える?」


ルイナは俺の質問に少しの間、口を閉ざすと。

手を胸の前で押さえながらたどたどしく言った。


「私…けっこう。

今からけっこうとんでもないこと言うから。

これ、多分、かなり重い話だから。

ユッキー、それで態度とか変えないでね。

そういうの、ほんとイヤだから」


「…え?

いやいやいや、なんだよ?

引かない!引かないって!

何言ってんだよ急に?

態度なんか変えるわけないだろ?」


「そう。

それならいいんだけど。

じゃあ、言うね。

…本当に言うよ?

私は…。

私はっ…聖国…正教国グランネミア…っていう国の…」


「ちょっとまって、正教国って?」


「…まさか、グランネミアを知らない?」


「うん」


「…そ、そっか。

そんな人いるんだ。

まぁいいや、なら後で調べるといいよ。

で話を続けるけど私、そこの教皇なんだ」


…ん?…え?

なんかいまさらりと、とんでもない事言わなかった?


「教皇?」


「そう、教皇。

一国の皇様」


「皇様…」


ええ?

皇様?

6歳で一国の皇?


「…それ、まじ?」


「信じないなら信じないでもいいよ。

証明できるもの、今は持っていないから」


「いや、信じるよ。

ルイナがそう言うなら信じる」


わざわざこんな嘘を付く理由もないだろうし。

なら本当なのだろう。


「そ。

まぁ、でも教皇…って言ってもハリボテなんだけどね。

政治とか難しい事はやってない。

ただ、象徴として存在してるだけ。

私が一番適任だったから選ばれただけ」


「選ばれた?」


「うん、教国の皇はね。

血筋とかは関係なく神の啓示を受けた人間が次の教皇になるの。

前教皇が死んだ後、私が選ばれた。

だから私が皇になった」


「え?じゃあ、その前は…普通の人間だったってこと?」


「…まぁ、そうだけど、別に私は普通ではなかった」


「ん?どゆ事?」


「これについて…深くは話したくない」


本当に話したくないんだろう。

強く言い切るルイナ。

ま、なら聞かなくてもいいか。

別に無理をさせてまで聞きたい話でもないしな。


「でもさ、そんな人間がどうして警護もつけずに1人でいるの?」


一国の皇なんて要人なら常に護衛が周りにいそうなものだけれど。


「私がそういうの嫌いなだけ」


「嫌いって言っても…さ。危険じゃない?」


皇なんて狙われやすいだろうに。


「大丈夫だよ。

私、すごく強いから」


強い…。

ルイナのその言葉からは確かな自信を感じた。

そっか。

自分の身くらい自分で守れるってことか。

確かに、ルイナが門番を気絶させた時みたいな不思議なことが出来ればそうなのかもしれない。

うん。

色々と突っかかるところあるけど、

元の世界基準で考えちゃダメなんだろうな。


「私は…破壊の天子とも呼ばれてる」


「はっ、はかいっ…のてんし…」


突然すぎて思わず笑いかけた。


「むっ」


そんな俺の様子に気づいたのだろう。

ルイナは少し怒ってそっぽを向いてしまった。


「もう知らない」


「ごめんって…!ごめんごめん…っ!もう笑わないから!」


「本当に?」


ちょっとこっちを向くルイナ。


「本当、本当。

機嫌直してよ、破壊の天子様」


「ねぇ絶対馬鹿にしてるでしょ」


「してない、してないって」


決してルイナを揶揄うのが楽しいからワザとやってるとかそんなのじゃない。


「言っておくけど。

自称したわけじゃないからねこれ。

勝手に呼ばれてるだけだから、

そこんとこ勘違いしないでね?」










「って、

あれ…ユッキー?

ユッキー?

…どこ?行ったの?」












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