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16話 追跡

キレイはフォルカが用意したフォルカの服をクンクンと嗅ぐと頷いた


「これなら匂いは充分。辿るのには問題ありません

攫われたばかりでしょう、道に点々と匂いが残ってる。

早めに動いて正解でしたねユキ様、これがもし早朝とかだったらご友人の匂いは消えていたでしょう」


そう下層に向けて走り出すキレイ。

俺とフォルカもそれに続くように走った。

俺らはやがて公都のスラム街その入り口に差し掛かる。

ここに足を運んだのは5歳以来。

ルイナとの出来事から遠ざけ来ないようにしていた。

アリュザークは上層と中層が分厚い城壁で遮られているのと同様にように、中層も下層と壁と門で遮られている。だから通り抜けるためには、上層と同じよう2人ほどいる門番の目を搔い潜ったり、賄賂渡したりして通らなければいけないのだけど。


今回。

キレイが追跡し、見つけたその壁には穴が開いていた。

ぽっかりと開いた大きな穴だ。

地震などで空いた穴じゃない、何者かに、人為的にくりぬかれたような穴だった。


「…ご友人はこの先に連れ去られたようです」


「この先……つまり……」


「ええ、スラムでしょう」


言い切るキレイ。

彼女の言葉に俺は息を吞んだ。

アリュザークのスラム。

治外法権の魔窟、犯罪者の温床。

俺はそれを経験から嫌ほど知っている。


「行くぞ」


フォルカは一ミリの迷いなくその穴を通り抜けようとする。


「ちょっと待て」


俺はそんなフォルカの手を引いて止めた。


「なんだよ」


俺自身なんでフォルカを止めたのか分からない。

ただ身体が勝手に動いて引き留めていた。


「やめよう……フォルカ」


口から思ってもない言葉があふれ出した。

ブルブルと脚が震え、それ以上先に、スラムの先に進むことができない。


「もう、やめたほうがいい、その先には行かないほうがいい…」


「は?

なに言ってんだよ…ユッキー……」


フォルカは信じられないようなものを見るような眼つきで俺を見た。


「危険すぎる…

もう、この事件は、俺らの手に負えるようなもんじゃない……」


そうだ。

俺は分かっていた。

家にフォルカが転がって来たその時から、

アカリの家に行って、死体を見た時から、

ずっと、ずっと、ずっと

分かっていたんだ。


この事件。

そこの見えない闇がある。

敵の戦力が不鮮明すぎる。

10歳の子供だけで解決するのはどう考えたって無理だ。

無謀だ。

あまりにも危険すぎる。


「っは、なんだよ。

ユッキ―は、このままアカリが殺されてもいいってわけか?」


フォルカは薄笑いをしながら言う。

その笑い声には俺への失意が多分に含まれていた。


「違うっ!」


「何が違うんだ?

助けないってことは別に殺されてもいいってことだろ?」


「だから違うっ!大人の手を借りた方がいいって言いたいんだ」


「じゃあ聞くけどさあ!!

その大人たちがここまで事を大きくしたんじゃないのかよ!?」


「…っ」

返す言葉が見つからなかった。

だってそうなのだから。

まったくもってフォルカの言うとおりだったから。

ここまで事が大きくなったのは、誰にも止められなかったから。

アカリが攫われたのは、都市が本気で止めようとしてなかったから。


「大人たちに任せればいつか犯人は見つかるかもしれねえ。

捕まるかもしれねえ!!

けどそれは、今すぐじゃねえ!!

ちんたらやってる間、アカリは殺される!!

アカリは怯えてる!!

苦しんでる!!助けを求めてるんだ!!

オレらには『今』しかねえだろうが!!!」


そう俺の胸倉を掴むフォルカ。


なんでだよ。

なんで?そんな顔をするんだ?

まるで俺が間違ってるみたいな。

違う。

俺は正しいことを言っているはずだ。

俺らには無理だから、他の人にやってもらおう、それの何が間違ってる?

それでアカリが助からなかったとして、ここにいる俺らは救われる。

わざわざ死にに行かなくたっていいだろ。

馬鹿みたいに全員で死ぬ必要なんてないだろ。

そりゃ助けたいよ。

俺だってアカリを助けたい。

でも、無理なことだってあるだろ……。

全部は選べないこともあるだろう……。


「この先に行けば俺らは死ぬよ」


「上等だっ、殺してみやがれ!!

友達を見捨てるくらいなら死んだ方が100倍マシだ!!」


フォルカは俺をそう突き放した。

俺は勢いのまま臀部を地面に落とす。


「怖くてしょうがないなら、一生そこで寝てろよ、腰抜け野郎」


「待てっ!フォルカ」


「もう充分待った!!」


フォルカは振り返らなかった。

たった一人で、スラムの暗闇に足を踏み入れていく。

俺はそんな彼女の後ろ姿を見送ることしかできなかった。


「ユキ様……」


キレイが倒れた俺の背中をさすった。


「キレイ……。

俺、間違ってるかな」


「いえ、正しいです」


そうだ俺は正しい。


「そうだよな。

正しいのは俺で、間違ってるのがフォルカだ」


キレイはそっと立ち上がると、フォルカが通った壁の穴に向かっていった。


「キレイ?」


「ユキ様はグレイシア家の跡継ぎ。

家の存続のためにも命を大事にすることが何よりの仕事です。

けれどもあたしは一介のメイドに過ぎません。

代わりならどこにでもいる存在です」


「どこ行こうとしてるんだよ?キレイ?」


「ごめんなさい、ユキ様、行ってきます。

アカリさんを探すにはこの後もあたしが必要でしょう。

そして、あたしも助けたいと思っている。

あたしも馬鹿なんです。正しさだけで物事を考えられない愚者なんです。

アカリさんのことはよく知らないけど。

見ず知らずの人でも助けを求めているなら助けたい」


「死ぬかもしれない……だぞ?」


「はい、それでもいいです」


いいって。

そんなわけないだろ。

そんな簡単に死んでもいいなんて言うなよ。


「ユキ様、お願いがあります。

もしあたしが帰らなかったら。

姉に…田舎の家族に愛してるとだけ伝えておいて欲しいのです」


「…キレイ」


「ごめんなさい」


謝るキレイは俺の元から離れて、

行かせなかった。


「ユキ様?」


俺は立ち上がりキレイの腕を取っていた。


「どうか手を離してはいただけませんか?」


「…」


「お願いしますユキ様」


「キレイ……。

俺も行く」


キレイは俺の言葉に驚かなかった。


「…いいんですか?

この先は死地。そう言ったのは他でもなく」


「俺だよ。

そうだ、この先はきっと死地。

だから望んでそこに挑む奴はバカだ。

自ら谷底に落ちに行くのと一緒だ。

でもバカでいい。

かしこぶって、

誰かを見捨てしまうくらいなら、バカがいい」


「もう怖くないんですか?」


「怖い。

怖えよ。すげー怖い。

でもそれ以上に仲間を失う方が怖い」


キレイはそんな俺に微笑んだ。


「キレイ」


「はい」


「絶対に生きて帰ろう」


「はいっ!」


・・・


外壁の穴を通り抜けた先。

すぐそこにはフォルカが腕を組んで待っていた。


「来るのがおせえよ」


そういいながらもフォルカは俺のことを待っていてくれた。

俺が穴を抜けてくると信じてくれた。

いや、違うか。

キレイがいないからどこに行けばいいか分からなかっただけなのかもしれない。

うん、多分そうだな。


「ここに来たってことはもう死ぬ覚悟は決まったな?」


「違う。死なせないために来た。

何があっても俺がみんなを死なせない」


俺は何のために強くなった?なろうと思った?

そうだ。

誰かを護るためにだろ。

今がその時なはずだ。


「…ふん…そうかよ……なら行こうぜリーダー、こっちは期待してんだから」


・・・


覚悟が決まれば歩を進めるのは早かった。

キレイの鼻を頼りにそのまま下層スラムを下へ下へ突き進む。

道中スラムの住人に会い騒ぎになるようなことはなかった。

アカリを攫った何者かは人目を避けるように通路を進んでいたから、それの匂いを辿ってきた俺らも勿論、誰かしらと出くわす筈もなく、やがて俺らはスラムの下水道へと辿り着く。


「…ユキさま。

そしてフォルカさん。

ご友人はどうやらこの奥に連れて行かれたようです」


キレイは立ち止まりそれに指を差した。


スラムの下水道の入り口。

そこはアリュザークの上層から中層にかけてのほぼ全域から集められるようにひかれた、下水道。

要はアリュザークのゴミ捨て場なだけあってもの凄い異臭と禍々しいオーラを放っていた。


「…キレイ…本当にこの奥で間違いないか?」


「はい。

間違いありません」


「…っ…んく」


キレイの横でつよく唇を噛む仕草を見せるフォルカ。

頬から汗が伝い、やがて顎先から地面へ滴り落ちた。

彼女の横顔を眺めれば、今まで見られなかった小さな震えと怯えが見える。

そうだ、フォルカも本心では怖がってる。

勇敢なふりをして、

口では死んでもいいなんて言っておいて、本当はこんなに震えてる。


「…行くぜ、行ってやる…。

待ってろよ、今助けるからなアカリ…」


ガチガチに固まった身体のまま猪突猛進。

突撃しようとするフォルカを俺は止める。


「ストップ」


「…あ?

なんだよ?ユッキー…まだなんかあんのか?

この先にアカリがあるんだろ?」


「いったん、作戦会議だ」


・・・


アカリの救出を急がなければならない。

でもその前に俺らは、はやる気持ちを抑え、冷静にならなきゃいけない。


「いいか、この先俺がこの小隊のリーダーになる」


「ショウタイ?」


フォルカが頭上にハテナを浮かべながら首を傾げた。


「同じ目的を達成する為のグループってことです。

効率的に目的を達成するためには、メンバーを纏める指揮官が必要不可欠…そう言うことですねユキ様」


「あ、うん、そう」


どや顔で、俺の説明しようとしたことをそっくりそのまま言ってくれたキレイ。


「だから、今までは良かったけど。

この先は俺の命令には絶対に従ってもらう」


「ええ?

…なんで?」


「一人が勝手なことすると、他の人も危険になる…そう言いたいんですよね、ユキ様」


そうまた、自信気に俺を見るキレイ。


「分かった。

勝手なことをしないで、

ユッキーの命令通りに動けばいいんだな?」


「そういうことだ。

さて、今から移動のフォーメーションを決める」


「移動のフォーメーション?」


これもまたキレイが説明してくれる…そう思って彼女を見たが、


しゅん。

と地面を向いて俯いていた。

ああ、フォーメーションまでは分かんなかったんだ。

こういうとこ可愛いよなコイツ。


「上から見て三角形の形になるように動く。

一番手前、先頭を歩くのは俺だ。

理由としては俺がリーダーだからってことと、

俺の持つ『瞬間移動テレポーテーション』の能力にある。


俺の能力は自分以外の物体を瞬間移動させる能力だ。

つまり飛び道具とかを無力化できる。

弓や、銃弾。他にも色々と、それが俺が触れられる範囲であれば、それらが俺の身体を貫通する前にどこかに飛ばすことが可能。

だから1番前だ。

ま、ようは敵の攻撃をなるべくたくさん受けたいってこと」


ゲーム的にいうとタンクの役割だな。


「…」

二人は黙ってこくり頷いた。

本当に分かってるのだろうか、心配だ。


「そして後方二人、右にフォルカ、左にキレイだ。

右と左の違いついてはキレイが左利きだからって理由だけだからここは変えてもいい」


2人はとくに異論はないようで話は進む。


「で、フォルカ。

お前の能力はなんだった?」


「え?能力?

あれ?ユッキーにはこの前見せなかったっけ?」


「確認だよ。

俺だけ知っていてもダメだろ。

キレイはお前が何を出来るか知らない。

誰が何を出来るか。

それをチームで共有しておくべきだ。

お前の固有理術、すなわち能力をここで話して欲しい」


俺の言葉にフォルカは頷いた。


「ああ。そういうことね。

オレの能力は『怪我を治す能力』だ」


そう。フォルカの能力は『簡易回復ファーストエイド』。

切り傷や擦り傷などの小さな傷を治す能力。

小さいとはいえ怪我を直せるのはありがたい。

回復役はチームに必要な人材だ。


「でも期待はすんなよ、オレ能力を使うのは苦手なんだ。

あまり大きな怪我は治せねえ。

せいぜい出血を止めるくらいの能力。

オレの得意分野は体理術。

殴る蹴るが得意だ」


「そういうことでフォルカは後ろだ」


「だから殴る蹴るの方が得意だって!

前だろ!なら!」


不服そうにフォルカは言う。


「出血を止めるだけの回復能力とはいえどチームで貴重なヒーラーだからな。

後方を務めてもらう、これは決定事項だ」


「でも」


「フォルカ…出血なんかっていうけど。

出血って余裕で死ぬんだぜ。

それを止められるお前は生きてるだけで救える命があるんだ。

お前の能力がこの中で1番価値があるんだよ」


「俺の能力に価値…がある?」


「そう、お前が俺らの命綱になるんだ」


「ふっ、ふふ命綱…ね、

まーそこまで言われたならしゃーないか!」

 

簡単な奴だな。


フォルカの方はひと段落ついたので、

次はキレイの能力を説明してくれ。

と、言おうとしたがキレイもう既に話し始めていた。


「あたしの能力は土から近接武器を作り出す能力です。

『無尽蔵のソードクリエイト

近接武器ならなんでも作れます、剣から斧、槍、

あたしが想像出来る物ならなんでも創造…。

んっ…。コホン…。

ただ、作り出すにはそれと同じ質量の土がなきゃいけないってのと、材質が元は土なので硬度は保証しますが、鉄で作られた武器とは違い軽く、使い勝手が違います。

あと、能力は使えますがあたしは戦闘が苦手です」


「そういうことで、キレイも後ろだ。

戦闘になったら俺とフォルカでやる、キレイは後方援護で頼む」


「はい」


「あとキレイ、武器の用意を頼む」


「いいですよ。どのような武器をご所望で?」


「フォルカには身軽な彼女が使いやすい刃渡30センチくらいのダガーを」


「いいんですかダガーで?

ロングソードとかも作れますけど」


「え?オレそれがいい!ロングソードがいい!」


「バカ言うな!

お前剣なんか振ったことないだろ。

ダガーにしとけ」


キレイはそう地面に触れると抜き身の短剣を作り出す。

土から作られた武器とはいえ、確かな硬度と金属特有の薄い光を放っていた。


「お、おお!

かっけえ!これがダガー!!」


フォルカはそれを気に入ったようで、新品の玩具を買ってもらった子供のようにブンブンと素振りをする様子を見せる。

俺はそんな彼女を置いてキレイに話しかけた。


「キレイお前自身の武器はお前が自由に選んでいい」


「はい、分かりました。

ではユキ様は?」


「俺はなんでもいいかな。

剣でも槍でも、斧でも、使えないものはない。

質に自信があるのを頼む」


チャンセバの教育のおかげで大抵の武器は扱える。

まぁ、と言ってもどれもさわり程度だからそれを極めた人には遠く及ばないのだけど。

良くも悪くも器用貧乏。

得意な武器がないとも言える。


「ではロングソードで。

あたし剣を振う人を見るの好きなんです」


へぇ、ソウナンダー。ま、いいんだけどさ。なんでもいいって言ったし。


「…体格に合うのを頼むよ」


キレイは自分用にフォルカに作ったものと同じダガーを作った後、俺には刃渡60センチのロングとはいえない諸刃の剣を作った。

俺もフォルカ同様ブンブンと軽く素振りをして確かめる。


「…いい出来だな」


金属でつくられたものより軽いからか、この小さな身体でも扱いやすい。


「鞘も作りました。

これを腰におかけください」


「お、ありがとう」


俺はキレイから貰った鞘を腰のベルトの左側に固定し、

それに剣を納めた。

さながら時代劇の剣士にでもなった気分だ。


「ユキ様…ベストショットありがとうございます。

ああ。そういうのが好きなんです。

尊いです」


…。

反応に困った。


「さて。

これでお互いの能力のすり合わせと準備はできた。

あとは、アカリを助け出すだけだ」

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