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1話 どうやら異世界転生したようだ

強い眩しさで目覚めた。


「痛い…」


次に痛みを感じた。

持続的で暴力的なズキズキとした頭部の痛みだった。


「痛い…あえ?

なんで、こんなに痛い…?」


そんな謎の頭痛を堪えつつ、

俺は閉じていた瞼をゆっくりと開く。

映った景色は真っ白な天井だった。

それは蝋みたいな無垢な白で、


「ここは…」


そこは柔らかなベットの上。

見るからに高級そうな羽毛のベットで。


きっと、怪我をしていたのだろう。

そして寝ていた。

だからこの正体不明の頭の痛みは怪我の痛みってわけで、その怪我の理由も今になってはっきりと思い出した。




俺の名はユキ。

ユキ・グレイシアという名前の人間。


王政ではなく、貴族達が統治する国家、『クレピス連合公国』。そこの公都にある貴族街の一角。

豪商グレイシア家の一人息子として俺は生まれた。

母親から産まれ、なに不自由なく甘やかされ育ち、はや5年が経過。


俺は、5歳の男子になった。


その誕生日。

何事もなかったゆるい日常の中でとある事故が起こった。

5歳の他でもないユキ・グレイシアはその日、屋敷の階段の吹き抜けから滑落した。


その理由は至極単純なもので、子供特有の遊び心のせい。

深夜、誰の目にもつかない時間帯。こっそりと部屋から抜け出した俺は屋敷のロビー階段の手すりをジェットコースター代わりにオンスライド。

そして、尻を滑らせ急降下。

頭から真っ逆さまの始末。


いや、まぁ。

それについては本当に、我ながら何をやってんの?とは思うよ。子供特有の無鉄砲とはいってもさ、加減ってもんがあるだろう。

今回たまたま運よく生きていたからよかったものの、一歩間違えたら死んでいた。

この件で迷惑と心配をかけた人達には心から申し訳なく思います。


…はい。


ってなことで。


とにかく。

ともかくだ。

そんなこんなをまとめると。

俺は貴族の国に暮らす豪商の息子で。

馬鹿な遊びをして、大怪我を負って死にかけ意識を失った、比較的、裕福な家庭に産まれた5歳児だった。


・・・


突然。

何の前触れもなく部屋の扉が開いた。

扉を開けたその張本人は、白髪の生えた老年の女。

見覚えがある人物だ。


彼女はグレイシア家、つまりは俺の家に長年勤める使用人のグレンだった。グレンは還暦を迎えた敏腕メイドでいつものように部屋の掃除でもしに来たのだろう。

扉を開け。ボーッと俺の顔を見つめる彼女の左手に握る掃除用具の類が容易くそれを想像させる。


グレンはいつでもクールな女だった。

普段は冷たい鉄ように無口で特徴的な糸目をもった彼女だが、目覚めた俺を発見したその瞬間だけはその双眸がカッと開かれていた。


「お、お坊ちゃま…!」


グレンは驚き口を抑えていた。

まさか、俺が起きているとは思わなかったのだろう。


「ご、ご容態はいかがでしょうか!?

どこかお痛みなどは!?」


あたふたと、俺の身を心配するグレン。

彼女の表情仕草がここまで乱れる所は珍しい、俺は初めて見た。


「ご容態…?

えっと…ああ。

頭だ…頭が割れそうなほど痛い…」


「…頭…」


グレンは持っていた掃除道具をそこらに雑に放り投げる。

ちなみにこれは比喩表現とかじゃなく実際にちゃんと放り投げた。

そしてその後、まさに漫画のように、すたたたといった効果音をあげながら部屋から飛び出していくグレン。


そうして待つ事しばらく。


またも部屋の扉が開かれた。

こんどは明らかに医者であろうわかりやすく白衣を纏った男と、車椅子に乗せられた、

真っ白な髪を持った女が部屋に入ってくる。


医者の方は誰だか知らない。

おおかた俺の為に街の医者でも呼んだのだろう。


しかし、車椅子に座った女の方なら俺は知っていた。

これ以上なく、よく知っていた人物だった。

その人は、


「かあさん」


彼女はレア。

レア・グレイシア。

他でもない俺の母親だった。

先程、飛び出していったグレンも母の後ろで車椅子を引いていて、そんなグレンに後ろを押されながら母は俺に近寄ると、


「ユキ…。ユキッ…!」


母、レアは俺を強く抱いた。


「大丈夫!?

ユキ?

どこか痛いところはない!?」


「え?

いや…あ、おはよう…かあさ、」


「ああっ!もうっ!

ユキっ…!!ユキ…っ。良かった。

もうっもうっもうっ。

ユキが生きていて本当に良かった…。

ううっ。

ありがとうございます…ありがとうございます…」


母は俺の無事を悟ると、

馬鹿をやった俺を叱るわけでも、ましてや咎めるわけでもなく、ただ俺の額に自身の額を合わせ抱擁した。


「うっ…ううっ」


と、そんなふうに、

ただむせび泣くだけの母を横で感じていれば。


「…ごめん…なさい」


俺も自然と涙を流していた。


...



5歳の誕生日。

馬鹿な遊びをして俺、ユキ・グレイシアは死にかけた。

あの白衣の医者に言わせてみれば頭蓋骨にひびが入るほどの重傷で、なんでも2週間もの間気を失い目を覚まさなかったという。

幸い落ちた先がフローリング上だったから幸い命を取り留めたものの、とはいえ頭を思いっきり打っていため。あのまま寝たきり一生目を覚まさない可能性も十分あったと言う医者。

それを聞いて、俺は再度自分のやらかしたことの重大さをしっかりと理解し反省する。

いや、猛省する。


で、猛省した上でだ。

ここらで後遺症の話をしようと思う。


2週間前の事件。

ユキ・グレイシア滑落事件とも言おうか。

それで死の淵を彷徨ったユキ・グレイシアの支払った代償は大きく2つ。


頭蓋骨のひび割れ。

それと普通の幼少期を送れなくなったことだった。


なに。

普通の幼少期を送れなくなったと大袈裟に言ってはみても、

それは特殊な障害を抱えてしまったとかそういうものではない。


ただ、思い出してしまった。

俺は前世の記憶というものを思い出してしまったんだ。


元々俺はこことは別の世界。

地球という星にある日本という島国に住んでいた。

その時の名前とか、性別だとか、自分がどれだけ生きたとか、いくつで死んでしまったとかって個人情報的記憶はまったくもって覚えていないのだけれども。

とにかく、分かるのだ。

俺は、間違いなくこの世界の住人ではなかった。


だからこれは俺の推測にしか過ぎないのだけど。

きっとこれは輪廻転生ってやつだろう。

生き物が死ねば、その魂は浄化されて再利用されるってよく聞くあれ。

以前の俺はたぶん地球のどっかでなんかして死んで、

その後の詳しいプロセスは全く分からないが、

事実としてこの世界のユキ・グレイシアとして蘇った。

そして普通ならユキ・グレイシアとして無垢に、

何事もなく無邪気なまま生きていくところを、

頭を打った際の一種の脳のバグのようなもので、

前世の失った記憶を思い出した、

そんなものだろうと考える。


まぁ、つまりだ。

今日という日は

5歳のユキ・グレイシアと、前世の『俺』が入り混じった全くの新しいユキ・グレイシアが誕生した日ってことで。


どうやら異世界転生したようだ。

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