ガロドー市
墜星歴5923年 『共和国』
陽没海に面し、古くから阿南大陸や星泉大陸からの玄関口として栄えるガロドー市は星央大戦開戦以来、同盟軍を支える港として機能している。
河口という天然の良港に恵まれた交易とワインの街の埠頭には、星の湧く旗を掲げる船たちが錨を下ろす。徴用された『連邦』の貨客船と護衛艦は運良く一隻も欠けること無く星央大陸へたどり着いた。
そして慌ただしく荷役作業が始まる。港湾労働者、税関職員、検疫官、軍の輜重兵たちが捌くのは、砲弾銃弾に始まり食糧、衣類、医薬品——。莫大な物資を消費する総力戦は、直接の戦場とはならない『連邦』が借款と引き換えに大きく支えている。
続々とタラップを降りた兵士たちは久しぶりの地面を踏みしめ、初めての星央大陸を歩いた。
「中隊ごとにせいれーつ!後ろがつかえる立ち止まるなぁ!」「各中隊長は点呼を取り報告してくださーい!」
整理の係に怒鳴られ、誘導される『連邦』兵の中にエルザも並んでいた。真新しいカーキ色の詰襟に磨かれたブーツ、少女は祖国よりも歴史ある街並みを見まわした。
そこには何処からか聞きつけた市民が、手に手に『ようこそ!ガロドーへ!』『同盟軍共和国万歳』などの幕や旗を掲げ『連邦』外征軍を歓迎する。
防諜上よろしくはなかったが、同盟軍合同司令部は大規模な動きは隠しきれないと判断、戦意の向上と天秤に掛けた結果、隠さず宣伝せずに落ち着いた。
「見ろよ、私たちのことが書かれてるぞ。」
商魂逞しく入り込んで来た物売りから買った菓子を齧りながら隊友が渡したのは、号外の地元新聞。
「『遠路星泉から『連邦』軍第二歩兵師団到着』『『帝国』への決定的打撃を期待』大歓迎ね。」
「エルザ、読めるのか。」
「うちは元々このあたりの出らしいから。」
『共和国』語の見出しが踊る紙面を読みつつ、チョコの詰まった棒菓子を咥える彼女のような移民が『連邦』を作り上げた。開拓精神に溢れる若い多民族国家は、独立戦争と東西戦争以来の大規模な戦乱に自ら進み入ろうとしていた。
知事とガロドー市長、同盟軍の将官の歓迎と激励のスピーチを受けた『連邦』兵たちは列車に乗り、宿営地に向かう。
複線レールの砂利が少し白い側は輸送量の増加に応えるために増設されたもので、4条の輝く銀色がその上を通る列車の数と輸送量を示していた。
国家の血管にも例えられる鉄路は政府の強力な主導の下に延長と増設されて大陸を覆い、人や物資を前線に送り届ける。
「隊長、帰りの切符は予約してあるかな。」「死体は貨物扱いよ。」
重連の機関車に曳かれた長い列車は軽口を叩き合う兵士を乗せ、汽笛と共に宿営地に走り出した。




