カウントダウン
下校時刻もとっくに過ぎた時間で
夜の校舎の一室で
明かりも付けずに俺たち5人は息を潜めていた。
「行ったか?」
「多分」
今日もオカルト研究部の活動開始時間は遅い。見回りに来ていた教師をやり過ごすのは、オカルト研究部員である3人には慣れたもんだろうと俺は思った。
「助かったぜ」
「サンキュー、オカ研」
2人はオカ研ではない。教師に見つかりそうなところを匿ってくれと半ば強引に部室に入って来たのだ。
こいつらとはあまり関わり合いになりたくないので詳しく知らないが、素行の悪さで有名で、早い話が不良だ。いつもは何人か取り巻きがいるが今は2人のようだ。リーダー格の方は金髪でもう1人は茶髪だ。
「うぉ、まぶし」
「おい、電気を付けるな。教師に見つかってしまうだろう」
部長が注意する。
部長は成績優秀で品行方正を擬人化したような存在だ。生徒会長でもやってた方が様になってる。オカ研の部長をやってるのが不思議だと普通は思うが、大のオカルト好きで普段堅物なのにオカルトのためならば校則も破ってしまうようなやつだ。
「だいじょぶだいじょぶ。次の見回りまで時間あっから」
「つーか人形姫もいんじゃん。カナもハルカも帰っちまってよ、マグロで良いから相手してくんね?」
人形姫は我が部の紅一点。顔が恐ろしく整っているが、常に無表情、常に無口で相手を寄せ付けない。ついたあだ名が人形姫である。ちなみに俺は「入部する」の一言しか聞いたことがない。
そんな人形姫は俺の向かいに座ってたが、金髪の発言を聞くや否や席を立って俺の後ろに隠れた。メッチャ可愛いな……これだけ近いと落ち着かない。
「フラれてやんの」
「うっせ」
「つーかそれ何?ラジオ?」
さっさと何処かに行ってほしいが、これ見よがしに置いてあるラジオについて触れるのは仕方がない。遠慮してくれるやつもいるが、こいつらはそんなタマではないだろう。
「それは彼がご親戚の家の整理をしたときに見つけたラジオだそうだ。なんでも呪いのラジオらしく、オカルト研究部である彼が譲り受けたのだ。そして有り難いことに我が部に持ち込んでくれたのだ。君らも興味あるか?」
「ふ〜ん……ポチ」
「あ、おい、待て」
俺が付けたかったのに。少なくともオカ研の誰かにして欲しかったが、時すでに遅く、ラジオ特有のガガッ、ピーという音とともに放送が始まった。
「……んじゅうな……える……しょびと……しょう。……ごごに……るとにわか……」
「天気予報やってるだけかよ。おもんな」
「つづ……ニュースです。……ションの4階……転落…………んなの子は無事……」
あれ?何かがおかしいな。
天気予報終わるの早くないか?いや、チャンネルを変えたのかな。普段ラジオ聞かないから分かんねぇや。ラジオでチャンネルって言うのかな。周波数か?
……いや、そうじゃない。そんな些細なことじゃない。俺以外に誰か気付いてるやつは……あぁ、そうか、金髪がいないんだ。
どこ行ったんだ?
茶髪なら分かるか?
「次のおたよ……きん私……3Dプリン……にはまって……」
今度はすぐ分かった。人形姫が消えた。
いやいやいや。
何が起こっている?
何かが起こっている。
とにかくヤバいことは間違いない。
ラジオだ。このラジオがヤバい。
よく分からないが、直感的にこのラジオがマズい。
体が動かない。何で?
動け動け動け。
突風が吹いて窓ガラスががたがた鳴った。
体が反射的に反応して、その拍子に動けるようになった。
俺は真っ先にラジオに手を伸ばした。
「おい、そいつの電源落とせ!」
茶髪も同じ考えらしい。
「やってるよ!」
電源ボタンを押しても
コンセントを抜いても
何をしてもラジオは止まない。
「貸せ!」
茶髪は俺からラジオを奪って思い切り蹴飛ばした。
持ち主の俺に断りもなしに壊そうとしたのはムカつくがこの際何でも良い。
茶髪は蹴りを何度も入れる。
何度も
何度も
何度も
しかし音が止むことは一向にない。
「夏の名曲……選も残す……あと2曲……」
肩で息をしていた茶髪の息遣いは聞こえない。
逃げなければ……
このラジオから逃れるには
物理的に距離を置くしかない。
「部長!」
「いや、こんなことあるわけが……いや、しかし……」
いつも冷静な部長が狼狽えている。
俺が冷静にならなければ。
「部長! 部屋から出よう!」
「あ、あぁ、あぁ、そうだ」
急いで部室を出ようとしたが、部室の戸の前にラジオがいて行く手を阻んでいる。
「残念! 今日の最下位は1月生まれのあなた! やる気を出しても空回りしてかえってみんなに迷惑をかけてしまうかも!? ラッキーアイテムはテレビです!」
いつの間にか誕生月占いを放送しているが、それを聞いているのは俺1人だ。
ちなみに俺は1月生まれだ。
あぁ、何で今日に呪いのラジオなんて持ってきてしまったのだろう。明日にすれば良かったとそう俺は思った。




