表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
舌なめずりを扇で隠す  作者: あさぎ
やがて始まる終わりの時
2/10

意地でも手に入れてやるわ

 


 男受けのいい甘い香りの香水に、胸元の大きく開いたドレス、そしてばっちり決まったメイク……全て完璧なはずだった。


 でも、彼は。

 穏やかな笑みのまま、和やかな雰囲気のまま、今日も私の誘いをやんわりと断った。


 これでもう五度目。五度目の敗北。




 どうして。


 どんなに甘く誘っても、どんなに迫っても。

 のらりくらりとかわされて。


 どれだけ着飾っても、どれだけ扇情的な格好をしても、全く相手にされてない。

 話しかけても適当にあしらわれてしまう。




 なんで?


 どうして?どこが駄目なの?


 この私の何が駄目だっていうの?




 ああ、悔しい。

 欲しいものが手に入らない……これほど悔しいことはないわ。


 また、昔みたいに我慢しろっていうの?

 また、貧乏だったあの頃みたいにひたすら耐えろって?

 無理よそんなの。


 そんなのいや。絶対いや。


 過去に散々耐えたんだから。散々苦しんだんだから。

 だから、もう我慢しなくてもいいでしょう?




 そうね……これ以上は本気になってしまいそうだから、抑えているのかしら?


 そうね、きっとそうだわ……そうなのよ、彼の心の内は。

 あれほどやって駄目なんだもの。そうに決まってるわ。


 別に抑える必要なんてないのに。

 もっと本気になってしまっていいのに。


 もっと私に溺れてほしいのに。


 どうして抑える必要なんてあるの?

 もしかして、あの女(婚約者)がいるから?


 そうだとしたら、本当に迷惑な女ね。

 ただ近くにいるだけでさえうるさくて大迷惑だというのに、私の邪魔までするなんて。


 でも、障害があるほど燃えるって言うじゃない?

 いいわ、やってやろうじゃないの。




 そこまでしても、そんなにあの男が欲しいのかって?

 ええ、そうよ。


 だって、イケメンだし……なにより彼は()()()()()()()()もの。




 金銀財宝なんて、今の私には掃いて捨てるほどあるの。


 今私が着てる黄金のドレスだって、布からレースまで全部純金の糸で作らせた、世界で一番の高級服よ。

 風変わりだなんだって散々周りから言われたけど……この価値が分からないなんて、残念な人達だこと。


 今の私はただの王子の婚約者。だから、書類上はまだ一般市民のまま。

 でも、婚約が公に発表されてしまっている以上、もうすでに結婚したも同然。

 誰が見ても、今の私はもう『一国のお姫様』なのよ。


 こうしてお城に住んでるわけだし、私の部屋だってちゃんとある。

 専属の侍女だって大勢いるわ。


 ……なもんだから、もちろん権限なんて使い放題。

 そりゃあ、王家の人間だもの。そんなの当たり前よね。


 お金じゃんじゃん使って、なんでも買えて。

 どんなに貴重で高価なものであっても、あっさり簡単に手に入る。




 最初は楽しかったわ、だけどすぐに気づいてしまったの。


 どんなに貴重でも、どんなに高級なものでも……私を幸せにしてはくれない、って。

 幸せは買えないんだって、はっきりと気づいてしまったの。




 だから、それよりも……今の私が一番欲しているもの。

 それは……私の『本当の幸せ』。


 自分で散々悩んだわ。必死で幸せって何だろうって考えた。

 幸せになるには、どうすればいいか……何が必要かって。



 悩んで悩んで、ようやく分かったの。


 私が必要としているそれは……『男』なんだと。

 もっと言うなら『愛』なんだと。




 世の中、いい男なんてたくさんいるわ。


 窓の外をちょっと見るだけで、ほら。

 あそこにも、あっちにも……ほんとにいっぱいいる。


 星の数ほどいるなんて言うし、未だ私が出会ってない男なんてまだまだいるはず。


 今は近場の男を集めるだけで手一杯だけど……いずれはもっと範囲を広げていって、全員(ここ)に住ませるつもりよ。


 どんなに時間かけてでも。どんな手を使ってでも。

 私の気に入った男全員、落としてみせるわ。


 そしてみんな、私の愛人にさせてみせる。




 私ね、この世の素敵な男達全員から愛されたいの。


 世界中のありとあらゆる全てのイケメンと、蕩けるような甘い愛をたくさん浴びて……楽しく毎日を過ごしたいの。


 それが私の夢であり、私の思い描く幸せの形。




 別にそんなにおかしな話じゃないはずよ。


 誰だって少なからずあるでしょう?

 『おとぎ話のお姫様のように、男に囲まれてチヤホヤされたい』、そんな、心の底にこっそり秘めた願いが。

 それと同じよ。




 私はそれを小さい頃からずっと強く願っていた。

 その思いの強さは、きっと誰にも負けてなかったわ。


 そして今、そんな夢がようやくこうして少しずつ現実になりつつある。

 やっと望みが叶うの……いつも身につけている、黒い宝石のおかげで。


 これをつけてから、なんだか男が寄ってくるようになった。

 何かフェロモンのような効果でもあるのか、あるいは特別な魔力でも込められているのかもしれない。

 

 別にこれが何かなんて知る必要も無いし、詳しく調べたことはないけれど。


 でも、ともかく……これがあれば全てうまくいくの。

 これがあれば、私は夢に向かって進んでいけるの。




 それでね。

 今狙ってる彼は、その内の一人なの。


 誰一人欠けては駄目……全員欲しいの、妥協なんてしないわ。

 だから、一人たりとも逃すわけにはいかないの。




 …………


 ……あ〜!もう!考えてたら余計に欲しくなってきたわ!


 ああ、欲しい……!欲しい……!

 あの男が、欲しい……!!


 いいわ。もうここまできたら、やってやるんだから。

 あんな邪魔者(婚約者)なんて、さっさと退かしてみせる。

 気のないフリなんて、すぐに崩してやる。


 ふん、なによ。涼しい顔しちゃって。

 でも、そうやって余裕ぶっていられるのも今のうちよ。




 もうこうなったら……!

 どんな手を使っても、意地でも……!


 絶対に、その心を射止めてやる……!絶対に、捕まえてやる……!


 絶対に!私のものにしてやるんだから……!!




 胸元の宝石がぎらりと妖しく光った。

 まるで彼女の意思に呼応するかのように……



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ