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プリンセス達の花詩集  作者: 白百合三咲
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菊のお嬢様   第4話

 家に付くと春江は真っ先に昭子を自分の部屋に招きます。天蓋付きのベッドにテーブルと椅子もある洋室です。寒さで震えている昭子の髪をタオルで拭いてくれるのです。

「ありがとうございます。お嬢様。」

「構わないわ。だけど一体何があったの?」

昭子は黙って俯きます。

「ゆっくりで構わないわ。わたくしに話してくれる?」

昭子が口を開こうとしたその時です。春江の部屋のドアを叩く音がしました。

「どうぞ。」

「お嬢様、失礼致します。」

春江の一言で入って来たメイド頭です。

「昭子、ここにいたのかい。」

メイド頭が用があったのは春江ではなく昭子でした。

「奥様がお呼びだよ。早く行った行った。」 

奥様というのは春江の母です。

「はい、只今。」

昭子は春江に一礼して部屋を出ます。




「奥様お呼びでしょうか?」

昭子が呼び出されたのは奥様の部屋ではなく客間でした。奥様の隣にはサムイ姿の男性が座っていました。

「昭子、貴女も17よね。」

「はい。」

昭子は春江と同い年です。

「彼は石井。昔うちで奉公していて今は旅館で中居をしている。どうだ?」

「あの、何の事でしょうか?」

昭子は奥様の言ってることが理解できません。

「貴女の結婚相手にどうかしら?真面目な方よ。」

(結婚)

その言葉を聞いてジュリアンの姿が脳裏に浮かびました。

「あの、奥様。ありがたいお話ですがお断りしたいと思います。」

「あのフランス人将校の事が気になっているのね?」

昭子は奥様に核心をつかれ頷きます。

「昭子、あの方はフランス貴族、貴女は日本の奉公人住む場所が違いすぎる。諦めなさい。」

ジュリアン将校とのダンスは素晴らしい一夜の思い出に終わりました。





「将校とはあれ以来会うことはなく、わたくしは奥様が紹介して下さった旅館の番頭と結婚しました。夫も昨年亡くなったけれど。」

あれから20年の時が流れました。昭子は夫のお墓参りの帰りに列車の向かいに座る女学生に語ります。

「菊の花束を見ていたら思い出してしまったわ。」

女学生は胸に菊の花束を抱えています。これからお姉様のお見舞いに行く途中だと言います。

「素敵なお話、ありがとうございました。それにしてもMademoiselle chrysanthemumのようなお話でしたわ。」

「マドモアゼル クリサンテム?」

フランス語で菊のお嬢様という意味です。

「はい。鹿鳴館の舞踏会で華族令嬢の侍女がフランス人将校と恋に落ちる話です。フランス人の将校が自分の体験談として語る小説ですわ。学校では読むのが禁止されているから皆放課後こっそりと読んでおりますわ。」

まさに昭子の体験と同じ話でした。

「昭子夫人、その将校の名前はルイスではありませんでしょうか?」

「いえ、彼はジュリアン、ルイスという名前ではありませんでしたわ。」

その時列車が駅に到着するアナウンスが車内に流れました。

後日談もう少しありますのでお付き合い下さい。

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