菊のお嬢様 第3話
翌日昭子は浅草駅の前でジュリアンを待っていました。昨日のドレスと同じ黄色い振り袖です。
昨日の舞踏会の帰り道、昭子はジュリアンからもらった菊の花を眺めていました。
「ジュリアン様、見目麗し王子様でした。」
「それで明日その王子様とランデヴゥーかしら?」
「らんで?」
「うふふ、逢引よ。」
昭子は顔を赤く染めます。
「からかわないで下さい。」
「あら、わたくしからかってなんかないわ。素敵じゃないの。わたくし協力するわ。」
黄色い振り袖は春江が貸してくれた物です。昭子にとって春江は特別な存在です。ご主人様や奥様や他の使用人は冷たく当たりますが春江だけは違います。以前お皿を割って夕食を抜きにされた時は春江がこっそりお菓子を分けてくれたのです。
「ねえ、あの馬車素敵ね。」
昭子が声のした方に目をやると金箔の馬車が停泊していました。
「一体誰が乗ってるのかしら?」
馬車の前に人だかりができています。
「ちょっとすみませんね。」
御者が人混みを掻き分けて馬車の扉を開けます。
「まあ、異国の方だわ。」
(ジュリアン様!!)
馬車から降りてきたのはジュリアンでした。
「ジュリアン様!!」
昭子は手を振って自分の存在を知らせようとします。
「昭子さん。」
ジュリアンも昭子に気付きます。ジュリアンが昭子の元へと歩いていこうとした時です。
「ねえ、また豪華な馬車が止まったわ。あちらはガラスでできてるわ。」
もう一台別の馬車がやってきました。
「ご覧になって。西洋人形のようだわ。」
御者に手を引かれ馬車から降りてきたのは水色のドレスに白いマント、白い帽子の令嬢です。彼女も西洋人です。
「ジュリアン殿下。」
ジュリアンの目の前に水色のドレスの令嬢がやってきました。令嬢はジュリアンの手を掴んで自分の馬車に乗せてしまいます。
「絵本のお姫様と王子様を見てるようでしたわ。」
女学生らしき袴の少女が呟きます。その様子を昭子は黙って見ていました。
浅草の道中を一台の馬車が通ります。
「こんなに降るなんて思いませんでしたわ。」
馬車に乗っているのは桃色の着物に打掛の春江です。彼女は日本舞踊の稽古の帰りです。行きは晴れていたのに帰り先生の家を出た時は大雨が降ってました。春江は窓から外の様子を観ています。侍女に傘をさしてもらいながら歩く令嬢や鞄を頭の上に乗せて歩く学生の姿が見えます。その時傘もささずにずぶ濡れになって歩く黄色い着物の少女の姿が春江の目に入ってきます。
「お願い、止めて。」
春江の一言で馬車は急停止します。御者が扉を開けると春江は急ぎ足で飛び出して行きます。
「大丈夫?!」
春江はずぶ濡れの少女の元へと走っていきます。
「お嬢様?!」
「やっぱり昭子だったのね。将校とのランデヴゥーはどうなさったの?」
「お嬢様!!」
昭子は大粒の波を浮かべながら春江に抱き付きます。




