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-4 加護の魔法と誓約の魔術

04

 俺の言葉にチビたちの視線が自然と中央付近に座っている2人に集まった。

 ちょっと重大な事実みたいにためて言ったが、加護があるってのは隠すことでもないし普通に話していることが多いので、みんな誰のことだがすぐにわかるのだ。

 生まれながらに神の加護を受ける。

 そう言うと大層なものに感じられるかもしれないが、無作為に10人選べば1人――多ければ2人や3人ってこともありえるぐらいにありふれたものだ。

 実際、今回俺が教えているチビたちは11人だが、その内の2人が加護持ちだし、この場にいないフィルやチャドが連れて行った18人の内、3人が加護持ちだ。

 加護持ちでも大半は加護の証である紋様は小さく、加護の強さを示すは薄い。

 メラスとフレバルムの加護を受けている2人も紋様は野球ボールほどの大きさで、よく見なければ紋様があるのかもわからないぐらい薄い色をしている。

 加護持ちの大半がこの2人と同じような大きさと濃さだ。

 この紋様の大きさと濃さは、通説では神の関心度合いと寵愛の深さが影響するとされている。

 関心が高ければ、見つけやすいように大きな紋様を与え、深い愛情を持っていればそれだけ多くの力を注いで色が濃くなる。

 そして、この紋様があることでどのようなメリットが有るのかと言えば――


「じゃあ、加護があるとどんなことができるかみんなわかるか?」

「「「魔法!」」」


 俺の問いに全員が元気よく答えた。

 そう、紋様があれば魔法を使えるようになるのだ。

 これこそが、俺がこの世界をタイムスリップなどではなく異世界だと判断した一番の理由でもある。

 なぜ神官だけが医者になれるのか、なぜ神に属性があるのか。

 その答えは加護=魔法だからだ。

 メラスグリンデを信仰する者は癒やしの魔法が使えるようになり、フレバルムの加護を持っていれば火属性の魔法が使える。

 魔法が使えるとなれば、一部の趣味を持った地球の人間は心底羨ましがるだろうが、それは異世界の人間でも同じことだ。

 周りのチビたちは加護持ちの2人を見ながら羨まし気な言葉を口にしている。


「そんなに羨ましがらなくてもいい。みんなは、魔法が使えなくても魔術が使えるようになれるかもしれないぞ」


 この世界において、魔法と魔術は同じものだ。

 だが、それと同時にまったく別のものでもある。

 魔法とは神の加護にて『魔』を持って世界の『法』則を捻じ曲げるから魔法と呼ばれる。

 魔術は人の生み出した『魔』を操る『すべ』であり、魔法を使うための加護を人の意志で求めるための技術でもある。

 簡単に行ってしまえば、魔法でも魔術でもできることは基本的に同じだ。

 だが、その獲得手段と使用する上での条件など様々な面で魔術は魔法よりも厳しいものがある。


「どうやって!?」


 アルバート神父の治療などを目にする機会も多いので、意外と孤児院暮らしをすれば魔法・魔術が身近にある。

 自分も魔法が使えるかもしれないと言われてチビたちはキラキラと目を輝かせた。


「そうだなぁ……ローニン、お前ならどんな魔術が使いたい?」

「僕? 僕は……火がいい」


 チラチラと加護持ちの2人――特にフレバルムの加護を持つジョウを見ながらローニンはそう答えた。


「ジョウと仲いいもんな。お揃いがいいのか?」

「……うん」

「だけど、今のままだと火の魔術は難しいだろうなぁ……」

「えっ!?」


 俺の言葉にローニンはひどくショックを受けたようだった。

 まぁそれも仕方のないことだろう。

 将来の夢を尋ねられたから答えたというのに、大人からそれは難しいと言われたようなものだ。

 なにくそっ! と怒るか、ただただショックを受けるかは個人差があるものの、ローニンのように気が弱く、繊細なタイプであれば後者だろう。


「魔術は魔法と同じようなことができるけど、魔術を使うためにはたくさんの決まりがあるんだ」


 俺は泣きそうになっているローニンの頭を慰めるように撫でながら続けた。


「火の魔術が使いたいなら、フレバルム様に僕はこんな風にしますって約束しないといけないんだ」

「…………うん」

「でも、お前はフレバルム様が好きな人――勇気があって、怖いものにでも真っ先に立ち向かえる人とは違うだろ? お前は優しくて、誰かを助けることの方が向いてる性格だ」


 先程説明したとおり、フレバルムが司るのは闘争で、性質は勇猛だ。

 それぞれの神はその性質に合わせた人間を好む。

 フレバルムの加護を受けたジョウは、いい意味でのガキ大将タイプであり、近所の子どもと喧嘩になれば、他のみんなを守るためにも率先して突っ込んでいくような勇気がある。

 子どもの喧嘩がいいことか悪いことかは別にして、他者を守るために先頭に立って戦いに挑む者ならば勇猛と言って差し支えないだろう。

 フレバルムがジョウに加護を与えたのに不思議はない。

 それに対してローニンはむしろメラスグリンデやウォルキリアなんかを信仰するのに向いた性格をしている。


「そうするとフレバルム様もお前のためには少ししか力を貸してくれないんだ。大きな力を借りるためにはとても大変な約束をしないといけない」

「どんな約束なの!? 僕、約束は守るよ!」


 ローニンは、ジョウと同じ火属性に諦めがつかないのか必死の表情だ。

 魔術を使うためには、神へ対価を支払わねばならない。

 基本的にその対価は今後の行動などになるわけだが、これは個人差――相性によるブレが非常に大きい。

 相性のいい属性――いや、神であれば、毎朝礼拝するなどの軽いもので済む。

 その分使える力は小さいもの――指先に火を灯す程度になるが、リスクが小さいのだからリターンが小さくても仕方がないだろう。

 しかし、これはあくまで相性がいい場合だ。

 ローニンが指先に火を灯すような最小規模の火の魔術を使うためには、毎日Dランクの魔物を狩って神に捧げる――ぐらいのことをしないといけないかもしれない。

 実際どの程度厳しい対価になるかは、神様のさじ加減次第なので正確なところは言えないものの、到底労力に見合わない対価が必要となるだろう。

 大きい力を求めれば、条件はさらに厳しくなる。

 さらに言えば、相性が良くても大きなリターンを求めるために大きなリスクを背負う必要がある。

 相性が悪いであろうローニンがまともに火の魔術を使うためには、それこそ何十年単位の寿命を捧げるぐらいのことをしないといけないかもしれない。

 そこまでしても、火属性であれば一般的な魔術師と同程度の力しか得られない可能性が高い。


「そうだな……どれくらい大変な約束なのかは神様じゃないからわからないけど、前にローニンみたいな性格の人がフレバルム様と約束したのは毎日大きくて怖い魔物を狩って、神様に捧げますって約束してたぞ」

「魔物……」


 魔物を捧げなければならないと言われ、それだけでローニンは及び腰だ。

 きつい言い方をすれば、臆病な性格のローニンに魔物の相手は難しいとしか言えない。

 魔物、ファンタジー世界を描いた数多の作品で描かれる人類の敵であり、この世界においても危険な存在だ。

 とはいえ、どういうわけなのか森の中や渓谷、山など人の生活圏からは離れた場所にのみ生息し、滅多なことがなければ、人里に姿を現すことはないので普通に生活している分にはあまり大きな脅威でもない。

 その滅多なことが起きない限りは、だが。

 ある程度成長すればそれを理解できるのだが、子どもは違う。

 子どもにとっての魔物は日本で言うなら、お化けや鬼と言った未知なる恐怖の存在だ。

 それと毎日戦えと言われれば、ローニンが怯えてしまうのも無理はない。


「でもな? ローニンなら、火の魔術じゃなくて水の魔術とかアルバート神父みたいな癒やしの魔術ならそんなに難しい約束をしなくてもいいんだ」

「そうなの?」

「あぁ。ローニンは優しくて他のみんなのことをいつも気にかけてるだろ? ダミアンが困ってたらどうしたの? って声をかけたり、シャフが泣いてたら頭を撫でて慰めてやったり」

「ちょっとクロー兄ちゃん!」


 泣いていたことをバラされたからなのか、仄かな恋心を抱かせる切っ掛けになった出来事をバラされたからなのかシャフが顔を真赤にして叫んだ。

 そんなシャフを笑いながらなだめ、ローニンの頭を撫でながら話を続ける。


「そんなローニンの優しいところを好きな神様もいるんだ。ローニンのことを気に入ってくれる神様なら、大変なことを約束しなくても簡単な約束で力を貸してくれるだろうな」


 優しさを褒められて嬉しいという思いと火の魔術は止めておけという忠告を受けて納得がいかない思いが綯交ぜになり、ローニンの表情は複雑だ。


「他のみんなも、自分の向き不向きがあるのと同じように魔術にも向き不向きがある。やりたいこと、使いたい属性と自分に向いていることが違って悲しい思いをするかもしれない。だけど、向いてないからって絶対に諦めなきゃいけないわけじゃない」


 俺のその言葉にローニンはパッと表情を明るくした。


「ほんと!?」

「あぁ。みんなまだ小さいからな。魔術が使えるようになれるのは早くても13才って決まってるんだ。それまでにいっぱい努力して、フレバルム様に好かれる人間になれれば火の魔術が使えるようになるかもしれないぞ」


 魔術を使えるようになるためには儀式のようなものが必要で、それを行うのは最低でも13才と決められている。

 それも早い場合の話で、成人に合わせて15才に行うのが一般的だ。

 根本的な性格を変えることは難しいが、誓約の条件を軽くする程度ならば不可能なことではないので努力が絶対に無駄になるとも言い切れない。

 ローニンたちはまだ7才なので、時間は十分にある。


「僕頑張る!」

「あぁ、頑張れ」

「クロー兄ちゃん13才でしょ? 兄ちゃんは魔法が使えるの?」


 ローニンが決意しているのを微笑ましく見ていると年齢のことに気がついたらしいダミアンがそう尋ねてきた。

 期待しているようだが、俺に魔術は使えない。


「俺は使えないよ。それに使うつもりもない」

「えぇ~なんでぇ~?」


 魔法が使えたら、と地球で憧れがあるのと同じように魔法、魔術が実在することの世界でも子どもにとって魔法は憧れだ。

 魔法は先天的なものだが、後天的に得られる魔法と同じ力である魔術を使おうとしないのは、子どもにとって信じられないことだろう。


「使わなくても生きていけるし、必要がないからな」


 魔術を使えるようになるためには、相性次第で簡単なものになるとは言え対価が必要だ。

 その対価を神に誓う儀式と内容を指して『誓約』と呼ぶが、体感で成人の半分――いや、3割から4割くらいの人間は誓約を行っていない。

 なぜなら、魔法や魔術は強い力を用いる場面は戦いの場くらいであり、普通に生活する上で必要になる場面が滅多に無いからだ。

 冒険者や兵士など戦いを生業とする者なら魔法や魔術も武器の1つとなるだろうが、一般人はそんなに強い力を必要としない。

 そのため誓約を行っている人間も半数ぐらいは、指先に火を灯す程度の小さな魔術しか使わない。

 正確には使えないと言ったほうが正しい。

 なにせ、それ以上を望む必要がないので、軽い誓約しかしないので簡単な魔術しか使えないのだ。

 わざわざ火を起こす種火を魔術で出すために、毎日のルーティーンに新たな項目を加えることを嫌って、誓約を行わないのもおかしくはない選択だろう。

 わざわざ誓約までして種火を出すくらいなら、火打ち石を用意した方が楽なのだ。


「えぇ~……」


 俺の言葉にチビたちは不満そうだ。

 まぁ、俺も魔術が使ってみたいという気持ちが無いとは言わない。

 だが、どうにも気が進まないのだ。

 紋様などと言っているが、その見た目はほとんど刺青のようなものである。

 加護の証である紋様が生まれながらになくとも、誓約を行えばその証として体に紋様が浮き上がってしまう。

 色入れを行わなければ、魔術を使う時以外ならほとんど見えなくなるぐらい目立たなくなるとは言え、どうにも前世の常識的に考えて尻込みしてしまうのだ。

 この国は日本ではない。

 どちらかと言えば欧米に近いので、タトゥーを悪いものだとする日本的な価値観のほうが珍しいだろう。

 ファッションなどではなく、紋様自体に意味があるものだというのも理解している。

 誓約を行っている人間も珍しくはないが、それでもやはり必要でもないのに誓約を行うぐらいならキレイな体のままでいたいというのが俺の意見だ。


「俺だけじゃないぞ。フィルやチャド、アイゼンとベルーガだって魔術は使えない。魔術が見たいなら大人になってから自分で使うんだな」


 わざわざ必要もなく本心を語ることもない。

 他の年長組も誓約を行っていないことを例に出しながら、ダミアンの頭を乱暴に撫ぜた。


「さ、お勉強を続けるぞ」


 ちょっとばかり脱線が多くなってしまったが、なんとか今日予定していたところまで話を進めるために授業を再開するのだった。


ちなみに授業を受けていた子どもたちはモブです。

再登場することもあるかもしれませんが、大きく物語に影響することはない予定ですので、名前は某ロボットアニメから拝借しました。


21/04/04:サブタイの話数を修正 「三話」→「四話」

21/04/09:サブタイ変更

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