-3 かみさまのことをしってるかな?
今回と次回は世界観の説明回
物語が進み始めるのにはまだ時間がかかります
03
「よ~し。それじゃあ、授業を始めるぞ~」
「「「は~い!」」」
今日のお仕事は昨日の倉庫整理とはガラリと変わって10歳未満の孤児院年少組の教師役である。
物を教えるのはいくら年上とはいえ成人もしていない俺などではなく大人――神官の仕事ではないかとも思えるが、アルバート神父が俺やアイゼンくらいの知識があるなら大丈夫だと言って、週に何日かは俺たちが教師役でお勉強の日が設けられている。
というわけで、本日は教会の聖堂の前に移動式の黒板を置き、長椅子に腰掛ける年少組に勉強を教えるわけだ。
この仕事はアイゼンもやりたがっているのだが、アルバート神父はアイゼンにこの仕事を任せることはない。
それはなにもアイゼンでは教師役が務まらないという理由からではない。
年少組も人数はいるが、教師役はそれほど多くは必要ないのだ。
アイゼンの派閥から教師役を選べば、教師以外の仕事をする人間も出てきてしまう。
アイゼンは派閥のまとめ役なので、こまめに派閥の人間に問題がないか確認する作業も仕事に含まれるのだ。
そのため、あまり拘束される仕事をすることができない。
アイゼンの派閥に教師の仕事を割り振っても、アイゼン自身は教師役になれないのだ。
アイゼンたちには教会の事務としてやってもらいたいことが多いと説得されたアイゼンは、泣く泣く教師役が俺たちに割り振られることを受け入れた。
幸いにも俺たちは4人――まぁ、実質教師役ができるのは3人だが、人数的には問題ない。
一応俺が面倒見ることになっている派閥未所属の連中もいるにはいるが、彼らの仕事ぶりをアイゼンのようにわざわざ確認する必要はない。
俺はあくまでも問題があった時のケツ持ち役なのだ。
ちなみに馬鹿は最初から戦力外である。
「んじゃあ、チャドのところは計算。フィルのところは文字の書き取りを進めてくれ」
「わかりました」
「あいよ。よし、お前らついてこい」
俺の指示でチャドとフィルに従い年少組の中でも年上のチビたちが移動を始める。
当然のことながら年少組の中でもこれまでに教わったこと、これから教わることに違いがある。
来年、再来年には年長組になる彼らは、年少組の中でも残った連中が習うことはすでに習い終えているわけだ。
脳筋なフィルでも手本と見比べて書いた文字があっているか間違っているかぐらいは判断できるだろう。
「こっちはこの前の続きだ。さ、神様の名前は覚えてるか~?」
俺がそう尋ねるとチビたちが我先にと手を挙げて、はいはいと元気良く声を上げる。
元気よく手を挙げているチビたちに混ざって、どう考えてもデカイのがいるけど、今日もまたあのやり取りをやらないといけないのか?
「はぁ……じゃあミリア」
「わかりません!」
「わからないなら手を上げるなよ~。つーか、このやり取り何度目だ? いい加減にしろ」
「ぶぅ~」
チビたちに混じって授業を受けるのは構わないが、毎回毎回このやり取りをやらされるのはなんでなのかね?
指名しないといつまでも手を挙げて続けるので無視するわけにもいかない。
まぁ、よっぽど気に入っているのだろう。
もうやるなと注意すれば、不満そうな表情を隠すこともなく頬を膨らませている。
一頻りミリアとのやり取りをチビたちが笑うのが収まったのを見て授業を再開させる。
「ミリアのことは放っておいて……イルボラ」
「ブライト様!」
「そう、みんな大好き光の神様だな。他には? じゃあ、レニー」
「メラス様!」
「そうだな。だけど、ちゃんとした名前全部言えるか?」
俺がちょっと意地悪くそう言うとレニーはうーうー唸りながら必死で思い出そうと頭を捻っている。
メラスグリンデは神父や神官が信仰している神で、メラスと略して呼ぶのが一般的だ。
とは言え、知ってて省略するのか知らずに省略するのでは大きな違いがあるので、きちんと覚えてもらわないとな。
「ざんね~ん、時間切れだ。メラスグリンデ様、アルバート神父が誓いを立てた神様だな」
「あ、あ! 思い出せたのに! 思い出せたのにぃ!」
「はっはっは、ごめんな~」
他にはいるか? と次を促せば、まだまだ名前が思いつくのだろうチビたちは少しでも目立とうと立ち上がってまで手を挙げている。
ミリア、1回は許すけどもう指さないからお前まで立つんじゃない……
「次は……マイク」
「フレバルム様!」
「火の神様か。相変わらず好きだねぇ~」
俺がそう言うとマイクは大好き! と元気よく答えた。
ブライト、フレバルムと言えば男の子に人気が高い神の名だ。
反面、ウォルキリアやメラスグランデが好きだと言うと男らしくないと誂うやつもいるので、イジメにならないよう注意する必要がある。
「他には、水の神ウォルキリア様、風の神ウィンクルード様に土の神のアスタルト様、闇の神ダクヒーズ様が有名だな」
俺がまとめて有名な神の名を挙げると自分も答えたかったと指名されなかった子どもたちから不満げな声が上がる。
許せ、こればっかりに時間をかけてられないんだ。
ちなみに神の名前を覚えさせているのには理由がある。
それはなにも、教会運営の孤児院だから子どものうちから宗教的なことを教えるためではない。
そもそも教会の人間が信仰する神はメラスグリンデただ一柱である。
他の神を信仰する者はただの1人もいない。
なぜなら、教会とはもともと訪れた人々が自分の信仰する神に自由に祈りを捧げるための場所であるからだ。
この世界における教会は、地球で真っ先に想像されるだろうキリスト教の教会のように1つの宗教のための建物ではないわけだ。
神父や神官はあくまでも、教会という場所の管理を任されているに過ぎず、教会だからと言って宗教的なことを教える必要はない。
必要がないと言うか、そもそもそういった宗教的な教えることが存在しない。
聖国以外の世間一般に広まる神は、誰もが条件さえ満たせばその恩恵を得ることができる。
そのため、救いとしての宗教的な教えがないのだ。
救いとしての宗教を求める者もいるにはいるが、そう言った神の教え、神の救いとしての宗教を求める者は聖国にそれを求めるので、聖国以外に地球で言うところの宗教は存在しない。
地球での知識を得た今となっては、世間一般で神と呼ばれる存在が本当に神なのか? とうがった考え方もしてしまう時はあるが、まぁそういう存在なのだと受け入れてはいる。
では、宗教的な教えといった理由がないのに何故アルバート神父や神官が孤児院に関わっているのか。
それは、メラスグリンデという神が理由だ。
そもそもこの世界の孤児院は国や貴族は援助はすれども、国や貴族が主導して運営される孤児院はほとんどない。
ほとんどというか、もう0と言えるほどだ。
どこの誰が運営しているかといえば、神父や神官が教会として行っている。
まかり間違っても聖国を筆頭とした組織として行っているわけではない。
文字通り、各教会が独自の判断で行っているのだ。
そも、聖国の人間とは違い、この世界における神父や神官たちは清貧を重んじる生活を送り、その行いは清廉潔白であることを求められる。
誰に求められるのか。
答えは簡単、神である。
メラスグリンデは清貧と慈愛の神であり、メラスグリンデの加護を得るためには清貧を尊び、他者に慈愛を与える行いが求められる。
そして、それを違えれば加護を失うのだ。
この世界では、いずれかの神を進行する者は地球よりも神に誇れる人間になろうという意識が強い。
そのため自身は清貧を尊びながら他者に慈愛を与えるため、親のいない子どもを育てることが教会で定番の修行なのだ。
なんだか話が随分と逸れてしまった。
宗教的な理由ではなく神のことを教える理由は、神の恩恵が身近な世界において、自身がどの神を信仰するのかは人生に大きな影響を与えるわけだ。
神父や神官が医者をしたり、孤児院を運営したりするように仕事にも影響するし、自分の生き方、生きる方向にも影響する。
いざ神を信仰しようとするならば、自分がどの神を信仰するか選ぶためにも神のことを知っている必要があるのだ。
当たり前のことだが、どの神も信仰しないのも選択肢の1つではある。
しかし、きちんと学んだ上で選ばないのと何も知らずに選ばないのでは大きく違う。
そのために神の名と役割を教え、今日の授業につながってくる。
「それじゃあ、フレバルム様が何を司る……いや、そうだな……どんな神様か分かる人ぉ~」
新たな問題を出せば、再び我先にと手を挙げ、元気よく自分を指せと自己主張している。
「じゃあ、ダミアン」
「火!」
「それは属性だな。何の神様かじゃなくて、フレバルム様はどんな神様だ?」
「え!? えぇ~と……」
フレバルムは火属性の神だが、問題で尋ねているのは属性とは少し違う部分だ。
火の神だと言えば正解だと思っていたのか、さらに深く尋ねられてダミアンはしどろもどろになっている。
「はい、時間切れ。闘争と勇猛の神だ。戦いの神様で勇気がある人が好きな神様だな」
フレバルムは火の神ではあるが、それ以外にそれぞれが司るものと神としての性質がある。
フレバルムの場合それぞれ、属性は火、司るのは闘争、その性質は勇猛となる。
闘争を司り勇猛な性質とあって、冒険者や下級騎士なんかの多くが信仰している神だ。
「じゃあ、次はメラスグリンデ様だ」
名前を尋ねた時は、子どもでも知っている常識な上に前回の復習だったので我先にと手を挙げていたチビたちだったが、随分と反応が代わってしまった。
ポツポツと手は上がっているが、自信なさげな表情を浮かべている者も多い。
「それじゃあ……シャフ」
「優しさと……真面目さ?」
「おしいな。慈愛と清貧、人にやさしくして、無駄遣いや必要のない贅沢をしないのが好きな神様だ」
慈愛を司り、性質は清貧。
神官は聖国という例外を除けば、1人残らずメラスグリンデを信仰している。
というか、そもそもメラスグリンデを信仰しているから神官を名乗るのだ。
「さて、他の神様のことが知りたかったら俺やアイゼンに聞きに来るといい」
そう言って一旦区切りを入れる。
今回性質などの説明にフレバルムやメラスグリンデをチョイスしたのには理由があるのだ。
「今回はフレバルム様とメラスグリンデ様のことを説明したな? なんでこの2人の神様のことを説明したかって言うと……みんなの中にこの2人の神様の加護を受けた人がいるからだ」
21/04/09:サブタイ変更




