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-2 踊らされる騎士と落とされる爆弾

随分と長く更新の間隔を開けてしまい申し訳ありません。

言い訳は5月31日に割烹でやってますので、興味がある方は読んでください。

20

 改めて生き残ることを決意したからといって、俺が決意を新たにするのを見計らって襲撃があるわけではない。

 むしろこのタイミングで襲撃があったのなら、それはもう神様ってやつの陰謀だろう。

 とりあえず、決意を新たにしてもいつ襲撃されるかはわからないので、予定通り今は人通りの少ない道には近づかないようにだけ注意しつつ、ミリアに手をひかれるソフィアの好きなように歩かせる。

 女性に買い物好きが多いのはこの世界でも同じなのか、ミリアとソフィアは様々な店を物色しつつあっちにふらふら、こっちにふらふらと歩いている。

 

「ソフィアちゃん! あれ! 面白そう!」

「あ、ミリアさん。待ってください、ぶつかってしまいますよ」

「へ? みぎゅ」

「きゃっ」


 なにか面白そうなものを見つけたらしいミリアはそれだけに意識が向けられ、進行方向を横切る人影に気づいていなかった。

 ソフィアの注意もむなしく――むしろソフィアの注意によってさらに注意散漫になってしまい、身体能力に優れた獣人であるミリアと言えど、さすがに避けることもできずぶつかってしまう。

 さらに二次被害とでも言うべきか、ミリアはしっかりとソフィアの手を握っていたので、ぶつかった衝撃で尻餅をついたミリアに引っ張られてソフィアまでも地面に倒れている。


「む~……ごめんなさい」


 ぶつかったときに鼻をぶつけたのか、ミリアは手のひらで押さえるようにしながらもまずは謝罪を口にした。


「あぁ、構わないよ。君たちこそ大丈夫だったか、い?」


 ぶつかられた男は、祭りで人がぶつかることなどそう珍しいことではないと考えているのか、怒った様子もなくにこやかにそう言って手を差し出そうとしたが、その途中でなにかに気づいたように動きを止めた。


「ほ?」


 怒るでもなくにこやかな様子だった男が、手を差し出すでも引っ込めるでもなく中途半端な姿勢で固まっている姿にミリアは不思議そうな顔で男の顔をまじまじと見る。


「どうした? ん?」


 ミリアがぶつかった男――もこもことした茶髪が特徴的な男の連れが不自然に動きを止めた茶髪男に気づいて声をかける。

 連れの男――金髪のロン毛が特徴的な男も茶髪にぶつかったミリアの姿に気づいて少し驚いたような声を上げた。


「君は第三教会の……」

「あぁ、孤児院のか?」

「ふぇ?」


 茶髪が動きを止めたのは予想外のところで見知った相手と思っても見なかった形で出会ったことが理由であったようだ。

 しかし、ミリアは知らない人間が自分のことを知っていることに驚きの声を上げた。

 実はミリアも数回彼らと会ったことはある。

 しかし、ミリアはどこか見覚えがあると思っても、彼らが誰なのかは思い出せないのだろう。

 ミリアはその生い立ちから自分を害する存在の象徴である大人――その中でも特に男を苦手としている。

 自分を守ってくれると心から信じている俺やフィル、チャドの誰かが近くにいなければ、あのアルバート神父相手ですら近づくことができないほどだ。

 その心的外傷トラウマが影響しているのか、ミリアは俺が教えたことを一度でしっかりと覚えられる記憶力に反して、大人の顔を覚えることも苦手としている。

 ミリアも自分を害することはないとわかっており、その上で毎日のように顔を合わせていることもあって、アルバート神父や第三教会の神官らの顔はさすがに覚えている。

 しかし、茶髪とロン毛の2人は最近になって数回会ったことがある程度であるため、おぼろげにしかミリアの記憶に残っていない。

 かろうじてその数回でミリアや俺達に敵意を向けることがなかったので、潜在的に彼らを敵ではないと記憶は残っているのだが、それが即座に表層に出て知り合いだと認識するにはコミュニケーション不足だ。

 それでもミリアは自分のことを知っているようだからと彼らのことを必死で思い出そうとうんうんと唸っている。


「どうも、ビルさん、ゲイツさん」

「やぁ、クローくん。君も一緒だったのか」


 こんな形で会うことになるとは俺にとってもまったくの予想外ではあったが、ミリアがぶつかった相手はジークの同僚であるビルとゲイツの2人だ。

 偶然・・知り合いとあったのだから、と2人を思い出せないミリアに助け舟を出すように挨拶をする。


「ほら、立てよ。前をしっかり見ないとだめだろ?」

「ごめんなさい」

「…………結構です」


 地面に座り込んでいた2人を助け起こそうと手を差し出すが、シュンとした様子で手を取るミリアと違って、振り払われこそしなかったがソフィアには拒否されてしまった。

 第一印象が悪かったのに改善しようともしなかったのだから当然と言えるが、やはり俺は嫌われているようだ。

 しかし、最初以外には好感度が下がるような真似もしていないのに最初よりも嫌われているように感じるのは気のせいだろうか?


「はぁ…………お二人は非番ですか?」

「まぁな。孤児院でも店を出してるんだろ? お前たちの方は休憩中か?」

「いえ、俺たちは教会に来ているお客様の案内ですよ。店は他の連中に任せてあります」


 祭りでならば誰もが店を出せる。

 孤児院でも、普段から行っている職業体験アルバイトとはまた違う形で店を出す経験が積めるからと毎回店を出すのは周知の事実だ。

 特にビルとゲイツには世間話で店を出すと話していたので、俺たちがここにいるのは予想外のことだったろう。


「お二人は? 前にも言いましたけど、リエッタさんもサラさんも店には出ませんよ?」

「あぁ……いや、ジークから北区にいいものが多かったと聞いたもんでな」


 初日は貴族区、2日目は正門大通りでソフィアの護衛をしていたジークが北区の品揃えを知っているわけがない。

 あくまでも3日目に合わせて非番にした2人を今日、北区に来させるための作り話だ。

 この2人は表向きはジークが企画したことになっている合コンで女性神官と少しいい感じの関係を築くことができたので、裏で連絡役として仕事をしているジークとそうとは知らずに一緒になって教会へ足繁く通っている。

 いいものと言うのも価値のあるものなどではなく、2人が狙っている女性神官――リエッタとサラへの贈り物(プレゼント)に良さそうなものという意味で伝えたのだろう。

 俺は表向きのジークとのやり取りで、2人も合わせてそれぞれが狙っている女性神官の情報を売る協力者というスタンスを取っている。

 そのため2人とも多少は気安いやり取りができる関係だ。


「そうなんですか……そうだ。それなら俺たちと一緒に行きませんか?」

「え……あ、いや……」

「それは……」


 俺の提案に2人はどうにも乗り気ではない。

 それもそうだろう。

 2人が北区に来ているのは、ジークに勧められてリエッタとサラにそれぞれが贈る物を品定めすることが一番の目的だが、それだけが目的ではないのだ。

 実のところ、ジークと共に数多の女性と浮名を流している2人だが、リエッタとサラ相手には大苦戦している。

 そして、先行きの暗さに半ば諦めかけている。

 いくら自分たちの好みにどストライクの相手とは言え、相手にされなければ意味はない。

 しかも2人はすでに20代も半ばを過ぎているのだ。

 この世界において、女性ならば20代前半で焦り始め、後半になっても独身ならば完全に嫁き遅れ扱いである。

 男でも25を過ぎて独身というのは徐々に世間体に問題が出始める。

 一人の女声に縛られぬ遊び人だからという言い訳も、さすがに30を過ぎてしまえば使えなくなるので2人は結婚を焦る年齢だ。

 つまるところ、リエッタとサラを本気で結婚の相手として考えているのにどうにもうまく行かないので、2人に狙いを定めつつもこの祭りで新たな出会いがあればそちらに狙いを変えよう、とそう考えているのだろう。

 そうだと言うのに俺たちのような邪魔者を連れていれば、新たな出会いも期待できなくなってしまうというわけだ。


「そうですか……残念だなぁ……せっかく取って置きの情報があるのに……あ~、残念だ」


 俺の言葉に2人は目の色を変えた。

 今までの俺は、2人に聞かれたことに答えることはあっても、自ら情報があると売り込んだことはない。

 対価もちょっとした駄賃や菓子の1つ2つ程度で済ませ、情報を高く売ろうと交渉することもなかった。

 その俺が取って置きと言って売り込みをかけてくるのだから本当に価値のある情報なのではないかと理解できたのだろう。


「あぁ~……クローくん? 取って置きってどんな情報だい?」

「取って置きは取って置きですよ。2人が結婚相手の男性に求める……おっと、これ以上は言えませんねぇ~」

「…………何が欲しいんだ? 金か?」

「いえいえ、そんな……リエッタさんたちから絶対に誰にも話さないように言われていることをお金なんかで話せるわけないじゃないですか。ただ……俺たちと一緒に祭りを見て回って、ちょ~っと太っ腹なところを見せられたら口が軽くなっちゃうかもしれませんけど……」


 諦めかけているのは成功が難しいからだ。

 しかし、リエッタとサラの結婚相手に求めるものがわかれば成功の可能性はぐっと高くなる。

 自分たちの理想と言える相手とまだ見ぬ出会いを比べればどちらを優先するかなど考えるまでもないだろう。


「……負けた」

「まったく、いい性格してるよ……」


 やはり落ちたな。

 求めていた通りに2人を説得することができたことで、思わず笑みが浮かんでしまう。

 きっと俺は傍から見ればこの上なく悪い笑みを浮かべていることだろう。


「で、どうしますか?」

「なんだって奢ってやろうじゃねぇかこの野郎!」

「菓子でも飯でもなんでも持ってこいよ!」


 太っ腹なところを見せると言っても、子どもが祭りで使う金など贅沢したところで高が知れていると言うものだ。

 狙っている女性にアクセサリーの1つでも買ったと思えば払えないような金額ではない。


「さすがですね。太っ腹なところもしっかりアピールしておくので、よろしくお願いしますよ」


 まぁ、太っ腹アピールをしたところで、リエッタやサラ相手にそれほどの効果があるとはとても思えないがな。

 そもそも2人はリエッタとサラとの関係が思ったように進まず、どうにも今まで付き合ってきた女性らのようにさんざんアピールを重ねても好意をあまり感じられないことに戸惑っている。

 実際、それは間違っていないのだ。

 どうにもこうにも2人は攻め方が悪すぎる。

 リエッタやサラは今まで2人が付き合ってきた女性とは違う。

 彼女らはメラスグリンデを信仰する神官なのだ。

 金持ちアピールや物を贈る対価に好意を求める行いは効果が限りなく低い。

 そうだと言うのに2人はそのことに気づかず、一時は俺の情報が嘘なのではと疑ったほどである。

 聞かれたことには全て正直に答えたので嘘はない。

 まぁ、攻め方が悪いことがわかっていてもアドバイスはしなかったがな。

 というのも、俺にとってこの2人の恋愛がどうなるのかはさして重要ではないからだ。

 今日この日に俺たちと一緒に行動するよう仕向けることさえできればいい。

 売った情報に嘘はないが、2人がどれだけ無駄なことをしているとわかっていてもわざわざそれを指摘する必要はないわけだ。

 まぁ、今日の活躍次第ではアドバイスすることも考えなくはない。


「じゃあまずは……何を奢ってもらおうかなぁ……」

「お手柔らかにな」

「おいフィル、お前腹減ってないか? いつもは買えないようなものでも財布が同行することになったからいくらでも食えるぞ」

「お、マジか?」

「お前、俺たちのこと財布って言ったか?」

「なにか間違ってますか?」

「ぐぬぬ……」

「あの……ミリアさん、あの方たちはどなたですか?」

「ん~? ん~……あ、馬鹿!」

「ば、馬鹿……ですか?」


 俺たちのやり取りをすぐ後ろで聞いていたソフィアがコソコソとミリアに尋ねるが、2人のことを思い出したらしいミリアのあまりにもあんまりな呼び名にソフィアは驚きを隠せない。

 まぁ、それも当然だろう。

 俺もまさか、影で2人のことを神官を相手に恋の駆け引きをするのに相手のことも考えない馬鹿だと話していたことをミリアが口にするとは思わなかった。


「うん! クローが言ってた」


 事実だが……事実だがそれを言うか……

 せっかくうまく事が進んだというのに予想外の形でミリアが爆弾を落としてくれたようだ。


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