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五話 -1 孤児と聖女の長い1日

短め

19

 初日こそゴットンが馬鹿なことをしてくれたおかげでちょっとしたトラブルはあったものの、2日目の正門大通りではトラブルらしいトラブルの1つもなく平和に1日が終わった。

 いや、トラブルと言えば2日目の朝に案の定ゴットンが職務怠慢を理由に罷免されたことがあったな。

 更迭ではなく罷免だ。

 血統派は新たな手駒を送り込むよりも護衛の手を減らして危険を増やすことを選んだようだ。

 実際、これは結構な痛手と言える。

 これによってただでさえ少なかった聖女の護衛が4人から3人に減ってしまった。

 ゴットンは聖女護衛の妨害をしたい血統派の人間とは言え、内通でもしていない限りそんなことが敵にわかるはずもない。

 襲撃が起きた時にゴットンがいれば、敵の何人かはゴットンに向かっただろう。

 そうなればゴットンは自衛のためにも応戦する他にない。

 腐っても騎士であるゴットンならば、襲撃犯の1人や2人は引きつけることができる計算だった。

 しかし、そのゴットンがいなくなったことでこちらに向かう敵が増えることになる。

 どれほどの人数で襲撃されるかはわからないが、1人2人でも減らすことができれば十分役に立つ。

 とは言え、ゴットンがいなくなったことで多少の支障は出たが、それ以外は概ね計画通りと言える。

 初日と2日目に襲撃がなかったということは予想通りに3日目の今日、襲撃があるということだ。

 この3日目に合わせた準備も計画通りに進んでおり、ゴットンの穴は予想外だったが埋められないほどの穴ではない。

 細工は流々――と言えるほどではないが、できるだけのことはしてある。

 しかし、計画通りに事が進んでも危険がなくなるわけでもない。

 今日は本当に大変な1日になりそうだ。


「クロー! ソフィアちゃん! ソフィアちゃんがきたよ!」


 北区へつながる貴族区との境で、これから起こるだろう襲撃のことを考え決意を新たにしていたところ、フィルに襟首を引っ掴まれたミリアの声で意識をそちらに向ける。

 なぜミリアの襟首が掴まれているのかと言えば、ミリアが昨日やらかしてくれたからだ。

 昨日も正門大通りの貴族区との境で待ち合わせていたのだが、ソフィアを見つけたミリアが嬉しさのあまりに駆け出して貴族区に入ってしまったのだ。

 貴族区から出てくる人間を出迎えるためという言い分でなんとか穏便に事を済ませることは出来たが、門衛から厳重注意を受けることになってしまった。

 さすがに同じ轍を踏むわけにはいかないので、今日は最初からミリアを確保しているわけである。


「お~い! ソフィアちゃん! ソフィあみゅにゅ」


 フィルに襟首を捕まれ、若干浮いているミリアは大きく手を振ってソフィアを呼ぶが、フィルに口をふさがれて奇妙な声を漏らした。

 よほどの馬鹿でもない限り、襲撃犯たちにはソフィアが聖女だということはすでにバレていることだろう。

 グンターたち騎士に昨日一昨日とあえてソフィアを聖女と呼ばせていたので、それは織り込み済みだ。

 しかし、だからといって無駄に目立つのはよろしくない。

 というか、今はまだ襲撃があったら困る。


「ミリアさん、おはようございます」

「おはよ~」


 楚々として可憐、礼儀正しく頭を下げて挨拶するソフィアに対して、ミリアはあまりにも砕けた態度で挨拶を返す。

 これが普通の貴族相手であれば頭をひっぱたいて訂正させるところだが、ミリアのそういった態度に好感を持っているらしいソフィアが相手ならばこれでよかろう。

 俺たちやグンターたちなどそっちのけでキャッキャと言葉を交わし、昨日までと同じようにミリアがソフィアの手を引いて歩き出す。

 北区で祭りの出店が一番賑わっている広場は貴族区からそれほど離れていないので、他愛もない話に少しばかり興じていればすぐにたどり着く。


「ここが北区ですか」


 貴族区の商店エリアや昨日見た正門大通りの光景とはまた違った景色にソフィアの目が好奇心にキラキラと煌いた。

 こう言っては貴族に怒られてしまいそうだが、貴族区の商店エリアと正門大通りはほとんど同じものだと言える。

 当然のことながら商品の質や値段はまったく違うが、飲食物を扱う出店やちょっとした遊戯ゲームを提供する出店などが大半を占めており、どちらも日本の縁日のようなものだった。

 しかし、北区は違う。

 飲食物とゲームの出店もないわけではないが、サッカーコートが2つは余裕で収まりそうな広場に広がっているのは巨大なフリーマッケットだ。

 茣蓙のような草を編んだ敷物に売り子が座り、並べられた商品は服や雑貨、中には家具を売っている者までいる。

 

「あれはなんですか?」


 庶民の日用品が物珍しいのか、ソフィアは並べられた商品の1つに興味を惹かれてミリアと一緒に歩き出した。


「…………」

「…………」


 その後ろでグンターと俺は視線だけで会話し頷き合う。

 グンターは小声でレオーナとジークに指示を出すとすぐに2人はフリーマーケットを見に来ている客に紛れて姿を消した。

 さぁ、なんとしても生きて帰るとしましょうか。


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