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-4 貴族区の祭り

ちょっとばかり時間が空きました(-_-;)

17

 護衛計画の最終確認を終え、ソフィアがアルバート神父との話を終えたことで俺たちはようやく城下に繰り出した。

 とは言っても、城からあからさまなローブ姿の少女が出れば聖女の一行だとすぐにバレてしまう。

 そのため、ソフィアは普通の貴族子女が着るような仕立ての良い服に着替え、グンターたちも騎士の鎧から貴族の私兵が使っているような装備に変えている。

 それだけではない。

 普通の貴族の子どもが城から出るだけでも珍しいのだから、そこも工夫をこらす必要があるのだ。

 そして、それは驚くべきことに城の隠し通路を使って貴族の邸宅に直接移動するという方法で解決した。

 しかしこれは、どう考えても普通の方法ではない。

 何がと言えば隠し通路を使って俺たちも一緒に移動したのだ。

 城の隠し通路がどこにあり、どこへつながっているなんてことは貴族でも知る者はそうそういないだろう。

 だと言うのにその隠し通路を使っての移動だ。

 一応、俺たちには目隠しがされていたが、それも貴族の邸宅に着いた時点で外される。

 出口がわかってしまうだけでも大問題であろう。

 もしかしたら、聖女の案内が終わったら口封じに俺たちは殺されるのではなどと心配になってしまうが、グンターを通して第一王子からそのつもりはないと伝えられている。

 かく言うのも、この隠し通路の出口側――貴族の邸宅は王家からの信頼が厚い武門の家で、城から援助も受けて警備が通常の貴族よりもはるかに厳しいため仮に隠し通路の存在が賊に知られたとしても邸宅側からの侵入は難しい。

 しかも、隠し通路はいくつもの分岐があり、侵入者を殺しにかかる罠も多数設置してあり、考えように寄っては正面から侵入を試みるよりも分が悪いらしい。

 また、こういったお忍びで城から出るために何年かに一度は使われている通路であるため、隠し通路としての価値は低いため、一応口外は禁じるが口封じをしてまで隠すつもりはないのだそうだ。

 多少の不安は残るが、とりあえず第一王子の言葉を信用するしかないだろう。

 気を取り直して、今日回るのは予定通りに貴族区だ。

 十数万という人間が暮らす王都の人口で貴族の割合は四捨五入すると0にしかならない。

 そんな数少ない貴族が暮らす貴族区だけを回ると言うと、そこだけを回るので大丈夫なのかと考える人間もいるかもしれないが、大丈夫だ。

 貴族区は広い。

 一軒一軒が大きな建物で敷地も広く取っていることもあるが、戸数もかなりあるのだ。

 人口比率では非常に少ない貴族が暮らす貴族区でも、王都で占める広さの割合は10%超えるほどの広さがあり、 貴族区の建物を見て回るだけでも十分観光として成り立つくらいの広い区画である。

 とは言え、今回のメインは祭りなので建物を見ることはない。

 貴族区には祭りなどほとんど関係がない、なぜなら貴族は商人を家に呼びつけて買い物するのが当たり前で、祭りがあろうと出歩いたりしない――などということはない。

 大人になってそういった買い物の仕方しかしなくなる貴族もいる。

 主にそういった貴族は血統派とか血統派とか血統派がそうだし、あと血統派もそうだ。

 しかし、血統派貴族の子どもであろうと子どもの時分は違う。

 中には血統派貴族である親の教育が悪いのか、自分で北区や正門大通りに来たくせにショミンガー! グミンガー! と騒ぎ立てることがあるくらいだ。

 血統派ですら祭りには参加するのだから、庶民派であれば間違いなく出歩いていることだろう。

 以前少しばかり関わり合いになった貴族の子どもも、祭りの時は貴族区でも出店が出てみんなが楽しんでいるという話をしていたので、それは間違いない。

 案の定、すでに昼時を過ぎているが貴族区の商店エリアには結構な人がいた。

 それもそうだろう。

 貴族ってやつは1人で出歩いたりしない。

 連れて歩く従者の数は爵位や家の経済状況など様々な要因が絡んで違いはあるものの、2人3人くらいは少ない方だ。

 中には先日勉強を見てやったチビたちと同じくらいの子どもが10人以上の大人を引き連れている姿もある。

 それだけであれば普段の祭りと同じ光景であろうが、今回はそれだけではない。

 第一王子の派閥に属する貴族の子女が、護衛と一緒に孤児も引き連れているのだ。

 当然のことながら、これも誰が聖女かわからぬよう敵を惑わすための策の1つである。

 そんなわけで、今回の祭りでは貴族区の人出は普段の祭りよりもさらに多い。


「すごいね! キレーだね!」


 そんな普段との違いなど露とも知らぬミリアが、商店エリアに入って街並みを見てすぐにそんな感想を漏らした。


「そうですね。とても綺麗に整えられた街並みです……でも、ミリアさんたちはいつも見ているのではないのですか?」

「……いえ、僕らは平民なので貴族区には立ち入ったことがないんです。要件があれば平民でも入れますが、僕らには貴族区に入るような要件なんてないもので」


 ソフィアの疑問にチャドが答えた。

 もともと基本的な聖女への応対は俺がやる予定だったが、俺は聖女様に嫌われてしまったようなのでその役割はチャドにバトンタッチしてある。

 フィルやミリアに任せるのは心配――というか、任せられるような仕事ではないが、チャドなら安心だ。

 今の説明も打ち合わせなど一切なしに俺が答えるであろう内容と同じようなことが出来ている。


「では、普段皆さんが見ている街並みとは違うんですか?」

「そうですね。まぁ、明日は普段僕らが見ている街並みを見ることができるので、どんな違いがあるかは楽しみにしていてください」


 お楽しみになどとチャドは言っているが、楽しいかどうかは微妙なところだろう。

 貴族区の街並みはいうなれば整頓された本棚である。

 各建物の細部に違いはあるものの奥行き、高さが整えられ、大きな違いと言えば幅ぐらいしかない。

 ゴミの一つも落ちていないほどに清掃も徹底されたなんというか、ものすごく几帳面に整えられた本棚を連想させる。

 それに対して、北区や南区なんかはひどいものだ。

 高さはガタガタ、奥行きもバラバラ、ひどいものになれば四角が並ぶ中に突然菱形や丸に三角形が現れたりすることもある。

 さすがに正門大通りは多少マシだが、貴族区と比べるとやはり雑な感じがするという感想を抱くだろう。


「あれはなんですか?」

「あぁ、あれは……」


 ソフィアは目に入る出店の全てが珍しいものに見えるのか、あれはなにか、それはなにかとなにか興味を惹かれるものを見つける度にあちらこちらへ意識が移る。

 実際、普段は聖国で籠の鳥になっているので、外で見る何もかもが珍しいのだろう。

 しかしこれは、ソフィアを護衛する4人は大変だ。

 いくら貴族区で襲われる可能性が低いとは言え、可能性は0ではない。

 それに加え、襲撃以外のトラブルが起きても問題になるのだから、問題が起きぬように必死にならざるを得ない。

 ソフィアがなにか見つける度に先回りして店や商品、周囲に危険がないか確認する。

 しかもそれをソフィアが気に病んだり、邪魔に感じたりしないよう極力気づかれないよう行わなければならないのだ。

 そんなグンターたちの苦労など少しも気づいた様子はなく、ソフィアは何の遠慮もなくミリアを引き連れて楽しそうに出店を見て回っている。

 グンターたちがそうなるように努力しているのだから、気づかないことを責めるつもりはない。

 今日はこのまま終わってくれれば大成功と言っていいだろう。


「なんで平民がここにいるんだよ!」


 と、思っていたのだがそうは問屋が卸してくれないらしい。

 金髪にニキビの多い顔が特徴的な少年が、俺たちの存在を見て顔を真赤にして怒っている。

 他にも孤児や平民を連れた貴族は多くいるのになぜ俺たちのところへ? と一瞬思ったが、一応レオーナはソフィアの隣についているものの、他の3人は周囲を警戒するために少し離れているのが災いしたようだ。

 連れている護衛が少ないってのは、それだけ身分が低いか金に困っている立場の弱い家の子どもと言える。

 どれだけ厳しくとも最低限の面子があるのか少なくとも2人は連れている中で、レオーナ1人しか連れていないソフィアを格下に見ているようだ。


「ここは貴族区だぞ! どこから忍び込んだんだ!」


 キーキーと猿のように騒ぎ立てる金髪ニキビだが、なんか顔に見覚えがあるな……

 貴族の知り合いはいるにはいるが、2人だけだしどちらも庶民派だ。

 こんなのと関わった覚えはないんだが、どこで見たんだ?

 いつでも動けるようにさり気なく位置を変えつつそんなことを考えるが、一向に答えは出てこない。


「うんだらほにゃらら! おっぺけぺーのどっきんこ! すうぃっちょんすうぃっちょん、るーしんは!」

「みぎゅ! クロ~……」


 思考に集中しすぎて金髪ニキビが何を言っているのかすっかり聞いていなかったが、どうやら俺たちのことを悪く言ったのだろう。

 予想通り怒りで飛び出しそうになったミリアの襟首を引っ掴んで動きを無理矢理に止める。

 ミリアよ、そう恨めしそうな顔で見るな。

 貴族の子どもをベルーガや酒場の酔っぱらいみたいにぶん殴ったら洒落にならんのだ。


「どうした!?」


 周囲を警戒するために少し離れていたグンターたちが慌てて駆け寄ってきた。

 護衛が4人と普通の貴族子女と大差ない人数が集まったことで、ソフィアを自分よりも下の立場だと思っていた金髪ニキビが少しは慌てるかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 ……と言うか、こいつの護衛はどこだ?

 他の貴族の子どもと同じように護衛がいるはずなのだが、金髪ニキビは1人きりだ。

 どういうことかと疑問に思っていたところで、答えはすぐにやってきた。

 それと同時に金髪ニキビの顔つきに見覚えがあった答えも出る。


「フレッド、どうしたんだ?」

「あ、兄上!」


 駆け寄ってきた騎士の1人、ゴットンが金髪ニキビの横に立つ。

 どこかで見た顔だと思ったが、この金髪ニキビはゴットンと顔立ちがそっくりなのだ。

 本人も言っていた通り、ゴットンの弟なのだろう。

 しかしこれで合点がいった。

 護衛などいるはずがないのだ。

 なにせ金髪ニキビは貴族の子息や兄弟ではあるが、貴族ではない。

 もともと継承権を持たぬ貴族の子どもや兄弟は厳密には貴族ではないのだが、金髪ニキビの場合はそれとはまた状況が違う。

 ゴットンは騎士である。

 騎士は貴族だが、叙せられた本人一代にしか貴族としての位は与えられていない。

 親兄弟も優秀であれば同じように騎士に叙せられることはあるが、成人もしていないであろう金髪ニキビが騎士ということはあるまい。


「こいつらが貴族区に忍び込んでいるんです!」


 俺たちを指差して得意げに金髪ニキビがそう宣ったが、さてはて……これはどういう意図なのか……


更新に時間がかかった点と今話序盤の設定に無理がある点で活動報告に言い訳が書いてあります

興味がある方はお読みください

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