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四話 ‐1 聖女来訪

4日ぶりの更新

14

 聖女の案内というやりたくもない仕事の日もとうとう明日に迫った。

 すでにアルジーク……連絡役として関わるうちに親しくなり、今ではジークと呼んでいる彼から昨日のうちに聖女は王都へ到着したという連絡は受けている。

 今頃は、王都を来訪した本来の目的である治療は終えていることだろう。

 聖女の案内役とその護衛という役割で協力関係にある俺たちだが、誰にどこでいつなどといった治療に関する情報は与えられていない。

 しかし、聖国で囲われているはずの聖女がわざわざ出向いてまで治療を行うのだから、国でもトップクラス――王か移動もままならないほど状態が悪い王族クラスであろう。

 予想はついても確認しようとはしない……と言うか、する必要もない。

 俺たちには関係のない話だ。

 とは言え、できることならグンターたちと直接顔を合わせて最後の話し合いもしたいところだが、聖女が城を訪れることで警備はより厳しくなっている。

 それでも城へ行かせろと無理を言って悪感情を抱かせるのは得策とは言えないだろう。

 それに俺たちが城へ行くことのリスクを考えれば止めておいたほうがいい。

 ジークと最終確認は済ませたのだからそれで良しとしておこう。

 俺は改めて状況の説明をするためにフィル、チャド、ミリアの3人を教会の一室に集めた。


「さて、いよいよ明日聖女が来る」

「は~い」

「ミリア、まだ返事はしなくていいからな。で、だ。聖女を案内するルート、何かあった時にどうするか、どこに集合するかってのは覚えているな?」

「うん」

「お、おう……たぶん大丈夫だ」

「わかりませ~ん!」

「ミリア?」

「っぴ! …………ごめんなさい」


 ちょっとばかりおふざけが過ぎるので睨むとミリアはしゅんとしてうなだれた。

 フィルの方が少しばかり自信なさげなのは想定内だ。

 そのための最終確認でもある。


「聖女を案内するのは祭りが開催される3日間だ。初日は貴族区、2日目は正門大通り、3日目が北区の広場あたりを見て回る」


 楕円形の城壁にぐるりと囲まれる王都は大まかに分けて、貴族区、北区、南区の3つの区画に分けられる。

 横に伸びた楕円の左――西側に城が存在しており、その城を囲むように貴族たちの邸宅が並ぶ区画が貴族区だ。

 楕円の右側――東には王都を囲む城壁にいくつかある門の中でも一番大きな門があり、そこからまっすぐと城に向かって大きな通りが伸びている。

 正門大通りと呼ばれるその道はちょうど王都を南北で二分するように伸びているので、そこを境にして北区と南区に分けられる。

 聖女を案内するのは貴族区と正門大通り、北区にある広場の3箇所をそれぞれ1日ずつかけて行う。


「わかったか?」

「うん」

「おう」

「はいっ!」


 あたり前のことだが、案内する場所には様々な条件がある。

 とりあえず南区は、比較的治安が悪いエリアとムフフな夜のお店があるから最初から選択肢にも挙がっていない。


「じゃあチャド、貴族区で何かあった時はどうするんだ?」

「集合場所は城の門で一番近いところ、できれば近くにいる大人に助けを求めるんでしょ?」

「あぁ、そうだ」


 正直、貴族区で襲撃があるとは思っていない。

 貴族区にある商店は、貴族を商売相手にするだけあって高級店しか存在しないし、従業員は身元がしっかりとしている。

 また、住宅地部分は貴族の邸宅が並び、貴族がそれぞれ個人的に雇っている私兵も多くいる。

 さらにさらに貴族区につながる道は門こそないもののその全てに衛兵が立って許可証を持たない者の出入りを許さない。

 これだけの条件が揃っていると敵が事を起こそうにも貴族区へ入ることも難しい上、見慣れない人間が歩いているだけで非常に目立ってしまうこともあって、ここで手出しをするにはリスクが高い。

 相手にとっての悪条件が揃っているのだから、貴族区から出る残りの2日に狙いを絞ったほうが懸命だと向こうも考えることだろう。


「じゃあ、フィル。2日目はどうするんだ?」

「えっと……あぁ……正門からフランシア商店の間なら第三教会、フランシア商店から商業ギルドの間なら中央の冒険者ギルド、商業ギルドから貴族門なら……貴族門だったか?」

「そうだ。ちゃんと覚えてるじゃないか」


 正門大通りは、パレードなどでも使われる非常に大きな通りだ。

 幅は六車線の道路が入っても余裕があるほど広く、祭りが行われる時には最も多くの出店が出ることもあって、普段から一番人通りの多い道にさらに人があふれることになる。

 長さも城壁から城までというキロ単位の距離があるため、特徴的な建物を区切りに三等分し、それぞれの区域ごとに集合場所を用意してある。

 とは言え、ここでも襲撃が起きる可能性は低い。

 人が多いということはそれだけトラブルも多く起きるということで、警備の兵や騎士の巡回も多いのだ。

 何か起きれば聖女護衛に当てられたグンターたち4人だけでなく、巡回している他の警備兵がすぐに駆けつけることができる。

 警備面では貴族区ほどではないが、貴族区とは比較にならないほど――それこそ普通に歩くのでさえ苦労するほど人で溢れていることを考えれば、襲撃に適しているとは言い難い。


「じゃあ、ミリア。最後の3日目はどうするか覚えてるか?」

「わかんない!」

「…………ミリア?」

「っぴ! あの……あの……んんっと……北側の冒険者ギルド?」

「………………」

「うぅ……」

「…………正解だ」


 おふざけが過ぎるので、少しばかり意地悪してから頭を撫でてやれば、ミリアはホッと胸をなでおろした後に笑顔を見せた。

 ミリアはものを知らないが、馬鹿ではない。

 一度言えば覚えられる頭があるのだから、そのへんはしっかりと教育してやらないとな。


「俺とグンター様の考えではこの3日目に襲撃が起きる可能性が一番高い。初日と2日目も油断はしちゃいけないが、3日目は特に警戒しないといけない」

「そうなの?」


 ミリアが不思議そうに言い、フィルも理由がわからないようで首を傾げている。


「初日の貴族区は敵が入るのも大変だ。何かあっても貴族の私兵が多いからすぐに助けが来る……でしょ?」

「よくわかってるな、チャド」


 俺が説明するよりも先にチャドが2人に説明する。


「2日目の正門大通りも人が多いから、敵が聖女を探すのも難しいし、巡回も多いから何かあってもすぐに助けが来てくれる。襲撃する方はこの2日間は様子見する可能性が高いんだよ」

「でもなんで、3日目は危ないんだ? 北区だって警備はいるだろ?」

「貴族区や正門大通りに比べれば、いないようなもんなんだよ。というか、そういう風に警備を調整してある」


 いつ来るかわからない敵を警戒するのは非常に疲れる。

 2日間警備の厳しい場所を選び、あえて最終日に警備がゆるい場所を選べば敵は最終日に狙いを定めて計画を建てるだろう。

 特に前2日間は可能性が低いとは言え0ではない。

 前2日間の警戒で精神が多少なりともすり減るのだから、消耗したところに攻撃を仕掛けるほうが楽だと向こうも考えるだろう。

 加えて言えば、北区は正門大通りや貴族区と違って路地など潜んだり連れ込んだりに適した場所が多い。

 襲撃にはおあつらえ向きとあって、ここまで好条件を揃えてやれば罠とわかっていても敵は向かってくる。

 なにせ、襲撃が成功したと言えるハードルは低いのだ。

 敵にとって最高の結果は、言うまでもなく聖女の殺害である。

 だが、そこまで行かずとも怪我をさせれば十分で、極端な話襲撃したという事実だけあれば最低限の成功と言っていい。

 内外どちらの敵もこれについては共通している。

 外部の敵にとって最大の目的はウェアカノ王国の国際的な信用を下落させることであり、内部の敵にとっての目的は第一王子の信用を落とすことだ。

 警備が厳重なはずの王都で、他国の要人である聖女が襲撃を受けるということだけでも最低限の目的は達成できる。

 では、襲撃が発生した次点でこちらの負けが確定するのかと言えばそうでもない。

 襲撃は起きたが、無事に犯人を捕縛もしくは撃退することができれば信用を落とさずに済む。


「人通りも正門大通りより少なく、警備も甘い。襲撃する人間がいれば狙うのは3日目の可能性が一番高いってことだ」

「ほぉ~」

「ふぅ~ん」


 ……なんというか、他人事みたいだけどこいつら本当にわかってるのか?


「フィル、襲撃があったらどうするんだ?」

「倒しちまっていいんだろ?」

「……フィル?」

「ひっ!? じょ、冗談だろ? 怒るなよ。逃げる。逃げればいいんだろ?」


 フィルは冒険者だった両親の姿を見て育ったため、ベルーガほどではないものの根っこの部分では荒くれ者のきらいがある。

 孤児院に入ったばかりの頃はそれこそベルーガと大差ない性格だったが、俺やチャドと付き合ううちに落ち着いてはきたもののふとした拍子に血の気の多さが表に出てしまう。

 今回ばかりはそれを許すわけには行かないので、きちんと釘を差しておかないといけない。


「相手は正面からの戦いでも騎士と互角に戦える実力がある超一流の暗殺者だと思え。冗談でも俺たちが相手になるような人間じゃない」

「……わかったよ」


 フィルの両親はCランクの冒険者だったそうだ。

 Cランクと言えば、冒険者の中では一人前よりも1つ上で、一流の一歩手前といった実力がある。

 あくまでも一般論として、そのCランク冒険者と騎士が戦えば騎士が勝つ。

 主に魔物の相手をする冒険者と戦争や盗賊など人間を主な相手とする騎士では、対人戦の経験値から騎士のほうが有利なのだ。

 そのCランク冒険者だった両親に育てられていた間、模擬戦で両親にフィルが勝ったことはない。

 あくまでも騎士と戦えば不利なだけで、Cランク冒険者の対人戦の能力が低いわけではないのだ。

 成長した今のフィルであれば、多少はいい勝負ができるようになっているだろうが、それでも実戦を経験していないフィルが今は亡き両親と勝負しても勝てる可能性は低い。

 相手が人を殺すこと生業としている暗殺者であれば、尚の事フィルが勝てる道理はないだろう。


「ミリアもちゃんと逃げろって言ったらさっき行った場所に逃げるんだぞ?」

「わかった!」


 元気よく返事をするミリアの頭を撫でてやりながら、改めて3人の顔を見回す。

 俺を慕ってくれる彼らを失いたくはない。

 生まれてすぐに捨てられた俺にとって、最も近しい存在――この世界での家族はこの3人なのだ。


「聖女を案内するのが俺たちの仕事だ。聖女が襲われても守るのは騎士の仕事で、俺たちは自分の命を守ることを一番に考えればいい。できれば見捨てないほうがいいだろうけど、何よりも自分の命を守ることを優先してくれ」


 聖女がどうなったところで俺たちが罪に問われることはない。

 聖女を守るのは騎士の仕事であり、多少の協力は求められるがあくまでも協力でしかないのだ。

 つまりそれは、いざという時に騎士は俺たちを守ることもないということでもある。

 聖女か俺たちかの選択を迫られれば、騎士たちは俺たちを見捨てるだろう。

 だからこそ俺たちは聖女よりも自分の命を守らねばならない。

 最悪なのは、俺たちの誰か1人が敵に捕まりそれが原因で聖女に被害が及んでしまうことだろう。

 俺たちの無事と引き換えになることを決めたのが聖女であろうと責任は俺たちが負うことになってしまう。

 そうはならないよう、なんとしても無事に生き残る。

 3人の姿を見回して、俺は決意を新たにするのであった。


今後のことを考えるとロボットものとかに路線変えようかと思う今日この頃

まぁ、やらないけど


ブクマ、評価ありがとうございます

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