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コタツの中のタカラモノ

作者: RIKO(リコ)

 俺の名はおこげ。町内では知る人ぞ知る小林家に住む茶トラの猫だ。


 小林家にはサラリーマンのお父さんと、3人の子どもと俺が住んでいる。子どもはそれぞれ、小学6年、4年、2年生で上と中は男の子、末っ子は女の子だ。


 冬になって寒くなると、居間にあるコタツの中が俺のねぐらになる。コタツの中でぬくぬくしてるのは、本当に身も心もリラックスできていい。唐突に入って来る家族たちの足が邪魔な時もあるが、まあ、家族だからな、そこんとこは我慢だ。


 コタツ布団にはいってくる足を見れば、俺にはそれが、どの子の足か分かるんだ。

 くつ下を履いていないのが長男で、くつ下を履いていても足の先が破れているのが次男、末っ子ちゃんの足はちっちゃくて可愛い。お父さんの足は……でかくて、ちょっと、臭い。俺はこれには迷惑している。


 小林家のお母さんはというと、俺は見たことも声を聞いたこともないな。多分、いないんじゃないかな。


 そのせいか、お父さんはいつも仕事に家事にと忙しそうだ。やんちゃな子どもたちは、よくお父さんを困らせて、叱られることばかりする。


 でもさ、今日はお正月。お父さんもちょっとは、ゆっくりすればいいのにな。

 のんびり生きるこの俺を見習うといいと思うぞ。


「おーい、お前ら、食べた食器は、ちゃんとこっちに持ってこいよぉ」

 

 台所で洗い物をしているお父さんの声は、今日はいつになく穏やかだ。お正月くらいは、子どもたちを叱らないでおこうと我慢しているのが俺には分かる。何だか泣けてくるな。

 なのにさ、子どもたちは、叱られないことをいいことに、好きなように騒いでいる。今は、3人でコタツに足をつっこんで、トランプとかいうカードで遊んでいる。


「あっ、ああっ」


「あ、ババ、そっちへ行ったな」


 長男が、末っ子の女の子に言った。


「ちがうもんっ。知らないもんっ」


「うふふふ、顔に出ちゃってる」


 次男が笑うと、末っ子ちゃんはつんとすまして、隣りにカードを差し出した。


「知らないもんっ。はいっ、お兄ちゃん、次、引く番だよ」


 子どもたちは次々にトランプを引いたり、そうかと思えば、それをコタツの上に捨てたり、何だかよく分からないが、この遊びはすごく楽しそうで俺の好奇心をくすぐる。それに、末っ子ちゃんの持っているカードは他のと違って、すごく綺麗だ。

 ああ、もう我慢できない。俺は末っ子ちゃんの手元にちょいと手を出した。


「こらっ、おこげっ、邪魔しないでっ」


 何で怒るんだよ。でも、俺はめげない。

 末っ子ちゃんが駄目なら、次男のカードだ。ちょいっと手を出す。


「おこげ、止めろ」


 すると、次男は冷たく、俺の手をはたいた。

 何もそんなにつれなくしなくてもいいだろ。

 いいよ。長男なら俺に優しくしてくれるだろうから。


 それなのに、


「おこげっ、お前は、手を出すなっ」


 ちぇっ、怒られてしまった。6年生の長男は力が強い。さすがの俺もコタツの中へ押し込まれてしまっては抵抗ができない。せっかくのお正月なのに、俺は家族だろ? この仕打ちは酷いんじゃないのか。


 でもさ、子どもたちよ、俺は悔しいから、こんなことを言ってるわけじゃないが、そんなに大きな声で騒いでたら、きっと、今にもお父さんの雷が落ちるぞ。


 しばらくすると、長男がうれしそうに手にしたカードをコタツの上に放り出して言った。


「俺、あがり!」


 続いて次男も言った。


「ぼくも、あがり!」


 すると、末っ子ちゃんも続いて、


「私もあがり!」


 何だよ、終わりかよと、俺がコタツの中でもぞもぞしていると、その後に大変なことが起こってしまったんだ。


 長男が叫んだ。


「嘘だろっ、全員があがれるわけ、ないじゃんか。誰がババを持ってたんだよ! ババはどこ行ったんだ?」


「私、知~らない」


「嘘つけっ、どこかに隠したな!」


「知らないもん。隠してないもん」


「最後はお兄ちゃんが持ってたの、俺、知ってるぞ」


「はあっ、知らねぇよ。俺を疑うんなら、俺のまわりを()()()()()()


 ババとかいうカードがないって、子どもたちは大騒ぎしている。周りを探してみても、()()は見つからないようだ。そして、ついに、3人は、大喧嘩を始めてしまった。


「私は隠してないもんっ!」


「あっ、こらっ、ミカンを投げるなーっ!」


「くそぉ、仕返しだ!」


「何で、こっちに投げるんだよ!」


「うわぁぁん、お兄ちゃんの馬鹿!」


 挙句の果てには、末っ子ちゃんを皮切りに、コタツの上のミカンまで投げ合う、”ミカン戦争”が始まってしまったんだ。


 そして、ついに、その時はきた。じっと我慢で台所仕事をしていた、お父さんの堪忍袋の緒が切れた。


「うるさぁいっ! お前らっ、もう外へ行って、遊んで来いっ!」


 お父さんは、怒るとものすごく怖い。


「ひやぁぁっ、ごめんなさいっ!」


 子どもたちは、蜘蛛の子を散らすみたいに、外へ飛び出していった。

 

 * *


 子どもたちがボール遊びをしている声が外から響いてくる。

 まぁ、寒くたって、子どもは風の子。外で元気よく遊べばいいんだよ。


 お父さんは、やれやれとばかり、コタツに足をつっこんで、やっとごろりと横になった。

 うたた寝を始めた、お父さんのいびきの音が聞こえてくる。


 ちょっと足が臭かったけれど、俺はそのくらいは我慢するぜ。お正月だからな、お父さん、今日はゆっくり休んでくれ。


 俺も、さっき、子どもたちから、こっそり奪ったトランプとやらのカードでも眺めることにするよ。

 あいつらの探してたババって、これのことをいうのかな。


 何だかさ、愉快な恰好の男の人が立ってる絵がすごく綺麗で、

 俺は、この絵がすごく気にいってしまったんだ。だから、コタツ布団の中に大切に隠して、このカードは俺のタカラモノにしよう。



 ああ、いいお正月だなぁ。今年ものんびり、いい年になりそうだ。



          ~完~





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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しい家族と猫ちゃんの話でした! ずっと仲良く^_^
2023/04/25 18:44 退会済み
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[一言] お話の光景が生き生きと頭の中に浮かびました。 小さい子がいるご家庭でのお正月ってこんな感じですよね。 我が家ではボード版の人生ゲームをやっていることもありました。 最終的には、子供は遊び疲れ…
[一言] 犯人……いや、犯ニャンはお前か〜!!! しかしお猫さまを邪険にした時点で、この結末は仕方のないものだったのかもしれません。だって我々はしょせん下僕ですもの。お猫さまのご機嫌に左右されるしかな…
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