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7日目 最終章

《ーーそうして、パリを賑わせた、Jack the Parispper事件は収束した。

私の新たな友人である日本人は再びあてのない、自由気ままなヨーロッパ旅行を進めた。

以前のように、幽霊になってではなく、人間として。

彼は、魔法による国境間の移動をヴァチカンから公式に認められ、今もヨーロッパをほっつき歩いていることだろう。

私があげた、おもちゃのようなクラシックフォンを手にした彼は、今、私の弟子として、ブロガーとして活動をしている。

パリとロンドンで共に過ごしたカナダ人の友人は、私の手からバラを引ったくって、祖国に帰ってしまった。

パリの意地悪な女はインターンを続けた。

そして、探偵は、私の童貞と心を盗み、再び次の事件を探し求め、何処かへ姿を消した。


旅は、学校で学んだことを生かせる場所であり、学校では学べないことを学べる場所でもある。

人付き合いが苦手な人は、旅に出ることである。

旅を恋しく思い、思い出に浸る時、自分のコミュニケーションがうまくいかない理由を知れる。ーー》


俺は、ブラックベリーの画面から顔を上げた。

「感動したよ。スコット」と、俺は呟いた。

実際はこれっぽっちも感動していない。

むしろ、文章力が落ちてる気がする。

実際のところ、リサちゃんはまだカナダには帰っていない。

メッセンジャーを開くと、スコットから画像付きでメッセージがきていた。

スコットとリサは、今、ルーブル美術館にいるらしい。

俺は、リア中末長く爆発しろ、と思いながら、電源を切り、ブラックベリーをポケットにしまった。

俺は、フランスとスペインを結ぶ国道の端を歩いていた。

車は、あまり通っていない。

標識を見れば、アンドラという国まで、百数十キロというところ。

走れない距離ではなかった。

魔法を使えば、あっという間だ。

だが、旅の楽しみは、目的地にたどり着き、観光をすることだけではない。

それなら、部屋にこもって、ネットで世界中を歩き回ればいいのだ。

旅に出る前の俺のように。

1人でいると、人は歪む。

孤独は、人を歪ませる。

パリ裂きジャックは、孤独だった。

孤独な時間が長く、孤独になるまでの時間、奴は、奴自身と戦い、そして、おそらくは、どうにかこうにか、人と繋がろうとしたのだろうがうまくいかず、自分の中の善と悪の戦いに負け、憎しみに囚われたのだろう。

俺は、引きこもっていたときのことを思い出した。

俺もそうなっていたかもしれない。

俺には、やりたいことがあった。

旅行だ。

そして、行きたいと願っていた場所に行った時、俺は、初めて訪れたその場所で、心の底からの幸せを感じることができた。

子供の頃のように、心の底から色んなことに夢中になり、心の底から戸惑い、心の底から困り、必死になって、色んな人に助けを求めた。

その人たちがいなければ、俺は、生きていないだろう。

その人たちの優しさが、俺を生かし、歪んでいた俺を、徐々にではあるが、矯正してくれたと、そんな風に思う。

俺は、旅を終えるのが怖かった。

終わってしまえば、また、昔の自分に戻る気がした。

試してみないとわからないことで、また、自分の歪みを自覚し、苦しみ、恥をかきながら、長い時間の後に、社会でのうまい立ち振る舞いを身につけていくのだろう。

俺は、その時、自分がまだ学生だということを思い出した。

学校が始まるのはいつだったっけ。

9月と4月だ。

今は9月の中頃。

なんだ、もう学校始まっちゃってるじゃん。

それなら……。

俺は、標識の下に立ち止まり、親指を立て、笑顔を浮かべた。

もう半年くらい楽しんじゃおうかな……。

ミニクーパーが、向こうからやってきて、俺の前に止まった。

パオラだったらいいなぁ、と期待したが、やはり違った。

まず、車の色の時点で違う。

運転席の男性は、胸元まではだけた、カジュアルな空色のシャツに黒いパンツ、ショートモヒカンにミラーグラスと、ヴェネツィアスタイルだった。「どこまで行くんだい❓」

「アンドラまで」

「途中までなら乗せてってやるぜ」

「助かるよ。腹減ってないか❓」

「ぺこぺこ」

「奢らせてくれ」

「気に入ったぜ。実はトランクに押し込んでバラバラにしてやるつもりだったんだが気が変わった。助手席に乗りな」

俺は、笑うべきか逃げ出すべきかを考えながら、男性を見つめた。

男性は、小さく笑った。「オッケー、そういうジョークはNGね。了解」男性は、口にチャックをして、口の端で鍵をかけ、俺に鍵を差し出してきた。

俺は空気の鍵を受け取り、男性の口の端の鍵を開けた。

「グラッツェ。息ができなくて死ぬかと思った」

俺は、声を上げて笑った。「よろしく頼むよ」俺は助手席に乗り込んだ。見れば、男性はサンダルを履いていた。「ケントだ。日本人」

「お〜っ! ジャッポーネかっ! 俺はパウロだ。イタリア人」

「ヴェネツィア❓」

「おう」

「だと思った。良い街だよな。心の故郷だ」

「同じだな。あれ❓」パウロは、眉をひそめ、目を細め、上半身を引いて、まじまじと俺を見た。「お前、中学の頃一緒だったか❓」

俺は、はっ、とした顔で、パウロを見て、彼に、上向きにした両手の平を向けた。「お前……、あのパウロか❓ あのお調子者で、よく女子のスカートめくりまくって片っ端から口説きまくってた……」

パウロは息を飲んで、首を傾げた。「……え❓ いや、そりゃ、別のパウロだな。パオロ・ペルベルトだ」

「あいつか……、名前の通りの変態だったな……」

パウロはため息を吐いた。「あぁ……、俺もお前もスカートをめくられたよな……」

俺は笑った。

パウロも笑った。「しかたないからあの後処女をもらってやったぜ」

俺は声を上げて笑った。

パウロは、笑いながらエンジンを踏んだ。

南西フランスの景色が、前から後ろへと流れ、今朝までいたパリが、ぐんぐん離れていく。

「故郷から離れて、アンドラに何しに行くんだ❓」パウロは言った。

「何ってのは決めてないな……、行ったことがないから、行ってみたいのさ。あんたは❓」

「俺はこの先に住んでるんだ」

「そうか……、実は相談なんだけど、俺はゲイじゃないって先に言っとく」

パウロは、ギョッとした顔で俺を見た。「ゲイなのか❓」

俺は笑った。「いや、女が好き。実は、今夜の宿を探してるんだ。良ければ泊めてくれないか❓」

「無理だな。家族がいる。子供はまだ2歳なんだ」

「子供は好きだ。あいつら可愛いよな」

パウロは、スマートフォンを取り出し、子供と奥さんの写真を見せてくれた。

小さな家の写真もだ。

「そうか……。無理言って悪かった」

パウロは、笑顔を浮かべて肩を竦めた。「気にすんなよ。そのくらいの図々しさは、ヒッチハイカーなら当然さ。友達の家を紹介するよ。よく旅行者を泊めてるんだ」

「助かるよ。ありがとう」

「良いってことよ」

道路の端に看板が見えた。

スタンドまで3km。

「ほら、スタンドだぜ。何食わせてくれるのかな❓」

「高いのは無理だ」

パウロは笑った。「フォアグラのソテーを食えるとは思ってないさ。ホットドッグが食いたいな。チーズソース入り。奥さんがユダヤ人なもんで、家じゃ食えないんだ」

「え……、じゃあ……、結婚する時、あそこの皮切った❓」

パウロは顔をしかめ、頷いた。「あぁ、とんでもなく痛かった。奥さんは別に良いって言ってくれたんだけどな、俺がやりたかったんだ。金はなかったが、色んな形で、愛を証明したかった。でも、時々ホットドッグを食いたくなるんだ。秘密だぞ❓」

「よっぽど好きなんだな……」

「3年目にして、ようやくベッドの上のキャンプファイアーが山火事くらいになってきたとこだぜ」

「俺もそんな女見つけたいもんだ」

「良いもんだぜ。たまに独身も恋しくなるけどな」

「何歳❓」

「30」

「11年後か……」

「結婚は27」

「8年後か……」

「若いうちは楽しめよ。結婚は天国だが同時に、ゆっくりと行われる幸せな安楽死みたいなもんさ。1秒ずつ、少しずつ男性としての尊厳を奪われていくのさ。女物のパンツを洗い……、小便する時も便座に座らせられ……、カーテンやカーペットは花柄ときたもんだ……」パオロはため息を吐いた。「とどめに子供だよ。子供が生まれて、俺はすっかり丸くなっちまった」

俺は笑った。「そんな安楽死なら悪くないな」

「ホントかぁー❓ 子供から言われるんだぜ❓ なんでパパはおっぱいでないの❓ そこまで女になれねーよ。次はなんだ❓ もぎ取って豊胸手術受けろってか❓ お前できるか❓」言いながらも、パオロは幸せそうだった。

「それは……、そんなもんもう、カチッ、プシュ、ポゥーだぜ」俺は、人差し指で作った空想の拳銃に空想の銃弾を装填し、自分のこめかみを打ち抜き、空想の脳髄をサイドミラーにぶちまけた。

車は、笑い声を上げる俺たちを乗せて、ガソリンスタンドに入っていった。

「運転出来るか❓」

俺は頷いた。

「実は少し疲れてるんだ」

「任せてくれ」

「ありがとよ。ホットドッグあるかな」

「ローストチキンサンドあるかな。ーー」


最後まで読んでいただきありがとうございました。

編集の方は明日以降行います。

次回作にご期待ください。

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