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短編?

パワハラ幼なじみに転生してしまいましたわー!

作者: 稲荷竜

(うぎゃー! パワハラ幼なじみに転生してしまいましたわー!)


 このあと彼に見捨てられて精神がボロボロになりそのまま事故死して転生してなんやかんやで異世界生活を送って今またここですわー!


 おっと令嬢が漏れてしまいましたわ。


 今のわたくしは伯爵令嬢ではなく一般庶民の十五歳の少女。

 このあと死んで転生するのだけれど、どうやら転生の起点となる『彼に見限られるシーン』で記憶が戻りやがりましたのね……


 たしかになんやかんやあってなんやかんやした結果、神様に『できるなら、もう一度前の人生をやり直したい』と願ったのですけれど、ちょっとやり直しのタイミングはシビアすぎやしませんこと?


「あのさ」


 時刻は夕暮れ。場所は公園。目の前には彼。

 うつむきがちのまま押し殺した声を出す彼。

 もうマジで別れる五秒前なんですけれど!?


 ちょっと神ー! 神ー!


 その時、夕暮れに赤く染まった視界が唐突にモノクロームになり、彼が『お前と別れようと思う』の『お』のかたちに口を開いたまま固まったのです。


 そうして天より声が降り注いできたのですわ。


「神です」


「ちょっとあなた! やり直しのタイミングがあまりにもシビアじゃなくって!? たしかにやり直したいとは言いましたけれど、もうちょっとわたくしの意図を汲んでくださってもよろしいのでは!? ちょっと直前すぎて、ここからではどうにもなりませんわよ!」


「ミジンコ……ではなく、人の子よ。そうは言われても、神には人の時間の感覚がよくわからないのです。時間を合わせる作業は細かすぎてイライラします。ようやくあなたがフラれるよりも前に照準が合わさったというのに、また細かい時間軸にあなたの魂を合わせる作業クソ面倒」


「シンプルに死ね」


「仕方ありません……神なので、あなたがこれからとるべき行動を示してあげましょう。神にかかれば運命を変えることなどたやすいですからね。ただ、あなたにとって最適な未来がどれかまではわかりませんから、神にできるのは選択肢を示すことだけです」


「なるほど、正解の選択肢を選べば、わたくしは彼との別れを回避できると?」


「ええ。あなたの運命は大幅に変わり、彼とは末長く続き、世界の終わりまでともにあり続けることができるでしょう」


「そこまではいりませんわ」


「ではこれより四つの選択肢をあなたに提示しますので、望みの選択肢を選んでください。それでは時間を戻します」


 モノクロだった世界に色合いが戻り、私の目の前には四つの選択肢がADV形式で提示された。


 そして私はなにも選んでないのに、彼は言葉を発し始める。


「お前と別れる━━」


 えっ、猶予!? どこにいらっしゃいますの!? 猶予!


 目の前の選択肢を読んで検討する時間もないのはあんまりじゃなくって!?


 爆速で選択肢を見ていきますわ。


 一番上……ビンタ。

 シンプルでいいですわね! 間違いなく相手の言葉は止まりますわ!


 二番目……弱K(下段)

 私の今いる世界は格闘ゲームですの!?


 三番目……強P(上段)

 対応次第で即死コンボが決まる状況は格闘ゲームと酷似していますけれど!


 四番目……素直に謝る。

 ……。


 実質一択で助かりましたわ。


 一瞬だけ目を閉じて、彼とのこれまでの人生を思い返す。


 ああ、なんてひどい、傲慢の数々。

 異世界で令嬢をやった人生経験があれば、自分の行動一つひとつが、いかに彼を傷つけてしまっていたかが、わかる。


 言い訳をさせてもらえるなら、私は、必死だった。

 大好きな彼が誰かにとられないように。でも、その内心が透けてしまうのが恥ずかしくて、こわくて、傲慢に振る舞ってばかりでしたわ……


 けれど、そんなことをしても、彼の心ははなれていくばかりでしたのね。

 ……ふふ。今となっては簡単にわかることが、昔は、まったくわからなかった。若さ、ですわね。


 私は彼に向けて手を突き出した。

 それは『待ってほしい』という意味合いの動作にも見えたけれど、視界を塞ぐ選択肢をタッチして消しただけのつもりだった。


 そうしたら異世界暮らしのころのステータスを維持しているわたくしの一撃は、彼の体を突き飛ばしてしまった。


 そう、私が選んだのは、結果的に『強P(上段)』でしたわ。


 彼は倒れて動かなくなった。


「…………回復魔法ォォォォ!」


 すぐさま駆け寄ってヒールヒールヒール!

 彼は頭を振りながら目を覚まして、私を見て言った。


「……ここは……ええと、君は?」


 うぎゃー! 記憶喪失ですわー!


 私は記憶喪失になった彼に献身的に尽くした。

 自分たちが恋人だったこと、そして不幸なすれ違いと幼さが互いをすれ違わせていたこと……すべてを話した。


 彼の記憶は三ヶ月ほどで戻ったけれど、その時の献身的介護もあり、私の心が本当に入れ替わったのを認めてくれたようで、私たちの仲は末長く続いた。


 神は私に教えてくれたのだ。


 迷ったら強P。


 間合いの長いノックバック属性のある打撃は、相手の即死コンボの出端をつぶせる……

 それが、二度の転生を経て現世に戻った私の得た『答え』だった……

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