54 理想像
「やり方を変えてみたんですけどダメでしたか? キレイになっているならいいかなと思ったんですけど…」
「いや、予想と違ったからびっくりしただけだ。早くても床の掃除が終わったところだと思っていたから」
「これでも見習い冒険者ですからね。残りの掃除も任せて下さい」
「ああ、頼む。これスキルを使ったのか?」
「想像におまかせします」
「…そうか。外にいるから終わったら声をかけてくれ」
それだけ言うと外に出ていった。
パドスさんはスキルを使ったことに気付いているけど、それ以上聞いてこなかった。
最初の予定では時間をつぶしながらのんびり作業して、バレないようにするつもりだった。バレたら面倒そうだし。
でも、パドスさんは大丈夫な人だと思ったんだよね。ただの勘なんだけど、作業のやり方を教えてくれた時の態度とか雰囲気とかが信頼出来る人の感じだった。
裏表のない素直で真っ直ぐな人、決して裏切らない人だと思った。
なんでこのように感じたのかわからないけど、直感でこの人は大丈夫だと感じたからスキルを隠さなかった。
案の定、余計な詮索はしてこなかった。ギルド長とは大違いだな。
さて、ハクが待っているから残りの掃除も終わらせよう。もっと効率良く作業できる方法も考えようかな。
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牛舎の中の掃除を終わらせてゴミを捨てにいく。糞尿や藁のゴミは集めて肥料に加工するらしい。
アイテムボックスから全部出して、中に残っていないかリストを確認したら作業は終了だ。
戻るとパドスさんとハクがボール遊びをしていた。投げては取ってくるを繰り返す、肩を痛める遊びだ。
ハクは初めてのボール遊びに大興奮で、元気に走りまわっている。パドスさんも楽しそうにボールを投げていた。
あ、パドスさんが大丈夫だと思った理由がわかった。
「…理想のお父さんみたい…」
前世は親に恵まれなかった。今なんか父親は見たこともないし、母親も1度しか会っていない。しかも捨てられた。
小さい頃、こんなお父さんがいいなぁと想像していた父親像はパドスさんのような人だった。
見た目は怖いけど優しくて力持ち、厳しいけどちゃんと褒めてくれる、ありきたりなイメージかもしれないがすごく憧れたんだ。
今までは平気だと思っていたが、やっぱり少し寂しかったのかもしれない。親に褒められたい、認められたいって感情はとっくに無くなったと思っていたよ。
感傷的な気分になっているとボール遊びを終えたパドスさんが戻ってきた。
「どうした? 変な顔しているぞ」
「いえ、大丈夫です。作業が終わりました」
「よし、じゃあ確認するか」
頭をぽんっと撫でて牛舎の中に入っていった。ヤバい、ちょっと泣きそうになった。
「おぉ、キレイになったな。完璧だ」
「ありがとうございます」
「こんなに早く終わるとは思っていなかったよ。依頼書にサインするから出してくれ」
「終わりでいいんですか?」
「ああ、今日は牛舎の掃除だけの予定だったから終わりでいいぞ。それとも、もっと働くか?」
「報酬によります。お金は依頼書の金額でいいので、卵を分けてくれるなら働きます」
「いいだろう、交渉成立だな。先にサインだけしておこう」
これで食生活が少し良くなるな。牛乳と卵が手に入るから、あとは砂糖か蜂蜜があればパンケーキが作れる。
帰りに市場に寄って探してみよう。久しぶりに甘い物が食べられるかもしれない。
追加の仕事は鶏舎で卵を集めることだった。大きな鶏舎の中は藁やおがくずのようなものが敷いてあり、餌と水の桶がいくつか置かれていた。
部屋の端に小さな鳥小屋がたくさん並んでいて、卵はここで産むらしい。鳥小屋の全てに卵があるわけではないので、1ヶ所ずつ確認して探す。
さすがに面倒だから、鑑定で卵のあるところだけを選んで回収していった。
鳥小屋の中の回収が全部終わったので報告をしにいこうとしたら、床に敷いてある藁の中に卵が落ちているのに気付いた。
鶏舎全体を鑑定してみると、他にも何個か落ちている。念のため落ちている卵も回収して分けておいた。




