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ステージが始まった。
軽快な曲。
元気な曲。
色々あるよ。
ちょっと古い曲と、昭和の懐メロ。
そういうのが、こういう屋外舞台で歌われる。
大不況前、リーマンショック前。
「あの時はよかった」
皆そう口にする。
もう、十年前、三十年前のことだ。
それでも、忘れられないんだ。
夏みかんのサンドイッチ。
クリームの甘さと、甘夏の酸味。
食べ物の特徴を極めていないからこその旨さがそこにあると思う。
1つを食べ終えたあとだ。
もうひとつ手にとってイベントを聞いていた。
曲が変わった。
「悲しみの歌を口ずさむと時~」
思い出してしまった。
記憶に蓋を、鍵を、チェーンまで巻いていたのに。
感情が決壊してしまった。
思い出されるのは、あの夏の日々のこと。
僕に不可能なことはないと思っていた。
僕はエルドラドにいけなかった。
辿り着けなかった。
そして、静に会うことも、もうない。
何故だろう、快活な静の面影がそこにあった。
「だ、大丈夫、ですか?」
そう声をかけてくれたのは奇特な、血色の良いお嬢さんだった。
人の良さそうな子だった。
いつもだったら、
「コーヒーのひとつでも…。」
そう言っていたと思う。
でも、今は一人でいたかった。
心配してくれた彼女に有りがたいとも思っていた。
今時こんな子はいない。
「大丈夫、大丈夫だよ。ただ…」
「?」
「間違って多く買ってしまったんだ。」
そう言って、僕は彼女にもう1つ買ったサンドイッチをあげてしまった。
奇特な少女が去って。
ようやく僕は落ち着きを取り戻した。
気づけば僕はサンドイッチを落としていたらしい。
サンドイッチを処理しようと手にとってはじめて知った。
僕は結構、確りと泣いていたらしかったんだ。
あぁ、だから大宮は好きじゃないんだ。