泉にて
北の里イ-クォルを出て 久しぶりの里帰り
朝日が辺りをオレンジ色に染める頃 旅慣れたキャラバンすら避けるベルラ砂漠を越え荒涼
とした荒れ地を北へ横断飛行している者がいた。
南にある商業都市ハザンの市場で、原産品の硫黄などを売り代わりに、
香料・薬草・綿布などを買い込み ラセッタ大陸の最北端にあるイ-クォル国へ
帰里中の二組。
真っ黒な鱗に力強い羽をピンと延ばし飛行する巨体の翼竜の背には、褐色の肌に
少し癖毛な漆黒の髪を後ろに束ねた二〇代初めの一目で剣士と判る青年が、土産の品々と
テントなどを乗せた荷物の上で寝っ転がっている。
黒竜より一回り小さい白銀の鱗を持つ竜の首には鞍が乗せられ、青年より少し若い少女が乗っている。
腰まである銀の髪を 朝日になびかせ 風に乗り ゆっくり飛行する竜の動きを楽しんでいた。
若い二人は、イ-クォル国の騎士と国司である。国を守るべきふたりだが、幼い頃より
放浪の旅を続け生きて来た。ふたりにとって、旅を続ける事が何よりの楽しみである。
険しい岩山に囲まれ地形のため 外界との接触が少ないイ-クォル国には、欠かせない役割とは言え
国民の数が、五〇〇少々の小国なので、国司とは名前ばかりで、年に数回住民が掘り出した宝石や
硫黄を近隣の国に持ち込み外貨に交換しては、国で取れない品々を買い出しに出掛けていた。
真夏の太陽を避け 月明かりの元 一気に砂漠を抜けて来た竜と若者の一行だが、そろそろ
疲れてきた。
白竜が少女に語りかける。
「シャラン、泉ガ見エテ来タケド一休ミシナイ」
「岩と枯れ草ばかりで なんにも 見えないけど‥あっあの黒い点がそうかな。
夜通し飛んだし白露も疲れたね 休みましょう」
少女は黒竜に向かい大きく手を振り少しずつ広がる緑地を指さし白竜を降下させた。
白露は水が沸き出す泉のほとりに、フワリと降り立ち少女と荷物を降ろした。
少し離れた草地に後ろ足でドスンと着地した黒竜は、腰と肩で固定していた鞍のベルトを外して
荷物と青年を振るい落とした。
「クロ お前 なにする ※◎☆」と荷物の下でわめき散らす青年を鼻で笑い
黒竜は降りる時見つけた木の実がなる近くの木に サッサと移動していった。
「イ-クォルまで後二日ね。水樽三個で大丈夫かな」
シャランは荷物下から手をばたつかせ
おいオイとわめいてる夫・オディを無視
水樽を探し中身を確認する。
白露が鞍と荷物を起こしオディの脇に寄せる。
やっと自由の身になったオディは、妻のシャランに詰め寄るが
「荷物の中で ずうっといびきかいて寝てたよね。わたし達は、ずうっと一睡もせずに
起きてたのに はい仕事して あたし達は少し休憩する」と胸元に空樽をどんと押し付ける。
空樽を渡されオディは押し黙った。
確かに荷物に体を括り付け ずうっと寝てたから
太陽が昇り辺りは明るくなり 夜露が
辺りの景色は 山沿いに近づき低木と丈の高い雑草に囲まはれ緑の色合いが増えてきた
シャランは白露と飛行予定を相談していた。
「朝ご飯食べて 街道沿いに行けば宿場に行ける
砂漠は越えたから今度は昼でも飛行出来るし 無理せずに行きましょ」
大きくなった黒曜の俺様ぶり