第4話 葉と食パン
「身だしなみは大丈夫だね。忘れ物ないね?制服の写真撮っとこっか?」
保護者か。
「いや大丈夫。それじゃあ行ってくるね。」
「うん、あとで行くから…あ、ちょっとだけ待ってて!」
姉ちゃんが急いで階段を駆け上って行く。
と思ったのもつかの間、帰還。その間時間にして30秒掛からず。
「はいこれ!緊張しないように!」
小さな袋が弧を描いて掌に収まる。
『お守り』と表面に書かれたその袋は、少し粗さの目立つ本返し縫いで閉じられていて、昔の姉ちゃんの女子力の無さが見るたびに思い起こされる(今もだけど)
中身は知らないけど大事なものらしい。
「高校受験と大学受験、どっちも持って行って受かったからご利益あるよ!緊張しないようにね!」
「ありがと。行ってきます。」
「うん、いってら!」
ガチャっとドアを開ける。
そしてすぐさま目を疑った。食パンを咥えた男子校生が目の前の道を駆け抜けていた。
キョトンとして眺めているとチラッとこちらを見た食パン高校生と目が合った、いや、合ってしまった。
思わず姉ちゃんの方を見る。もちろんキョトンとしてる。数秒前の俺も多分同じ顔。
「えっと、行ってくるね。」
TAKE2。
「行ってらっしゃい…」
大根役者並みの作り笑顔と棒読みのセリフで姉ちゃんが言葉を返す。
ガチャン。
さっきの食パン高校生が俺の人生の大きなコンパスになることをこの時の俺はまだ知らなかった