表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

第7話 キャラバン

 酒場でブラントンと別れたアレンとリズは、給士の仕事を終えたエリーに連れられて町の外れに向かっていた。


 数件の宿屋を通り過ぎた所で、

「おいおい、大丈夫なのか?」

 とアレンが疑問を口にした。


「いいから、ついてらっしゃい」

 エリーは、後ろに手を組みながら振り返る、髪が流れ、うなじが覗く、艶やかな白い肌、細い肩から胸にかけてのラインが強調される。


 あか抜けた人懐っこい笑顔は、服装こそ町娘のそれだが、給士の時とはまるで別人だった。


 アレンを挟んで反対側を歩くリズは、慌てて彼の腕に絡むように抱きつき、エリーを不審者のように上目遣いで見る。


「あら、リズちゃん、可愛い」

 エリーは、アレンの肩に両手を置き身体を預けてきた。

 リズは口を尖らせ、アレンを見る。


「おい、いい加減にしろ」

 彼は、エリーを片手で引き剥がした。


 彼女は、抵抗することなく素直に離れ、いたずらっ子のようにテヘッと無邪気に笑う。

「ごめんなさい、あの先の角を曲がれば、目的地よ」

 と前方を指差し、機嫌良さそうに歩きはじめた。


 騎士団や大勢の傭兵を養う為には、それ相応の食料が必要になる。

 兵糧が無ければ、軍は維持できない。


 人口が少なく、元々、戦とは無縁だった町には日頃から備えは少ない。さらに、ここ最近の不作続きで、飢えた住民も多かった。

 そこへ、賊の予告状、噂は、商人の間に、瞬く間に広がる。

 さらに、騎士団が動く、それは、兵糧を買うのは、小さな町ではなく、教国が金を出すということ、まさに、商機到来だ。


 今まで、誰も見向きもしなかった小さな町に、富が集まりだしていた。



 アレン達が、エリーが指差した角を曲がると、そこは、開けた空き地になっていた。

 大勢の人が忙しなく動く気配がし、人々の声に馬の鳴き声が時折混じる。


 エリーは、長いスカートをひるがえしながら、アレン達の方へ、クルリと振り返った。


 白いほろを張った数台の荷馬車とテントを背にしながら、

「これが、私のキャラバンよ」

 とエリーは誇らしげに紹介した。


 馬車には、立派な紋章が付いていた。

「稲穂に太陽の紋章、王国の行商人……」

 アレンはきびすを返そうとする。


「宿は空いてないわよ」

 エリーが呼び止めた。


「そろそろ空きが出ると聞いている」

「その空きは予約で埋まっているわよ」

 アレンは、ブラントンの顔を思い出す。

「ちっ、あいつ……」

「野宿なんかより、ずっと心地良いわよ」

 勝利を確信した彼女がニッコリと笑う。


「それに、連れは、もう限界よ」

 エリーの言う通り、リズは、コクリ、コクリとしながら鼻提灯を作りそうな勢いだった。


「あんたら、王国のお抱えなんだろ」

「お互い詮索はよしましょ、アレンさん。

 隊長さんの知り合いを泊めるだけでも、私達には、利益になるのよ」


 キャラバンの方から、腰に剣をぶら下げた年配の男性が寄ってきた。

 王国は、教国の友好国だか、位置は教国の南西、この町とは反対側にある。つまり、一ヶ月以上かかる距離だ。


「お嬢様、そちらの方々は?」

 男性は、アレン達を値踏みするように観察する。


「私のお客様よ、テントを一つ準備しなさい。もちろん、寝床もちゃんとしたものよ。父様には、私から伝えておくわ」

 彼は頷くと、直ぐに小走りで離れ、人を呼び集め始めた。


「これから、私達は、食事だけど、あなた達もいかが?」

 アレンは、その問いに、腕を振って答える。

 エリーは笑い、

「やっぱり、そうよね」

 と腕を組む。


「なんで、給士なんて……」

「酒場には、情報が集まるものなのよ。それに、お小遣い稼ぎにも良いのよ」

 エリーは、アレンの言葉にかぶせるように答え、銀貨を一枚、取り出し片目を閉じて、ウインクをした。


 先程の男性がやってきた。

「お嬢様、テントの準備が整いました」

 と汗を拭う。

 その後、二、三、言葉を交わし、アレン達は、テントへと移動する。


 テントの中には、寝台が一つ、置いてあった。

「じゃ、お休みなさい」

 意味深な眼差しをアレンに向けると、手を振りながらエリーは去っていく。


 アレンは小さく溜息をつき、腕に絡まったままのリズを寝台に寝かせ、布団を掛けてやる。


 小さな寝息が小刻みに響く。


「まるで、人だな」

 彼は、リズの額を撫で、愛おしそうに見つめると、隅の方に移動し、そこへ腰を下ろし、あぐらをかく。

 次に、地に剣を立て、体重を預け、目を閉じた。


「リズの奴、魔力を勝手に使いやがって」

 アレンは、朝の一件を思い出す。


 突然、現れたリズは、転移の魔法を使っていた。

 それは、高位の魔法で、かなりの魔力を消費する。


 アレンの剣であるリズは、自らは魔力を持っていない。

 そして、彼の魔力は、人並みだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ