プロローグ マチカドのカタリベ
街角に男が座っていた。使った後の雑巾のように汚らしい格好の男で、顔には下卑た笑いを貼り付けている。浮浪者そのものといった風貌の男だったが、不思議なことに男の前には子供が数人、大きな目をきらきらさせている。
男が語る。
何年前のことだろう。数十年、いや、数百年……。とにかく、とても昔さ。
おいらのばあさんが生まれるよりも前のこったな。
ある日突然、それは現れたのさ。
かぷかぷ、かぷかぷって笑いながらな。正体は分からねえ。今でもな。不思議なそれのことを当時の人々はクラムボンと呼んだそうだ。そいつぁ、それはそれは不思議なもんでさぁ、飛んだり跳ねたり笑ったり、忙しそうにくるくる回るんだとよ。
で、気が付いたら街がなくなっていたんだと。人も動物も建物も、みんな、なくなっちまったんだと。
政府は国力を総動員して復興を目指したんだ。
その結果が、ほら、これさ。
歯車が回り、蒸気がもくもく、電気がビビビッ。この国が誇る技術は全て、クラムボンの災厄の後に発展し、今に至るっつうわけだな。
破壊するだけじゃねえ、新たな国づくりのきっかけにもなったのさ。
子供達は興味深そうに男の話に聞き入っている。
物語は佳境に入り、男が両手を振り上げる。先の大戦で負傷したのか、それとも工場で事故に遭ったのか。男の右手は小さな歯車がぐるぐる回り、ぷしゅぷしゅといいながら伸縮する金属の腕であった。
街角のそんな風景を横目に、キャスケットを被った少年がメッセンジャーバッグを揺らしながら駆けていく。