理沙 ドキドキと君の熱
今日は、私と由実の、大学の合格発表。
もし、どっちかでも落ちていたら、――なんて考えると、それだけで、寒いからじゃなくて、膝がガクガクと震える。
「理沙、理沙ぁ……?大丈夫だって、きっと……」
そういう由実も、服の袖を握る手が、声が震えてる。
やっぱり、恐いんだ。緊張してるんだ。そう思うと、ほんのちょっとだけ安心する。
「ねえ、由実……、リラックスできるおまじない、してあげよっか?」
耳元で囁いてみると、「……お願い」と返してきた。その顔が、赤くなっていて。
愛おしくて、物陰に引っ張り込む。由実の体は、抵抗もなくついてくる。
その体を、軽く抱きしめる。うちのことを見上げてくる由実の顔は、戸惑っているようにも、恥ずかしがってるようにも見えた。
「どう?落ち着いた?」
由実に、『おまじない』はどうだったか聞いてみる。厚着をしていても、由実の温もりが伝わって、うちは落ちつけたけど。
「うぅ……、さっきよりドキドキしちゃったよ……」
胸の中で、へたり込むように胸に埋もれる由実。身長差があって、合わないはずの目線が合ったことに、はっと気づく。
「もしかして、……キスされると思ってた?」
「な、なんで気づくのぉ……」
やっぱり、由実ってば、かわいい。キスしてあげたい。
「……してほしいなら、ちゃんと言ってくれないと、わかんないよ?」
ほんのちょっとの悪戯心。やっぱり、由実の口から、ちゃんと聞きたいな。
「理沙のいじわる、……ちゅー、してくれなきゃ、許してあげないから」
拗ねた表情は、隠れてよく見えない。ほんのちょっとだけ見えた顔は、さっきよりも赤くなっていて、顔から湯気が出ちゃいそうに見えた。
「もう、かわいいよ、由実……こっち向いて?」
髪を、軽く撫でる。くすぐったそうに、由実の首がよじれた。
由実の顔を両手でそっと包むようにして、視線を合わせる。目が合ったのは一瞬で、もう、由実の目は閉じていて、うちの体の場所を確かめるみたいに軽く抱いていた。
由実の唇に、軽く、唇を載せるように重ねる。
一瞬で離したのは、そのまま、もっと深いことまでしたくなる衝動に駆られてしまいそうだから。
「はぁ……、理沙ぁ、好き……っ」
もう、由実の心が、とろとろに溶けちゃってる。そんなとこが大好きだけど、今日はいつもみたいにはいかない。
「もう、由実?大学行かないと、人で溢れて大変なことになっちゃうよ?」
「う、……そうだね」
ただでさえ1万人近くの人が来るし、由実とは掲示場所が別々になる。早いうちに行っておかないと、そのままはぐれてしまうかもしれない。
自然と、互いの指がお互いを求めあう。繋がった手から感じる温もりは、それだけでちょっと安心する。
しばらく歩いて、辿りつくと、もうそこにはたくさんの人で溢れて、ガヤガヤと賑わう声がする。
「こんなに多いと、待ち合わせもしづらいね……」
「じゃあ、結果は、ラインにしよっか」
本当は、由実の言葉で聞きたかったし、私の声で伝えてあげたかったけど、仕方ない。
分かれて、由実の姿が見えなくなった途端、また足が震えだす。だって、由実と一緒に暮らすというのも、私が言ったことなんだから。
ようやく、掲示板までたどり着く。なんとか目の前まで潜り込んで、自分の受験票を掲示板に乗った番号を交互ににらめっこして。
――見付けた。心臓がドキドキ言って止まない。受験票と自分の番号載った部分を写真に撮って、そこから抜け出す。
そのとき、電話が鳴った。由実からの電話で、慌てて出る。
「あ、由実……、どうだった?」
『私……受かったよ?』
「由実いっ、私もっ!」
涙が出そうになる。ずっとずっと、この時のために勉強してきたんだから。
『う、うん、……やったね、理沙ぁ……っ』
「そうだね、由実……っ」
電話の向こうの由実も泣いてるみたいだった。ほっとして、それ以上に嬉しくて。
「じゃあ、切るよ?」
『あ、待って』
「どうしたの?」
『今、理沙が見えてる気がするの』
慌てて見回して、電話している由実の姿が見えた。
「うちも、由実のこと見つけた」
そのまま、近づいて、ちゃんと間違いないと分かって駆けだした。
走った勢いのまま、由実に抱きつかれた。それを、抱きとめて支える。
「理沙、理沙っ……」
「由実ぃ、よかったよぉ……」
大袈裟じゃなくて、本当に嬉しくて泣いた。こんなに泣いたのって、いつ以来だろうってくらい。
「ねぇ、……キスしよ……?」
由実の言葉に、辺りを見回す。うちらに気づくような人は誰もいなかった。
「……うんっ」
そのまま、唇が重なる。さっき重ねたときより、遠慮なく。
重ねただけのキスは、啄むような激しいキスに変わっていく。
涙が、口に入って、ちょっとしょっぱい。
でも、それ以上に、甘くて、熱い。
このまま、体が溶けて混ざっちゃうんじゃないかってくらい。
由実の息がどんどん激しくなって、慌てて離す。
見つめ合った目が、とろんと蕩けてるのがかわいくて。
「二人暮らしになったら、いっぱいしよっか」
「そうだね……」
誓いのキスみたいに、もう一回。
二人の日々は、もっともっと幸せでいられるんだって、気づけた気がした。
またこんな時間まで書き下ろしてしまった
地味に書いたことないし交互にしようと書いてしまった
読みづらくしてすいません、感想ください。