由実 溶けていく心
おかげさまで今作も総合評価10pt到達しました。
「ねえ、理紗……」
「なぁに?」
また生返事が返ってくる。最近、こういうことばかりだ。
休み時間に会いに行っても、二人でご飯を食べてるときも、ずっと英単語帳を睨むように見つめてる。
昼休みの『用事』も、もう全然なくなった。
あと4か月くらいに受験があるのは分かってるし、一緒の大学に入るために頑張ってくれてるのはわかる。だけど、――
私にも、ちょっとはかまってよ。そうしないと、拗ねちゃうよ?
中庭で二人きりのとき、つい訊いてしまう。
「私と勉強、どっちが大事なの?」
我ながら、ずるい言い方だと思う。
玉ねぎをつまんでた箸を置いて、理沙はこっちに向き直る。
「由実のほうが、大事に決まってるでしょ?」
困ったように、でもまっすぐにそう言われる。聞きたかったはずなの言葉なのに。なんで心がもやもやするんだろう。
「じゃあ、なんで……」
続けようとした言葉よりも、理紗の言葉のほうが早かった。
「だって、由実と同じ学校行って、一緒に暮らそうって約束したじゃん」
「そうだけど……っ」
理沙は、私に優しくしてくれてる。だけど、その優しさについ反発してしまう。まるで、駄々をこねているみたいだ。
「ずっとかまってあげられなくてごめんね?でも、これからもずっと由実といたいの」
言われた瞬間、涙が溢れそうになって、止められなくなった。
私のこと、こんなに大事に考えてくれてるのに。
変なこと言って、理紗のこと困らせた。
「ごめんね、理紗ぁ……私、」
俯いた私の目の前に、理紗の顔が見えて、そっと唇を唇で塞がれる。
「ううん、いいよ?」
弁当をベンチの向こう側に置いて、体が触れ合うほど近づいてくれていた。
軽く抱く腕は、私をしっと包み込んでくれる。
「ごめんね、寂しい思いさせちゃって」
理沙がそうさせてた理由は、私の幸せを考えてたからなのに。
何で、そんなに優しくしてくれるんだろう。
「ううん、私が勝手に寂しくなっただけだし……っ」
「そんなこと、否定しないでいいよ?」
「何、で……」
「だって、それだけ、私と一緒がいいってことでしょ?」
改めて気づかされて、顔の奥から火照っていく。
髪を優しく撫でる理沙の手は、心を落ち着かせて、心の中の不安を少しづつ消していく。
涙は、いつの間にか止まっていた。
「もっかいキスしてあげるから、もうちょっとだけ我慢してくれる?」
「……うんっ」
どれだけ私のこと、大事にしてくれてるのか分かったんだから。
いくらでも待つよ、理紗のためだから。
いつもより、少しゆっくり近づいてくる理紗の顔。
こらえきれずに、私からも近づける。
……ちゅっ
いつもより、顔が熱くなる。
好きっていう熱量を、いつもより多く感る気がする。
離されても、まだその余韻はなかなか解けない。
「由実の顔真っ赤、さくらんぼみたい」
「もう、からかわないで?」
「仕方ないじゃん、好きなんだもん」
そっと、頭を撫でてくれる、触れる手も、心も優しくて。
そんな理紗に好きでいてもらえる私は、幸せ者なんだな、って気づいた。
感想が欲しい症候群と評価欲しい症候群を併発しているので助けて。