由実 言えない悩み
修学旅行も明けて、もうすぐ2か月。学校生活がようやくいつものようになってきた気がする。
でも、一つできた、私の悩み。
理紗と、もっと、ちゅーとか、恋人らしいことしたいな。
二人じゃないとできないような「特別」を、もっともっと、積み重ねたい。
もっと、理沙とドキドキしたい。
そんなこと言ったら、今も十分幸せなのに、バチが当たっちゃうかな。でも、もし理紗もそう思ってたら、すっごく嬉しいし、……ちょっと前の、理沙の気持ちに気づけなかったときの自分が聞いたら、贅沢だな、なんて思うんだろうな、きっと。
それでも、あのとき、初めてしたときの感触が、忘れられない。とろけてしまいそうなくらいに甘くて、そっと撫でられるみたいに優しい。言葉も、声も、唇も。もっともっと、そうしてたいって思うのは、間違ってないと思う。
「由実、なんか今日ぼーっとしてるね」
不思議そうに言う言葉は、ずっと考えてた理沙のもので、思わず体が固まってしまう。
「う、うん……、ちょっと考え事してて」
「私でいいなら、相談訊くよ?」
理沙は優しい。でも、そのやさしさに、今は困ってしまう。
だって、理紗と、もっといちゃいちゃしたいし、いろんなことしたいなんて。
こんなえっちなこと、恥ずかしくて、とても言えない。
でも。
「……理紗のこと、考えてた」
そうやって何も言わなくなって、嫌われたんじゃないかって思い込んでしまったとき。不安と焦りが胸の中を渦巻いて、冷え切ってしまった心は軋んで、とてつもなく痛くて、もう二度と味わいたくないくらい苦しかった。
もう、絶対あんなふうにはなりたくないし、させたくない。
だから、理紗と、ちょっとしたことでいいから、いっぱい話そう、って、そのときから心に決めた。
「もう、由実、反則だって……」
急に顔を赤くする理紗に、なんか変なこと言ったかな、と心が冷える。
それを、理紗の肌が、思い切りあっためてくれる。抱きしめられた、と思考が追いついて、今更みたいに顔が熱くなる。
「理紗っ、いきなり何して……」
「だって、……由実が、かわいいんだもんっ」
拗ねたようにも、甘えたようにも聞こえる理紗の言葉は、心をいいだけくすぐって、甘い余韻を残す。
もう、理紗ってばずるい。
近づいた顔に、胸の奥はおかしなくらい跳ねる。
ちゅーして、くれるのかな。なんて、不埒な期待が頭をよぎる。
目を閉じると、デコピンされた。
「ったぁ……」
もちろん優しくだけど、不意を衝かれてびっくりした。
「もう、こんなとこでできるわけないでしょ?……恥ずかしいし」
今の理沙、かわいい。
下に傾きかけた『好き』のゲージが、一気に振り切れた。
感 想 く だ さ い ( 切 実 ) 。