由実 おくりもの
そろそろ、理紗と二人暮らしをしてから1か月。いろいろな意味で、新しい暮らしにもようやく慣れてきた。
そして、理紗と始めたバイトのお給料が、初めてやって来た。……せっかくだし、何か、プレゼントしたいな。
珍しく、理紗より早く講義が終わる日で、内緒で贈り物を買うにはちょうどいい。
何をあげたら、理紗は喜んでくれるかな。いつも、「由実がくれるのは何だって嬉しい」って、優しく言ってくれるけど、それでも、理紗が一番喜んでくれるものがよかった。
ちょうどよくそんなものが見つかって買うと、ちょうど今から戻れば理紗の受けてた講義が終わる頃になる。
何食わない顔で理紗と合って、自然に繋がった手をそのままにして、帰り道に向かう。
「ねえ、帰りにケーキ買わない?お給料も出たし」
「そうだねー、どこにしよっか」
なんて話が、いつの間にか広がっていく。本当は、緩んだままのほっぺたを隠すためだったのに、理沙と話すのが、楽しくてしょうがなくなっていて。
私、理紗のこと好きだなー、なんて今更だけど思う。緩んだ顔は、きっと理紗とおはなしできるからだって思ってくれる。
いつもより短く感じた帰り道。理紗のつないでないほうの手には、さっき買ったケーキが二つ。
「ただいまー」
「おかえり、理紗」
「もー、由実だって帰ってきたばっかでしょ?」
そんな事いいながら、ただいまのちゅーをする。そんなことが、私の中に「幸せ」のかけらとしてたまってく。
でも、まだ渡せないのがもどかしい。自分のバッグに隠したままだから、取り出せるのは理紗が一人でお風呂に入る間だけ。
待ちかねてる時間は、なかなかやっては来ない。二人でご飯食べたり、おしゃべりしたり、ふたりでいる時間は、すごく楽しいけど。
理紗の喜ぶ顔、早く見たいな。そんな気持ちが、私の中で湧いて、じれったくさせる。
「じゃあ、お風呂先入るね?」
「うん、わかった」
二人で入るときよりも広い湯船に足を伸ばす。
一人だと、こんな広かったっけ、……理紗のこと考えてるから、二人のときを想像してしまうのかもしれない。
そんなことをずっと思っていると、思ったより長湯してしまった。慌てて体を洗い、お風呂から出る。
「理紗ぁ……、お風呂空いたよ?」
「うん、わかった」
そう言って脱衣所に向かうのを確認して、鞄の中の渡したいものを、そっと取り出す。
理紗がつけてたテレビを見る気にもなれずに、二つ買ったそれを見比べる。気に入ってくれるかな、ってちょっと不安になる。
二人でソファーに座るとき、ふと横を見ると、理沙の笑顔。それが、私に勇気を持たせてくれた。
「あのね、理紗…?」
「なぁに?」
「渡したいものがあるの、……目、閉じて?」
理紗が目を閉じたのを見て、そっと腕をとる。そして、手首に付けて。
「もう、いいよ?」
「これ、……腕時計?」
「うん、そうだよ?」
時計だったら、どこでも気兼ねなく付けられるし、いつでも一緒にいるよ、って思える。
「嬉しいよ、ありがとう」
そういって抱きしめる理紗の手を、慌てて抑える。
「待って、……」
「何?」
もう一個、手に取る。
「お揃いにしたくて、……これ、私に付けてくれる?」
プレゼントに込めた、もう一個の意味は、――『永遠』を表す時計を二人で分かち合って、同じ時間を過ごそうね、ということ。
「うん、分かった」
満面の笑みで応えてくれる理紗は、その意味に気づいてくれてるのだろうか。
理紗の手から私の手に。互いの熱を持った時計が手首に巻きつく。理紗の手についたものと当たって、かすかな音が鳴る。
「うちからも、渡したいのがあるんだ」
不意に言われた言葉に、胸の奥が跳ねる。
「何?」
「いいから、目、閉じて?」
逸る気持ちを抑えられて、一緒に、何をくれるかもわかった。
何も見えないのに、理沙の触れる手を感じる。そして、重なったくちづけがお互いの体温も気持ちも伝え合う。
「由実みたいに素敵なもの、あげられなくてごめんね?」
「ううん?ていうか、こっちのほうが嬉しい」
「よかったぁ……、でも、まだ全然足んないや」
さりげなく、理紗に片手だけで時計を外される。机の上に隣り合わせで置かれて、次に眼鏡も。
「な、何……?」
少し恐くなってつい聞いてしまう。手を引っ張られて思わず立ち上がってしまう。いつもの理紗なら、そんなことしないのに。
「もっと、あげたいのがあるんだけど、……嫌だった?」
眼鏡を外されて、ぼやけた視界でも分かるくらい赤くなった理紗の顔で、ようやく意味に気づく。
「ううん、……もっと、ちょうだい?」
電気が消されて、そっとベッドに押し倒される。急に鼓動が激しくなって、胸がきゅぅっと痛む。
「もう、由実?」
理紗の顔が、はっきり見えるくらい近い。唇から紡がれた言葉が、やけに耳に残る。
「……今夜は、寝かさないよ?」
その夜は、今までで一番長かった。
一番長かったらしい夜を書いてみたい感はあるけど問答無用でRつくのでやめとく
感想がほしいです。お願いします。あなたの感想や評価やブクマが書く糧になります。




